トランプ・メディア株急騰!トランプの幸運はいつまで続くか?

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The Trump Stock Bubble: How Long Will It Last?
株で大儲けのトランプの幸運はいつまで続く?

On paper, a Wall Street deal to take public the former President’s social-media company has given him a windfall of nearly $4.9 billion. But the stock is grossly overvalued and Trump can’t sell it immediately.
トランプ前大統領はソーシャルメディア企業の株式を上場させたことにより、49 億ドルの利益を得た。しかし、同株式は過大評価されているし、すぐに売却することはできない。

By Jay Caspian Kang March 29, 2024

 ドナルド・トランプのキャリアで過小評価されている点は、彼がいかに幸運だったかということである。彼は裕福な家庭に生まれた。父親のフレッド・トランプはマンハッタン区外で不動産開発業を営んでいて、ドナルド・トランプがマンハッタンで不動産業に参入する際に資金を提供した。1990 年代初頭にドナルド・トランプがカジノと不動産事業の両方で莫大な負債を抱えた時には、彼に大金を貸していた多くの金融機関が彼を救済することを決めた。融資を組み直し、毎月の個人的支出を 45 万ドル以下に制限した。その 10 年後、彼は再び資金繰りの悪化に直面した。NBC のバラエティ番組部門は、彼が会社経営に関するリアリティ番組「アプレンティス( The Apprentice )」のホストを務めるにふさわしい人物であると判断した。アプレンティスに出たことで彼の人気は全国的なものとなった。その後の趨勢は誰もが知っているとおりである。

 トランプは直近で 2 つの民事訴訟の判決を受けて、5 億ドル以上の罰金と利子の支払いを余儀なくされた。しかし、ウォール街が彼に巨額の経済的利益をもたらした。またしても彼は幸運に恵まれ、苦境に陥らずに済んだのである。今週初め( 3 月 26 日)、トランプが立ち上げた赤字の新興ソーシャル・メディア企業であるトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ( Trump Media & Technology Group )が、すでにナスダックに上場していた特別買収目的会社(SPAC)のデジタル・ワールド・アクイジション( Digital World Acquisition:略号 DWAC )との合併を通じて株式を上場した。火曜日( 3 月 26 日)、統合された会社の株式の取引が開始された。ティッカーコードは「 DJT 」である。その日の終値ベースで、同社の株式時価総額は約 80 億ドルであった。翌日の水曜日には株価はさらに上昇した。木曜日には少し下がった。金曜日( 3 月 29 日)はイースターで市場は閉まっていたが、時価総額は 84 億ドル弱に達した。彼の保有株 7,880 万株の価値は 49 億ドル弱である。

 財務諸表に基づいて標準的な方法で企業価値を算出すると、ソーシャルメディアサイトのトゥルース・ソーシャル( Truth Social )が主な資産であるトランプ・メディア&テクノロジー・グループの価値は 84 億ドルを大きく下回る。わずかな売上で赤字続きであることを考慮すると、現在の時価総額はそのビジネスの実態と大きく乖離していると言わざるを得ない。過大評価されており、典型的なバブル株のように見える。同社は 2021 年にトランプが 1 月 6 日の連邦議会襲撃事件を受けてフェイスブックとツイッター(現 X )から締め出されたために、設立されたものである。「アプレンティス」の元出場者 2 人が、トランプに独自のソーシャルメディア・サイトを立ち上げることを提案した。トゥルース・ソーシャルは 2022 年 2 月に開設された。それほど普及しているわけではない。インターネット分析会社のシミラーウェブ( SimilarWeb )によると、2023 年 12 月から 2024 年 2 月までのトゥルース・ソーシャルの月間訪問者数は約 150 万人でしかない。これに対して X は 8 億 6,700 万人である。

 今週の株式上場に先立ってデジタル・ワールド・アクイジションが提出した正式な目論見書によれば、前年度 9 カ月間のトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの収益は 340 万ドルで、純損失は 4,900 万ドルであった。おそらく昨年末に収益が劇的に増えたなんてことはないだろうから、現時点の株式時価総額は 2023 年の収益の 1,800 倍以上と推測される。これは明らかに異常である。スナップチャット( Snapchat )は、トゥルース・ソーシャルよりはるかに大きなソーシャルメディアサイトである。ヤフーファイナンスを見ると、スナップの親会社であるスナップ( Snap )の株式時価総額は、年間収益の 4 倍ほどである。先週木曜日( 3   月 21 日)に株式を上場したレディット( Reddit )の時価総額は、年間収益の約 9 倍である。

 では、何がトランプ・メディア&テクノロジー・グループの株価を押し上げているのだろうか?その答えの 1 つは、タイミングの良さである。同社の株式の売買が始まったのは、株式市場が堅調で、様々なリスク資産の価額が上昇している局面である。ここ数週間、多くのハイテク企業の株価、ビットコイン、そして金が最高値を更新している。トランプ・メディア&テクノロジー・グループのような新規株式公開の売買は、投資市場全体のセンチメントの影響を受けやすい。株式市場が下落局面にある時は、新規株式公開はほとんど行なわれなくなる。株式市場の活況時には、新規株式公開が大量に行われる傾向があり、株価が上に飛びやすく巨額の利益を享受する企業が続出する。しかし、株価の上下動が非常に大きくなることもある。レディットの株価は、取引初日に 50% 近く上がって、時価総額は約 100 億ドルとなった。しかし水曜日( 3 月 27 日)と木曜日( 3 月 27 日)の両日には、株価は 25% 近くも急落し、公募価格を下回ったままになっている。

 トランプ・メディア&テクノロジー・グループの株価が同様に急落しても何ら不思議ではないわけだが、今のところトランプを支持する小口投資家が意外と多く、株価を下支えしているようである。おそらく彼らは、トランプが再選され、トゥルース・ソーシャルをコミュニケーションツールとして毎日(あるいは毎時)使うようになれば、同社がソーシャルメディア界の巨人に成長できると信じているのだろう。しかし、同社の株価の推移を見ていると、ミーム株(ソーシャルメディアを通じて個人投資家の間で人気を集める株)であると言わざるを得ない。ミーム株で有名なのは、新型コロナパンデミック時に株価が急騰したゲームストップ( GameStop )、AMC エンターテインメント( AMC Entertaiment )、ベッド・バス&ビヨンド( Bed Bath & Beyond )などである。2021 年 1 月、ゲームストップの株価は 80 ドルを超えて上昇した。現在は 12 ドル 50 セントほどで取引されている。2021 年の年初に AMC エンターテイメントの株価は一時 500 ドルを超えた。しかし、現在は 4 ドル以下で取引されている。2021 年 1 月、ベッド・バス&ビヨンドの株価は 35 ドルを超えた。しかし、同社は昨年末に破産申請をしたため、現在は無価値である。

 ミーム株現象から得られる教訓の 1 つは、バブルは必ずしも思ったほど早く弾けるわけではないということである。実は、そのことは以前から広く知られていることである。それを示唆する事例は枚挙にいとまがない。ゲームストップの株の場合、株価がある程度吊り上がった時点でウォール街のショート筋が空売りを仕掛けた。しかし、大損を出した末にこの教訓を学ぶこととなった。彼らが空売りした後、ソーシャルメディアを通じて多くの個人投資家が示し合わせて買い向かったため、株価はさらに吊り上がった。ショート筋は大きな痛手を負った。しかし、ミーム株のエピソードから得られた主な教訓は、異常に割高な株価はいずれ修正されるということである。ミーム株の保有者が直面している課題は、一時的に膨らんだ株式の価値を、どうやってできるだけ目減りさせない形で保有株式の一部を売り捌くかということである。トランプが今置かれているのは、まさしくそのような状況である。

 間違いなく彼は所有する株式の一部を売却するだろう。しかし、それほど簡単なことではない。この株は現在、ロックアップ条項により、6 カ月間、売却やローンの担保にすることを禁じられているからである。もし、トランプの家族や取り巻きの多くが名を連ねる同社の取締役会がこの条項を放棄しようとすれば、どうなるか?トランプが株式を売却するとの観測が広がり、警戒した投資家が一斉に株式を売却するだろう。そうなれば株価は暴落するだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙( Wall Street Journal )のコラムニストのジェームズ・マッキントッシュ( James Mackintosh )は、トランプが訴訟等に必要な資金を調達するための手段について精査していた。彼は具体的な方法をいくつも列挙している。保有する株式を担保にして新たに銀行融資を受ける、トランプ・メディア・アンド・テクノロジー社に彼の名前が冠されていなければ価値がないという理由で巨額のライセンス料を支払わせる、トランプ・メディアにマー・ア・ラーゴ(フロリダの彼の別荘)を高額で買い取らせたる、等々である。これらの選択肢はいずれも問題が無いわけではない。マッキントッシュがトランプにアドバイスしているのは、ミーム株の価値が消失する前に、できるだけ早く現金化すべきであるということである。

 おそらく、トランプが考えていることはマッキントッシュと大差ないだろう。どうすべきか真剣に悩んでいるところだろう。彼はこれまで何度も幸運に恵まれてきた。しかし、今回ほど巨額の金銭的利益を思いがけずに手にしたのは初めてである。とはいえ、彼は、運気が悪くなれば、つまり株式市場のセンチメントが悪化すれば、大きな損失を被る可能性があることも認識しているはずである。かつて経済学者の故ポール・サミュエルソン( Paul Samuelson )が私に言ったのだが、株価が高騰している最中には常に暴落に備える必要がある。♦

以上