The U.N.’s Terrifying Climate Report
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した報告書の恐ろしい中身
Scientists predict hotter heat waves and worse flooding in the decades ahead, but the catastrophe is evident everywhere this summer.
気象研究者の多くが、今後数十年でより厳しい熱波とより甚大な洪水が発生することを予測しています。それを証明するかのように、この夏は至る所で大災害が頻発しています
By Elizabeth Kolbert August 15, 2021
1988年、WMO(世界気象機関)はUNEP(国連環境計画)と協力して、仰々しい名前の組織、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)を立ち上げました。IPCCという組織は、その名前からして不格好ですが、あまり上手く機能していません。IPCCが報告書を発信する際には、その報告に携わった研究者だけなく、IPCC加盟各国(現在の加盟国数は159)の政府の承認を得なければなりません。多くの関係者が言及していましたが、そういった仕組みのせいで、組織として上手く機能していません。IPCCのそうした仕組みが構築されたのは、レーガン政権の意が反映したことが一因です。実際、IPCCが1990年に最初の報告書を発信した際には、その報告書がそのまま発表されると産業界が影響を受けるので、加盟各国から横槍が入り、内容は差し障りのないものに修正させられました。それ以降もIPCCは5~6年毎に報告書を更新していますが、毎回同じようなことが起こっています。
先週、IPCCが報告書を出しましたが、それを読む際には、IPCCは前段で述べたような組織であるということを考慮しなければなりません。IPCCは報告書の簡易版も出していますが(いわゆる政策立案者用の要約版)、それでも41ページあります(完全版の1%)。完全版では、延々と専門的な記述が続き、かなり高度な内容まで掘り下げられています。簡易版を読んだだけでも、ぞっとします。報告書によれば、人間の活動によって、地球は摂氏1度以上(華氏2度弱)も温暖化したということです。現在、地球の気温は過去12万5千年のどの時期よりも高くなっていますし、また、人為的に温暖化が引き起こされた結果、激しい熱波、激しい暴風雨、より激しいサイクロンが生み出されています。今後数十年で、もっと酷い熱波、酷い洪水が発生すると予想されています。現在では激甚災害とされているレベルの自然災害が、毎年のように発生するようになるでしょう。ツイッターで、環境活動家のグレタ・トゥーンベリは、「IPCCの報告書は多くの研究と報告書ですでにわかっていたことを確認したもので、最善の科学をまとめた、信頼できる(しかし慎重な)ものである。」と言及しました。国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、IPCCの報告を受けて「人類にとって非常事態だ。」との声明を出しました。
地球が温暖化していることは、近頃では、気象専門家でなくても容易に分かるような状況です。英国のイーストアングリア大学の気象専門家で、IPCCの報告書の作成にもかかわった1人であるコリーヌ・ルクイエールは、ワシントンポスト紙に、「誰もが地球温暖化に気付いています。誰もが肌感覚で実感できる状況ですからね。」と語っていました。IPCCの報告書が発表される直前には、サクラメント市の北東部で大規模な山火事(山火事の始点となった通りの名称にちなんでディキシー・ファイヤと名付けられた)がありました。ディキシー・ファイヤは、カリフォルニア州で記録された単一の山火事の中で最大のものになりました。昨年8月に起きた山火事(2020年8月複合火災)が過去最大のものですが、あれは単一の山火事がいくつも合わさってものでした。水曜日(8月11日)に、米国立気象局は「西海岸から東海岸まで厳しい熱波に覆われる。」と警報を発しました。米国では2億人もの人が、暑さによる注意報や警報がその日に出たエリアに住んでしました。
先週は、米国だけでなく、世界のいたるところが激しい熱波に襲われていました。シチリア島のシラクーサ市では、華氏119.8度(摂氏48.8度)を記録しました。ヨーロッパの過去の最高気温を更新しました。猛暑に見舞われていたアルジェリアでは、60人以上が山火事で亡くなりました。ギリシャでは山火事が頻発し、首相は「前例のない規模の自然災害」と宣言しました。また、中国の四川省では、集中豪雨による洪水で8万人以上が避難を余儀なくされました。
世界中が温暖化に見舞われていますが、米上院では温暖化に関する討議が繰り広げられていました。火曜日(8月10日)には、上院で共和党と民主党が協力してインフラ投資を含む予算修正法案が承認されました。数十億ドル規模の資金が気象変動対策で使われる計画です。電力供給網のアップグレードや公共交通機関の改善などが為されるでしょう。しかし、それぐらいの規模の投資では、気候変動対策としては全く不十分です。また、結局のところ、気候変動対策に非常に効果が大きいと目される公益事業者に化石燃料の使用を控えさせる条文は盛り込まれませんでした。一方、その予算修正法案の中には、実行すると炭素排出量が増加する可能性のある施策も含まれていました。上院民主党は、もっと優れた修正法案を出すと主張していました。その修正法案は、3.5兆ドル規模のインフラ投資をするというものでした。その修正法案には、沢山の気候変動対策インフラ投資が盛り込まれていましたが、公益事業者がよりクリーンなエネルギー源に切り替えるための助成金も盛り込まれていました(切り替えない場合には罰金が科されることも明確になっていました)。しかし、紆余曲折があって、その修正案の条文の詳細な内容については、ウェストバージニア州選出の民主党員で化石燃料産業に優しいジョー・マンチンが委員長を務める上院エネルギー天然資源委員会に委ねられることとなりました。一方、下院では、民主党議員団がナンシー・ペロシ議長に、予算修正法案が上院によって承認されるまで予算修正法案の採決を実施しないように圧力をかけました。一方、共和党は、上院で予算修正法案の採決が為されなければ、下院での審議に応じないと脅迫することで対抗しました。
温暖化対策が急がれる状況であるにもかかわらず、米議会は混乱に陥っています。IPCCが最初の報告書を発表してから30年が経ちました。その間に、世界の温室効果ガスの年間排出量はほぼ2倍になりました。人類が大気中に放出する炭素の量は2倍以上になりました。その結果、地球は暑くなり普通に人が生存できなくなるレベルに急速に近づきつつあります。2015年に定められたパリ協定の目標は、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするというものでした。
IPCCは未来予測をし、5つの可能性を示しました。1つめのシナリオは最も楽観的なもので(実現可能性はほぼゼロですが)、炭素排出量が今後数十年間でゼロになるというもので、新技術が開発されて大気中の二酸化炭素数百億トンが吸収されることが前提となっています。もっとも、このシナリオでも今世紀半ばまでに世界の平均気温は1.6℃上昇すると予想されています。より現実的なシナリオでは、今世紀半ばまでに世界の平均気温は2℃上昇し、今世紀末まででは約3℃上昇します。また、最悪のシナリオでは(絶対にあり得ないとは言い難いシナリオですが)、2090年には3.6℃(華氏では6.5°)上昇します。
気温が上がり続けると、夏はどうなるのでしょうか?IPCCの報告書には、「気象変動は、地球温暖化が進むことによって、さらに大きくなります。」との記載があります。出来れば気象変動に見舞われるのはご免こうむりたいものです。しかし、不幸なことですが、逃れるとは出来ないでしょう。♦
以上
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