3.気候変動対策を提唱する者と化石燃料利権を代表する者の対立
現時点で2023年が観測史上最も暖かい年になることはほぼ確実である。また、過去の記録とのギャップも大きい。今年の世界の平均気温は産業革命前の水準を摂氏 1.4度上回っている。過去数カ月間では、次々と気候関連の大災害が発生した。今年の世界の平均気温は、産業革命以前のレベルを摂氏1.4度上回っている。ヨーロッパと中国で記録的な熱波(heat waves)が、カナダでは記録的な山火事(wildfires)が、10月にはアカプルコ(Acapulco)を直撃する前に記録的なスピードで勢力を強めたハリケーン・オーティス(Hurricane Otis)が、11月初旬にイタリアに記録的な大雨をもたらした弾丸低気圧シアラン(Storm Ciarán)が発生した。このような極端な状況の一部は、6月に発生し来春まで続くエルニーニョ(El Niño)の影響によるものである。しかし、ほとんどは気候変動の影響である。
現時点では、急激かつ大幅な排出量削減を行ったとしても、世界の気温上昇を摂氏 1.5 度以内に抑えることは不可能であろう。一時的に抑え込むことさえ不可能である。気候変動に関する政府間パネル(the Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動の科学的評価と明確な科学的見解の提供を担当する国連機関)は、この春、最新の統合報告書を発表した。その報告書の筆者の1人であるアイルランドのメイヌース大学(Maynooth University)の気象研究者ピーター・ソーン(Peter Thorne)は、「短期的な排出量の増減に関係なく、おそらく今後5年間で気温が1.5度上昇することが判明している。」と語った。
こうしたことを踏まえると、COP28が地球上で最も暑い場所の1つであるUAEで開催されるのは意義のあることである。数年前にサイエンス・アドバンス(Science Advances)誌に掲載された論文によれば、ペルシャ湾沿岸では短期間だが既に気温が人間の耐えられる熱さの限界を超えているという。また、先月にアメリカ科学アカデミー紀要(the Proceedings of the National Academy of Sciences)に掲載された論文によれば、ドバイは最も危険にさらされている都市の1つで、 限界を超えた状態にあるという。しかしながら、UAEは、移民労働者が市民の10倍もいて、非常に裕福な国でもある。余裕のある者たちは、屋内のゲレンデでスキーを楽しんだり、プールに氷を運び入れたりして暑さをしのぐことができる。
UAEがCOP28の議長にスルタン・アル=ジャーベルを選んだことで、この会合はすでに台無しになっているとの見方もある。先日、アル・ゴア(Al Gore)元副大統領は、「成功に向けた準備が整っていない状況である。」と語った。今年の春、アントニオ・グテレス(António Guterres)国連事務総長に宛てた公開書簡で、アメリカと欧州の議員約130名がアル=ジャーベルの解任を求めていた。理由は、石油会社のCEOがCOPの議長を務めることは、会議の進行を著しく危うくする懸念があるからである。COP28はこの書簡に反応し、アル=ジャーベルを擁護した。彼には、エネルギー全般にわたる豊富な知識と経験が備わっているという。また、以前に国営再生可能エネルギー会社マスダー(Masdar)を率いていた経験もあり、UAEの気候変動に関する革新的取組みの旗振りをできる傑出した人物なのだという。
COP28の準備が佳境を迎えているが、これまでのところ、アル=ジャーベルはほんの数回しかインタビューに応じていない。私もインタビューを申し込んだのだが、無下に断られた。彼が応じた数少ないインタビューの1つはタイムズ紙(the Times)によるものである。彼は、気候変動対策の進展が遅れているのは化石燃料利権のせいではないと主張している。また、むしろ問題なのは、強力な気候変動対策を提唱する者たちと化石燃料利権を代表する者たちがお互いを中傷し合っていることだと主張している。
「どの産業に問題があるとか、どの業界が悪いと非難している場合ではない。」と、彼は言った。「排出量削減の取組みでは、総排出量の削減にこそ焦点を当てるべきで、特定の産業を責めるべきではない。石油産業であろうと、ガス産業であろうと関係ないことである」。