The Slow Crash on Wall Street Likely Isn’t Over Yet
米国株式市場は、じりじり下げる嫌な展開が続く。まだ、底は見えない・・・
As tens of millions of Americans watch the values of their retirement savings decline, many of them are asking what is causing the sell-off and when it will end.
何千万人ものアメリカ人が自分の老後資金の価値が下がっているのを目にしています。彼らの多くは、暴落している原因が何であるかを知りたがっています。また、いつになったら下げ止まるのかということも知りたがっています。
By John Cassidy May 14, 2022
6日連続で下落していた米国の株式市場は、金曜日(5月13日)に反発し、3指数(ダウ平均株価、ナスタック総合株価指数、S&P500種指数)ともに上昇しました。ナスダックにいたっては、2020年11月以降最大の上昇幅3.8%を記録しました。また、悲惨なほど下落していた暗号資産もいくつかは急上昇しましたので、多くの投資家が少しは救われた気分になったのではないでしょうか。しかし、状況を冷静に分析する必要があります。楽天的になるのはまだ気が早いのではないでしょうか。
金曜日に株式市場は反発したわけですが、週間で見ると、ダウ、S&P500、ナスダックは3指数ともに2%以上下落しています。ロイター通信によると、ダウは7週連続で下落しており、これは1980年以降最長の記録となりました。近視眼的に物事を見るのではなく、もう少し俯瞰して分析して見ると、株式市況が良くないことを認識できるのではないでしょうか。この半年で、ナスダックは26%、S&P500は14%、ダウは11%も下落しています。個別銘柄を見れば、それ以上に暴落している企業がいくつもあります。ネットフリックス(Netflix)とペロトン(Peloton)の株価は、ともに約70%も下落しています。
暗号資産は、さらに悲惨な状況のようです。昨年11月以来、ビットコインの価値は半減しましたし、暗号資産取引所のコインベース(Coinbase)社の株価は80%弱下落しています。今週初めには、ステーブルコイン(価格の安定性を実現するように設計された暗号資産)であるTerraUSDが1ドルの価値と紐付けされているのですが14セントまで暴落しました。また、Terraで使われているガバナンストークンであるLunaは実質的には無価値になってしまいました。
暗号資産に投資するような者は、投資というよりは投機をしているわけで、果敢にリスクをとる人であるか、あるいはリスクを全く理解していない人であると思われます。ですので、巨大な損失を被っても致し方無いのかもしれません。しかし、現在、問題なのは、安全性を重視して保守的な投資行動をとっている何千万人ものアメリカ人が、401(k)やその他の老後資金の価値が毎月下がり続けているのを目にしなければならないことです。彼らの多くは、このだらだらと続く資産価値の暴落の原因が何であるのか知りたいと思っているでしょう。同時に、それがいつ終わるのかということも知りたいと思っていることでしょう。2つ目の質問には答えるのは非常に難しいのですが、1つ目の質問には3つの単語で答えることができます。そう、資産価値の暴落の原因は、the Federal Reserve(連邦準備制度理事会。以下、FRB)にあります。
昨年11月に、パウエルFRB議長は、インフレ率が6.2%と31年ぶりの高水準となったことを受けて、中央銀行としてしかるべき対処をする準備を進めていることを示唆していました。また、今年3月には、労働省が発表したインフレ率が40年ぶりの高水準となる7.9%に達したことを受けて、FRBはFF金利を0.25ポイント引き上げると同時に、年内にあと6回の利上げを実施する可能性を示唆していました。パウエル議長は、利上げをすると決定した3月のFRBの政策決定会合の雰囲気について言及していました。彼は、定例記者会見で、「今日の決定会合では出席者全員が、インフレ抑制を最優先する必要があることを認識していました。そのために、我々はあらゆる手段を行使する決意である。」と語っていました。
金利が上昇すると株式相場が下落しやすい理由は、少なくとも2つあります。1つは、単純な算数の問題です。理論的には、株価は、簡単な計算式で表すことができます。その計算式の分子は将来受け取れる配当金(あるいはキャッシュフロー)で、分母は金利になります。ですので、分母の数値が大きくなれば、株価は下がります。その計算式は、個別銘柄の株価にも当てはまりますし、株式市場全体にも当てはまります。
もう1つは、より現実的な理由です。金利が上昇すると、住宅や自動車等を購入するための借入コストが上昇し、消費が抑制され景気が減速します。その結果として、株価が下落します。減速が急激な場合には不況に陥ることもあります。過去5回の不況の内、1981-82年、1990-91年、2001年、2007-2009年の4回の不況は、FRBが金利を引き上げた直後に起こったものです。唯一の例外は2021年の不況で、これは新型コロナウによるロックダウンが原因でした。FRBがインフレ抑制のためには無制限の利上げも辞さないという姿勢を見せたわけですが、それを受けて投資家がより慎重になるのは当然のことです。
実は、株式市場が低迷する原因は他にもあります。それは心理的なものです。案外、これが一番大きいのかもしれません。過去の歴史を振り返ると、金利上昇と景気後退には相関関係があるようですが、投資家の多くは、何やかんや言っても最後にはFRBが投資家を救ってくれると信じているようです。彼らは、もし株式市場が深刻な事態に陥ったとしても、中央銀行が介入して株式市場を下支えしてくれると信じているのです。アメリカの株式相場は、”Fedプット”(FED put)と呼ばれる神話に取り憑かれており、多くの投資家がFedが利下げによって米株式相場を支援してくれるだろうと信じてきたのです。(プットとは、投資家に将来のある時点で株式を一定の価格で売却する権利を与える金融契約で、これにより下値が限定される)。
Fedに対してそのような信頼を多くの投資家が持っているわけですが、それは希望的観測に基づくものではありません。経験則から信頼を持つようになったのです。1998年に巨大ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(以下、LTCM)で問題が発生した時、市場は大混乱に陥りました。当時、マエストロとも評されるアラン・グリーンスパン議長の指揮の下、FedはLTCM危機によってパニック寸前であったウォール街を救いました(急激に金利を引き下げた)。しかし、結果的に、過剰な通貨供給が為されたので、ドットコムバブルがさらに 1 年半も膨張し続けました。世界金融危機の最中には、Fedはバーナンキ議長を中心に金利をほぼゼロにして、量的金融緩和を実施しました。数兆ドルで市場から金融資産(主に国債)を買い入れました。2020年3月には、新型コロナのパンデミックによってウォール街がパニックに陥りかけたのですが、Fedはすぐに大恐慌の際と同様の対策を実施しました。2020年3月1日から2021年12月1日の間で、ナスダック総合株価指数は2倍になりました。ミーム銘柄では、株価が打ち上げ花火のように急激に上昇したものがいくつもありました。また、その間、ビットコインの価値は6倍にもなりました。
現在、多くの投資家が、Fedプットなるものが存在しなくなったのではないかと懸念しています。パウエル議長らFedの理事たちは、既に低金利政策と量的金融緩和策を止めました。また、来月(6月)には、近年購入した債券の一部を売却し始めるようです。パウエル議長の発言も以前とは大きく様変わりしています。このところパウエル議長は、「金融引き締め策」を実施すべきであると繰り返し発言しているわけですが、それは、融資金利の上昇を意味しますし、株式相場の下落を意味します。先週、彼は記者会見で「市場を十分に注視し、金融市場が十分に引き締まっていないと分かれば、適切な行動を取る必要がある。」と述べました。この発言からFedの思惑を読み解くことができます。おそらく、Fedは、インフレ抑制のためには株式市場がさらに下落しても致し方ないと考えているようです。
Fedは、どのくらいまでの株式市場の下落を許容するのでしょうか?株価水準が以前の水準に戻るとしたら、かなり先の話だと思われます。株価の評価指標としてよく使われる株価収益率(PER)を見てみたいと思います。S&P500の場合、1880年からの平均の株価収益率(PER)は約16倍です。現在の株価が下落した局面でも、PERは20倍程度です。株式市場がかなり下がったとはいえ、PERから推測すると、さらに20%くらい株価が下がる可能性があります。しかし、過去のデータを見ると、相場は下降する時も上昇する時と同様にオーバーシュートする(行き過ぎる)ことが多いので、20%を超えて下落する可能性も少なからずあるようです。
もちろん、何が起こるかは誰にも予測できません。ですので、必ずしも、悲観する必要はないのかもしれません。金曜日(5/13)に株式市場が反発したことを見ると、「下がったところで買え(buy on the dip)」という心理が米国株式市場に根付いていることが窺えます。しかし、Fedがインフレ率の抑制を最優先している以上、一般投資家は慎重になるべきだと思います。いつの時代でも、金利が上昇して相場が乱高下する局面では、つっかえ棒が折れたように一気に暴落する危険性があります。TerraUSDの価値の乱高下やLunaの実質無価値化を他山の石とすべきです。おそらく、今回の暗号資産の暴落騒動で失われた金額は、金融システム全体を脅かすほどのものはなかったと思われます。それはアラートだったのです。株式市場でも同様のことが発生する可能性があると認識すべきです。今こそ、過去の大暴落がどんなものだったかを思い出すべきです。
以上
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