Letter from Biden’s Washington
The Week the Biden-Trump Rematch Got Real
バイデンとトランプの再戦が実現した週
One difference from 2020: the Republican attacks on the President’s even more unpopular Veep.
2020年との違いの1つは、共和党がバイデンだけでなく不人気なハリス副大統領も激しく攻撃していることです。
By Susan B. Glasser April 27, 2023
1.
ワシントンの政治の世界では、さまざまな動きが見られる週もあれば、何の動きも無いように見える週もあります。今週は間違いなく前者であったわけですが、アメリカの政治の全体像はこれまでとさほど変わらないものの、奇妙なことがいろいろと起こりました。それぞれのできごとが微妙に関連しあっていました。月曜日(4月24日)には、フォックス・ニュース(Fox News)社が、米国で最も視聴されているケーブルニュース局(FOXニュース)の看板アンカーであるタッカー・カールソン(Tucker Carlson)を突然解雇しました。カールソンは、ドナルド・トランプと同様に、陰謀論や過激な言説を広めていて、2020年大統領選の正当性についても繰り返し疑念を呈していたほか、新型コロナワクチンに関する陰謀論を広め、白人至上主義を前面に押し出していました。火曜日(4月25日)には、ジョー・バイデンが再選を目指して正式に選挙キャンペーンを開始しました。バイデンは、大統領選への再選出馬を決意したのは、MAGA(Make America Great Again:メーク・アメリカ・グレート・アゲイン)を掲げる過激なランプと共和党から民主主義を守るためだと訴えていました。穿った見方かもしれませんが、バイデンは高齢で人気も無いわけですから、反トランプを掲げなければ再出馬する大義名分が無かったのかもしれません。
水曜日(4月26日)までに、アメリカの有権者の2024年の大統領選での選択肢は実質的に2つに絞られました。超高齢のバイデンを選ぶか、同じように高齢ではるかに恐ろしいトランプを選ぶかという、再び2020年の大統領選と同じ構図になりそうな雰囲気です。ホワイトハウスのローズガーデンで、バイデンは韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル:Yoon Suk-yeol)大統領を国賓として迎えた一環として、滅多に開かない記者会見を開きました。そこで、彼は、ABCニュースのメアリー・ブルース(Mary Bruce)記者から、出馬の理由について質問されました。質問は、「あなたは、トランプを再び倒すことができると言っています。トランプを倒せるのは、自分だけだと思いますか?」というものでした。バイデンは、700語近く続くまとまりのない散漫とした感じの回答をしました。彼が言っていたのは、自分には 終わらせるべき仕事 があり、気分は良く、自分の政策は多くの者から支持されており、あとは有権者が私を選ぶか否かを判断すること になるだろうということでした。
こうした質問が来ることは事前に分かっていたはずですから、その回答は、少し心もとないものに思えました。この日、バイデン大統領は、北朝鮮の核の脅威に対して協力して戦略を練った民主的な同盟国の大統領を来賓として迎えていました。それは前任者と比べると明らかに良い仕事をしているように見えます。というのは、トランプ前大統領は北朝鮮の独裁者にすり寄りながら、できるはずもない核合意を実現すると主張していたからです。
しかし、バイデンは記者等の簡単な質問に適切に返答できないことがしばしばあります。トランプは、バイデンにボロを出させるために、必死になってさまざまな機会を設けるでしょう。同じ日(4月26日)に、トランプは、ニューヨークのマンハッタン連邦地方裁判所の法廷にいました。トランプは、彼の多くの告発者の 1 人である作家E・ジーン・キャロルから名誉毀損で訴えられていました。キャロルは、2019年に初めて疑惑を公表した際にうそだと非難されたことを受けて、彼を名誉毀損で訴えていました。彼女は1990年代にマンハッタンのデパートの試着室で彼にレイプされたと主張しています。トランプは、その日の朝、キャロルの主張は「でっち上げの詐欺(made up SCAM)」であるとソーシャルメディアに投稿していました。それについて、判事は彼の行動を 「全く不適切(entirely inappropriate) 」であると非難しました。現在、トランプは、別の女性への口止め料支払いに関する件でも刑事訴追されています。また、2020年の大統領選に敗れた後、彼の行動に関して他にもいくつかの犯罪捜査が行われています。アメリカの有権者は、大統領選が行われる来年の秋まで、この種の見苦しい法廷での争いを何度も何度も目にしなければならないでしょう。
バイデン陣営もトランプ陣営も既に宣伝活動に余念がありません。バイデンは、トレードマークのアビエーターサングラスをかけ、冷静沈着で的確な指示を送っているというイメージを訴求しています。一方、トランプ陣営は、過激主義的な主張を繰り返しています。ところで、再選を目指す大統領は、ローズガーデンで記者会見を好んで行います。それは、バイデンに限ったことではありません。どうしてかと言うと、背景にある大きなホワイトハウスが写り込むので、それが選挙の宣伝として非常に効果的だからです。ハーバート・フーバー(Herbert Hoover)以降、現職大統領が大統領選に再選出馬して落選したのは4人しかいません。その内の1人がトランプです。
しかし、2024年の大統領選では、そうした過去の大統領選の結果や傾向などは全く参考にならないでしょう。というのは、トランプのような大統領は過去にいなかったわけですから、彼が大統領選に出るのであれば、過去の事例は全く参考にならないのです。彼は既に過去の歴史や常識をことごとく覆して、現在、共和党の大統領選候補者指名争いの先頭を走っています。一度大統領選で敗北を喫し、2度の弾劾されたにも関わらずです。歴史を振り返ると、大統領選で再選に失敗した元大統領が返り咲きを目指しても成功したことは一度もありません。しかし、これまでことごとく歴史を覆してきたように、トランプはこれも覆す可能性があります。
来年の大統領選の行方は、これまでと異なる要素が多いので、予測が容易ではありません。フロリダ州では、共和党候補者指名争いでトランプの最大のライバルと目されるロン・デサンティス(Ron DeSantis)知事が、世論調査を見ると急速に失速しています。デサンティス知事の最近の施策を見ると、支持率の上昇に繋がりにくいことに必死に取り組んでいるようです。同州最大で最も有名な企業であるディズニー(Disney)と全面戦争を行っています。水曜日(4月26日)に、ディズニーは、デサンティス知事の施策は憲法修正第1条に違反しているとして同州を訴えました。デサンティスが非難されているのですが、ディズニーの”woke”な姿勢やLGBTQの権利を主張する活動を支援していることを嫌って、同社に対する違法な報復キャンペーンを展開していたと見られています(”woke”は、社会問題に対して認識や理解を深めようという姿勢があるという意味)。ミッキーマウスが政治に巻き込まれた形ですが、トランプのもう1人のライバルと目されている、前サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー(Nikki Haley)は、フォックス・ニュースで、ディズニーに発祥の地であるサウスカロライナ州に移転することを検討するよう提案しています。これは、2016年にも見られた共和党内の諍いの再現と言えます。それは、トランプが大統領選で勝利するのに大きく貢献したわけですが、今回も同じことが起こりつつあるわけです。
フロリダ州では、タッカー・カールソンが水曜日(4月26日)の夜に、フォックス・ニュースを解雇されてから初めて公の場に姿を現しました。木製のパネルが張られた自宅のサウナで撮影されたと思われる動画をTwitterに投稿し、バイデン政権の施策を非難していました。この罵るような激しい暴言が続く動画は、すぐに再生回数が数百万回に達しました。それで、カールソンが2024年の共和党候補者指名争いでトランプのライバルになるかもしれないとの憶測に拍車がかかりました。元共和党のストラテジストであり、後に反トランプ運動の中心人物となったリック・ウィルソン(Rick Wilson)は、Twitterで主張しました、「トランプの過激思想の根底にあるのは、名声やお金を得たいという欲求、親プーチン的孤立主義、権威主義へのあからさまな執着です。」と。また、「セレブな人たちがトランプを大統領にした。」と、彼は付け加えました。彼は、セレブな人たちが、タッカーを同様に大統領にする可能性があるか否かということを分析したことがあるそうです。しかし、そんなことは絶対に起こりえないだろうと考えているようです。というのは、トランプを支持するような共和党員であっても、さすがに白人至上主義を信奉する元ニュース番組のアンカー(タッカー)に投票することはないと考えられるからです。つまり、タッカーが候補者指名争いでライバルとなる可能性は非常に低いと推測されます。
水曜日(4月26日)にバイデンが再出馬の意向を示したことは、現実的なシナリオだったような気もしますし、いくぶん荒唐無稽に思わなくもありません。ともかく、その日はいろんなことがありました。ホワイトハウスでは、午後11時まで行事が終わりませんでした。韓国の尹大統領がそこで開かれた国賓晩餐会の最後に、ステージに上がって往年の名曲である「アメリカン・パイ(American Pie)」を熱唱しました。バイデンは、尹の後ろに立ってニヤニヤしながら、この奇妙な瞬間が実際に起こっていることを信じられないような表情をしていました。実を言うと、この8年間、アメリカの政治に携わってきた私は、ほとんどの日にそう感じていました。