The Year We Stopped Being Able to Pretend About Trump
トランプを無視するふりをすることができなくなった年
The story of 2023 wasn’t the search for another Republican leader—but the Party’s embrace of the one it already has.
共和党は 2023 年にトランプの代わりとなる大統領選候補者を見つけられなかった。しかし、共和党員の大多数が熱狂的に支持している人物が 1 人いることを確認できた。
By Susan B. Glasser December 28, 2023
1.2023年はトランプ再選の可能性が高まった年
4 年前、ドナルド・トランプが大統領選に勝って大統領職をもう 1 期務めるか否かが注目されている年の年初に、私はドイツ人の友人であるブルッキングス研究所( the Brookings Institution )のコンスタンツェ・シュテルゼンミュラー( Constanze Stelzenmüller )に、トランプ大統領の破壊的な在任期間が引き起こした絶え間ない不安を言い表すドイツ語の言葉を教えてほしいと頼んだ。彼女は、困難な状況を巧みに示す 33 文字からなる、実に口当たりの良い単語を返してきた。それは、” Trumpregierungsschlamasselschmerz (トランプ政権混乱の痛み)”である。親切にも、彼女はこれを” Trumpschmerz (トランプの痛み)”と短縮しても構わないと教えてくれた。これは英語で言うと” Trump-worry ”に近いかもしれない。実に端的に上手く状況を言い表している。私は、” Trumpregierungsschlamasselschmerz ”という語の定義を「トランプ大統領が引き起こす不具合をじっくり見続けることから生じる継続的な魂の痛み」とした。再び我々は、その痛みを感じ始めている。2024 年、アメリカ人は再び” Trumpschmerz (トランプの痛み)”に苦しめられるかもしれない。
今年( 2023 年)の年初の時点では、状況は違っていた。” Trumpschmerz (トランプの痛み)”に再び苦しむ状況を避けることが可能だった。その時点では、2024 年の大統領選はジョー・バイデンとトランプとの再戦にはならないだろうという期待があった。その期待はかなり合理的なものだったし、再戦となる可能性はそれほど高く無いと思われていた。トランプが再出馬することは容易ではないと思われていた。トランプは、2020 年の選挙結果を覆そうとした前代未聞の試みの報いを受けることになると見られていたし、共和党指名争いで強力な対抗馬の後塵を拝する可能性もあった。一方のバイデンは、大統領就任後 1 年間は非常に不人気だった。トランプを除けば、近年では史上最低の人気だった。また、非常に高齢で、アメリカの大統領として既に史上最高齢であったので、2 期目を目指さず、若い民主党リーダーのサポートに回ると見られていた。しかし、そうはならなかった。
今年( 2023 年)のアメリカ政界で最も異常に思えた出来事は、間違いなく、トランプが 4 つの別々の刑事事件、91 件の重罪容疑で起訴されたことであった。彼は犯罪で起訴された初めての元大統領であるだけでなく、2023 年暮れには連邦政府から彼が先導した議会襲撃はクーデターであったと非難されている。しかし、今から 1 年前の時点ではトランプが告発されるとは誰も予測していなかった。それ故、彼が起訴されたことによって、政治的混迷が収まるどころか、さらに混乱する結果となった。裁判は 2024 年の選挙に影を落とし、結果を左右することになるのか?判決は大統領選前に出るのか?もし有罪判決が下ったとして、彼が大統領選で当選したらどうなるのか?間違いなく言えることは、これまでのところ起訴は彼と共和党にとって政治的にはプラスであったということである。2024 年の予備選挙開始まであと数週間と迫った今、トランプは共和党指名争いで圧倒的なリードを築いているように見える。ファイブサーティエイト( FiveThirtyEight )が実施した世論調査によると、2023 年初め頃には共和党支持者でトランプを指示する者は約 46% だった。それが今では 61% を超えている。
1 年前、フロリダ州知事ロン・デサンティスは、前回 0.5 ポイント以下の僅差で勝利した州知事選で民主党候補に 19 ポイント差をつけて再当選し、選挙資金を 1 億ドル以上獲得していた。そのため、共和党指名者争いでトランプを打ち負かす可能性が高いと見られていた。しかし、現在、彼が競っている相手は元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュである。つまり、彼の立候補は完全に失敗であったことが判明しつつある。トランプは共和党討論会でライバルたちと壇上に上がる必要さえなかった。討論会でライバルたちは前大統領を追い上げる立場だったが、前大統領の支持層が離反するのを警戒し、批判に及び腰だった。8 月に行われた 1 回目の討論会では、ライバルたちのそうした姿勢が鮮明になった。FOX ニュースの司会者ブレット・バイアー( Bret Baier )が起訴された元大統領を支持する者は挙手をするようを求めたのだが(バイアーはトランプを「部屋にいない象(the elephant not in the room)」と呼んだ)、事実上、全員が挙手した。言うまでもないことであるが、挙手しなかった 2 人、クリス・クリスティ( Chris Christie:前アーカンソー州知事)とエイサ・ハッチンソン( Asa Hutchinson:前ニュージャージー州知事 )には全く勝ち目はない。
2023 年の末時点でトランプに批判的な立場にありながら共和党指名争いで運気が上昇している候補が 1 人だけいる。前サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー( Nikki Haley )である。トランプ政権時に国連大使を務めていたにもかかわらず、彼女はしばしば、トランプ以前の共和党の潮流を体現している人物だと言われている。つまり、文化戦争(伝統主義者・保守主義者と進歩主義者・自由主義者の間における価値観の衝突)を煽らず、MAGA 信奉者でもなく、タカ派であると言われている。しかし、ヘイリーは、必ずしも共和党の良い面を体現しているわけではない。むしろ、彼女は、偉大なエイブラハム・リンカーン( Abraham Lincoln )が発展させた共和党がトランプに与し、いかに堕落しているかを証明する人物でもある。先日( 12 月 27 日)にニューハンプシャー州で開催されたタウンホール形式のイベントでヘイリーは南北戦争の原因は何かと有権者に尋ねられた際に、「政府がどのように運営されるか、人々ができることととできないことの自由に関する問題が原因だった」と答えた。この回答に対して、質問をした有権者は、奴隷制についての言及がないことに驚きを示した。彼女はそれに応じて言った。「奴隷制について私に何を言わせたいのか?」
もちろん、トランプは、ヘイリーを批判するチャンスを逃さなかった。彼女の南北戦争に関する迷言に反応して、彼は「こんな人物に大統領職を目指す資格は無い。」と批判した。なお、12 月 28 日(木)の朝、ヘイリーは「無論、南北戦争は奴隷制度に関するものだ。」と述べて前日のコメントの撤回に腐心した。一方、トランプはいつものように政治屋らしい発言で 1 年を締めくくった。クリスマス当日に、トゥルース・ソーシャル( Truth Social:トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループによって設立されたソーシャル・メディア・プラットフォーム)に敵対勢力に向けたメッセージを投稿した。それは、「MAY THEY ROT IN HELL”(地獄でくたばりますように)」というものだった。続いて投稿されたメッセージは、「AGAIN, MERRY CHRISTMAS”(もう一度、メリークリスマス)」というものだった。直前の投稿と不釣り合いではあるが、トランプらしく脳天気な投稿で 1 年を締めくくったのである。