The U.N. Announces the Hottest Year
国連が今年が最も暑い年と認定
The climate heated up, but clean energy did, too.
地球が加熱し、クリーンエネルギーは加速した
By Bill McKibben December 12, 2023
2023 年が始まった時、世界の気候系( climate system )の崩壊が進行しつつあるが、気温は前年と大きく変わらないだろうと予測されていた。太平洋上のラニーニャ現象( La Niña )が終わりつつあったし、この数年間の地球の気温は記録的な水準に近かったものの、それでも強力なエルニーニョ現象が発生した 2016 年を超えることはなかった。2016 年は、オーストラリアからアラスカまで異常な熱さで大混乱に見舞われ、史上最高の熱さを記録した。太平洋の海面に温かい海水の塊が新たに形成され始めていたが、多くの気象専門家の予想では、異常な熱さを記録して大混乱が引き起こされるのは、2023 年ではなく、2024 年だとされていた。気象専門家によれば、2024 年は産業革命前の気温を 1.5 度 C 上回る可能性があるという。その数字は、8 年前のパリ気候サミットで掲げられた努力目標と同じである。
2023 年はそれほど暑くならず、2024年に暑くなるという予測は当たらなかった。悲惨なことがずっと前倒しで起こったのだ。今年の春、多くの気象観測機関のデータから、地球の海面水温が過去の最高記録を超えていることが判明した。 7 月、フロリダ州キーズ諸島( Florida Keys )沖の観測ブイが、華氏 101.1 度(摂氏 38.4 度)を記録した。これは、一部の気象学者によると過去に測定された最高の海水温と推測されている。ほぼ風呂の適正温度である。その極度の暑さはすぐに陸上に伝わった。北半球は南半球に比べて陸地(海より暖かくなりやすい)が多いため、その時期は常に地球全体の気温が上昇する。ある気象専門家がワシントン・ポスト紙( the Washington Post )で報告したところによると、各地の気象専門家たちが地球上のすべての気象観測施設、船舶、海洋ブイ、人工衛星等のデータを集計し平均値を算出したところ、7 月 3 日に地球は観測史上最も暑い日を記録したという。気温の記録は数世紀しか遡れないが、気象専門家たちは氷床コアや湖の堆積物から過去の気温を推定することができる。そうした推定によれば、この日は少なくとも 12 万 5 千年間で最も暑い 1 日であったという。ちなみに 12 万 5 千年前というと、人類が貝殻を装飾品として使い始めた頃である。7 月 4 日には連続して記録を更新することとなり、さらに 7 月 6 日にも再び記録を更新した。ちなみに、今年の年間の気温(まだ数週間残っているが)は、世界気象機関( the World Meteorological Agency )のデータによると、国連事務総長のアントニオ・グテーレス( António Guterres )が先週ドバイ( Dubai )で開催された気候変動に関する国際会議で語ったように、間違いなく観測史上最高の称号を手にするだろう。
北半球はいつものように、年央から日が経つにつれて太陽から遠ざかり始め、平均気温は観測史上最高の数字からは下がり始めた。気象専門家は気温について年間の最高気温以外の分析も実施している。たとえば、2023 年の 9 月の気温を、記録が残っている過去のすべての 9 月のデータと比較して、日ごとに標準値からの偏差( deviation )を算出している。また、産業革命前の地球が暑くなる前を基準値として比較もしている。それで判明したのは、今年の 9 月は、産業革命前との差が 1.5 度 C を超えたということであった。これは、衝撃的な数字であるし、注目に値する象徴的な数字でもある。この 11 月にも驚くべきほど暑い日があった。感謝祭の前の金曜日( 11 月 17 日)は、産業革命前を基準とすると 2 度 C も暑かった。わずか 8 年前に署名されたパリ協定( the Paris accords )は、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前の水準から 2 度 C 未満に抑える」ことを世界にコミットしたわけであるが、すでに 2 度 C 超えを記録したことは驚きであった。このことが必ずしもパリ協定が実現不可能であると決定づけるわけではない。また、気象専門家が 20 年スパンで年間気温の平均値を算出し、それが 1.5 度 C を超えたと結論づけるには数年かかるだろう。これほど早く 1.5 度 C を超えるとは、ほとんど誰も予想していなかった。この夏と秋、私たちはこれまで人類が生きてきた世界とは大きく異なる世界を経験した。それは決して有り難いものではなかった。アメリカでは、雷雨とそれに関連する災害による保険金の年間支払額が初めて 500 億ドルを超えた。カナダでも山火事の影響でその額が過去最高となった。ちなみに、カナダの山火事で排出された二酸化炭素は、カナダ人が 1 年間に冷暖房や調理や飛行機や車での移動によって排出する二酸化炭素の 3 倍であった。
気候災害による被害は、世界の貧しい地域では特に深刻であった。9 月にリビア( Libya )で記録的な大雨が降り、2 つのダムが決壊し、1 万人以上の人々が海に流された。アメリカでは、カナダの山火事の煙が政治の中心地であるワシントン DC まで流れ込んだ。こんなことは歴史上初めてのことであるが、この煙自体が紛れもなく政治家の失態によって生み出されたものなのである。気象専門家の中で最も先見の明のあるジム・ハンセン( Jim Hansen )が 35 年前に上院で証言した警告は、全く無視されてきた。愚かにもそれを無視した結果が、リアルタイムで我々が目の当たりにしている大災害なのである。メキシコ湾流が衰え、前代未聞の大熱波が襲い、気温が華氏 100.6 度(摂氏 38.8 度)を超えたため、恐れを知らないテイラー・スウィフト( Taylor Swift )でさえリオでのコンサートを延期せざるを得なかった。今年の夏の暑さは残酷だった。今年は残酷な 1 年だった。
2023 年 にはもう 1 つ注目すべきことが起こっていた。気温の急激な上昇と同期をとるように、世界中で再生可能エネルギー、特に太陽光発電の導入が急増したのである。過去 35 年間、気候変動を防止するために十分な資金を費やすことは、どこの国においてもそれほど重要視されてこなかった。しかし、クリーンエネルギー導入のコストは大幅に低下しており、現在では地球を救うことが現金を節約することに繋がることも少なくない。クリーンエネルギー導入費用の継続的な下落は 10 年以上続いているのだが、特にここ数年の勢いは凄まじいものがある。見えない一線を越えた可能性さえある。化石燃料に頼るよりも安価になった可能性がある。今年は、コスト削減がクリーンエネルギー拡大に繋がった画期的な年だったのだ。今年の 8 月までは世界中が記録的な熱さに苦しんだわけだが、同期間に、1 日あたり約 1 ギガワット相当のソーラーパネルが設置された。1 ギガワットは原子力発電所 1 基分に相当するわけで、つまり、毎日、原子力発電所が 1 基設置されたのと同じであった。
急増した太陽光発電施設の多くは、世界最大のエネルギー消費国である中国に設置された。EU 加盟国でも設置が急増した(ウクライナ侵攻を受けて、ロシア産化石燃料からの脱却が急速に進められている)。また、アメリカでも急増している。バイデン大統領の肝いりのインフレ抑制法( Inflation Reduction Act )の助成金がクリーンエネルギーのあらゆる面での進歩に拍車をかけた形である。再生可能エネルギーの導入はこの 10 年間は増加し続けているが、化石燃料の生産も増加し続けている。そうした状況なので、クリーンエネルギーを促進しても石炭、石油、ガスを本当に削減することはできないと悲観する者も少なからずいる。しかし、今年のクリーンエネルギーの伸びは非常に劇的であった。温室効果ガスの総排出量をデータから推定したところ、EU とアメリカでは去年よりも減っている。また、中国の総排出量については、今年は減少していないとしても、来年の第 1 四半期から前年を下回ると予想されている。これは想定を 7 年前倒しするものである。これだけの数のソーラーパネルを設置することは、これまでの政策の延長上では不可能だったわけで、今年は潮目が変わった年でもあった。
クリーンエネルギーが爆発的に増加しているが、これは、このまま指数関数的に増加し続ければ、最終的に地球全体の気温の上昇を抑制できるという希望をもたらすものである。しかし、現時点では、地球は人類にとって限界とされる産業革命前の水準から 2.5 度 C もしくは 3 度 C の上昇に確実に近付きつつある。金利の上昇によってあらゆる種類のエネルギーの開発に影響が出始めているが、太陽エネルギーの費用は下落し続けており、その普及を妨げる明らかな要因は存在していない。(たとえば、ある研究によれば、現在エタノール用のトウモロコシを栽培している畑の全てにソーラーパネルを設置するだけで、アメリカで使われるすべての電力を供給できるらしい。)温室効果ガス削減のために、小型原子炉( small nuclear reactor )、大型カーボン吸引機( giant carbon-sucking machine )を含め、さまざまな技術に資金が投じられている。それらは、いつかは気候変動問題の解決に寄与するかもしれないし、しないかもしれない。いずれにしても、非常に期待されているにもかかわらず、すぐには大きな変化をもたらさないだろう。今後数年間、地球の気候系に迫っている崩壊の危機を少しでも遠ざけられるのは、太陽光発電と風力発電と蓄電池だけである。それらは、何と言っても安価である。また、すでに確立した技術がある。
しかし、地球にとって良いニュースはどれも化石燃料業界にとっては悪いニュースである。11 月のロイター通信( Reuters )の報道も正にそうであった。それは、再生可能エネルギーの急増と巨大蓄電池の開発が相まって石油の需要が先細ると予想されたことで、世界中で計画されていた 68 の油田やガス田の開発が中止もしくは延期されたというものであった。もちろん、この業界は反撃する手段を有している。さっそく、アメリカ国内では EV に対する人々の興味を弱めようとしている。また、国外では、化石燃料の輸出先を確保し囲い込むことに必死である。先月、気候報道センター( the Centre for Climate Reporting )とBBCが独自に内部文書を入手して報じたのだが、アラブ首長国連邦は今月開催の気象変動に関する会議で議長職の立場を利用して、世界中の国と石油とガスの取引を行うことを目指していた。一方、サウジアラビアが超音速ジェット機の復活を目指しているアメリカ企業に投資していることが判明した。それは、通常の飛行機と比較すると乗客 1 人当たりの燃料を 3 倍も消費する。しかし、この業界の傲慢さを最も如実に示す場所は、アメリカ国内にある。テキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地( the Permian Basin )である。アメリカ国内の原油の需要が減少しているにもかかわらず、アメリカの多くの石油関連企業が記録的な量の石油を算出している。そして、より多くの石油を海外に輸出しようと企んでいる。
残念ながら人類が気候変動との戦いに完全に勝つことができないのは明らかである。現在、ソマリアは壮大な洪水に悩まされており、メキシコシティはしつこい干ばつに直面して水の使用を制限している。しかし、再生可能エネルギーが拡大するにつれ、着実にこの闘いの勝機は増しつつある。もちろん、政治の介入が必要である。来年 11 月の大統領選で共和党候補が勝利すれば、おそらく再生可能エネルギーの拡大気運は萎んでしまうだろう。ドナルド・トランプ( Donald Trump )は、気候変動否定論者で、大統領在任中にパリ協定からアメリカを離脱させた。共和党大統領候補者指名
争いでトランプを 2 位で追うニッキー・ヘイリー( Nikki Haley )も気象変動対策には関心が無いようである。先日、彼女は、ロン・デサンティス( Ron DeSantis )がフロリダ州でフラッキング( fracking:水圧破砕。岩石を砕いてシェールガスを抽出すること)を制限したことを非難していた。気候変動対策は待った無しの状態であり、アメリカが 4 年間も積極的な気候変動対策を止めるとしたら、その影響は計り知れないものとなるだろう。今年、気象変動に関して 2 つの進路が垣間見えた。1 つは全く悲惨で破壊的なものである。もう 1 つは少なくとも少しは救いのあるものである。まもなく来る 2024 年は非常に重要な年で、そこでどちらに進むかが決まる。♦
以上
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