受入不可の大統領選敗北 保持必要な訴追免除特権
トランプに対する捜査の内の2つは、ニューヨーク州とニューヨーク市の法執行機関によって主導されています。マンハッタン地検の検事サイラス・バンス・ジュニアとニューヨーク州検事総長のレティシア・ジェームズは、トランプが大統領になる前に行った商取引に関してそれぞれ訴追しようとしています。市と州の司法権は連邦法の適用外になるので、市や州が起訴または有罪判決を下すことは大統領特権の訴追免除の範囲外になります。トランプは訴訟の費用だけでも巨額になる可能性があります。(ちなみにビル・クリントンがホワイトハウスを去るまでにかけた弁護士費用は1,000万ドル以上です。)そして、トランプの経済状況はすでにかなりひっ迫しています。驚くべきことですが、先日のタイムズ紙の記事によると、トランプは再選されるかどうかにかかわらず、今後の4年間で支払期限がくる個人的な債務は3億万ドル以上です。そうした債務の多くは、ドイツ銀行などの海外の債権者に対するものです。債権者と交渉してリファイナンス(借り換え)出来ない場合、窮地に陥るでしょう。一方、フィナンシャルタイムズ紙は、今後4年以内に支払期限が来るトランプの不動産関連の債務は9億ドルだと推定しています。同時に、トランプは所得税申告の際の控除をめぐって国税庁から調べられています。脱税と認定されると1億ドルの重加算税が課される可能性があります。それらの借金を返済するためには、トランプは彼の最も価値がある不動産資産のいくつかを売却するか(フォーブス誌の試算では、彼の総資産は2500億ドルです)、過去に行ったように負債を踏み倒す方法を見つけ無ければなりません。しかし、ワシントンポスト紙が行った分析では、トランプの資産、特にホテルやリゾート施設は、パンデミックによりかなりの影響を受けているようです。また、彼の分断的な政治手法も客足を減らす要因となっています。イェール大学で権威主義を研究している米国史教授のティモシー・スナイダーは言いました、「トランプ氏が刑務所や救貧院に入らないでいられる理由はたった1つだけです。大統領職にあるということです。」と。
ホワイトハウスのトランプの側近たちが大統領選挙に負けたらどうなるかというような記事に反応して反論したりすることは一切ありません。トランプが大統領職を離れた後の計画を持っていたとしても、彼がそれを誰かに打ち明けることはないでしょう。ニューヨーク出身のトランプのビジネス上の友人の1人は言います、「彼は選挙に負けた場合のことについては誰とも相談したりしません。もし、彼に負ける可能性について話をしたら、おそらく激怒されるでしょう。」と。選挙戦に入る前は、トランプは大統領であることを心から楽しんでいました。昨年の冬、ある閣僚によれば、トランプは以前の不動産開発の仕事に戻るなんてことは全く想像できないと打ち明けていたそうです。その閣僚は今でも覚えていますが、トランプと2人で車に並んで乗って、その車を含む車列が支持者の熱烈な歓迎を受けた時、トランプは次のように言ったそうです、「信じられない程気持ちいいな。凄い歓迎ぶりだ。これを経験したら二度と不動産屋に戻ることはできんな。」と。
2020年の選挙戦を通じて、全国規模の世論調査でトランプはバイデン対して劣勢でした。消息筋によると、10月にトランプと話をした人物2人によると、トランプは不機嫌だったようです。トランプは、バイデンとの討論会は2回とも勝利したと主張しています。側近の者たちが少なくとも1回目の討論会は負けたと評価していることにも納得がいかないようです。彼が腹を立てているのは、世論調査の結果やメディアに対してだけではありません。自陣営の選挙対策責任者が資金を浪費することでバイデン陣営が資金的に有利になったとして非難しました。10月20には彼は目に見えて不機嫌で、テレビ番組”60Minutes”でレスリー・スタルとのインタビューに応じましたが、途中で切り上げました。長年彼を取材してきた記者は、トランプがこれほど不機嫌なことは今まで無かった言っていました。
大統領の姪メアリー・トランプ—は心理学者です。トランプに関する暴露本「終わりなき欲望」の著者でもあります。彼女は、トランプの怒りは絶望からくるものだと分析しています。彼女は言います、「トランプは、大統領職にとどまることができなければ深刻な状況に陥るということを知っています。彼は間違いなく訴追されるでしょう。なぜなら、彼が沢山の不法行為を長年続けてきたことを否定することはほとんど不可能だからです。」と。彼女は彼が選挙選で負けたら、「自己愛憤怒(自己愛が損なわれることに対して激しく怒ること)」を発症するだろうと推測しています。彼女は、敗北はトランプ家にとって文字通りかつ実質的な死刑宣告だと言いました。彼女によれば、彼女の父、つまり大統領の兄であるフレッド・トランプ・ジュニアは、祖父フレッド・トランプ・シニアによって「弱虫」のレッテルを貼られたことで実質的に壊れてしまいました(1981年にアルコール依存症の合併症で亡くなった)。大統領は敗北する可能性について熟考しています。彼女は、トランプは間違いなく臆病な男だと思っています。
バーバラ・レスは新著「Tower of Lies(嘘の塔)」の中で、18年間トランプの会社の建設プロジェクトの開発管理に公私にわたって貢献してきた経験を記しています。トランプは、2回目の大統領選で奮戦中ですが、同時に司法から逃れるためにも奮戦しています。彼が勝つことに夢中になっている理由の1つは、司法当局から逃れたいということです。彼は司法当局を極度に恐れています。彼女の推測では、もし選挙戦で負けても彼はそれを絶対に認めず、国外に脱出すると思われます。彼女によれば、彼は先日の選挙演説会でアドリブで「私が負けるなんて想像できますか?負けたら落ち込むでしょうね。ひょっとしたら国外に逃亡しなくちゃいけないかもしれませんね。まあ、そんなことは全く考えていませんがね。」と言ったそうです。本気でそんな発言をしたかどうかは疑わしいところもありますが、彼女によれば、彼は海外のどこかの国へ行き、自分の所有する1つのビルの中だけで暮らすことが出来ますし、世界中のどこからでも不動産業の仕事をすることが可能なようです。
2016年に、トランプは実際に投票直後に米国を離れる計画を立てていたことが判明しています。以前はトランプ支持者であり短い期間ですがホワイトハウスの報道官も務めたアンソニー・スカラムチは、選挙結果が判明するまでの数時間を彼と一緒に過ごしました。スカラムチによれば、トランプと側近の者たちは、ほぼ全員がヒラリー・クリントンが勝ったと推測していました。スカラムチとトランプはトランプタワーの周りを練り歩いている時、トランプはスカラムチに「明日は何をしているか?」と尋ねたので、スカラムチが何も計画はないと答えました。するとトランプは、翌朝スコットランドに飛んでターンベリーリゾート(トランプの不動産会社が所有)でゴルフをするために、ジョン・F.ケネディ空港にプライベートジェトの離陸準備を指示してあることを打ち明けました。スカラムチは、トランプは予想される敗北を無視するつもりなのだろうと思いました。スカラムチは言いました、「彼は敗北を覚悟していましたが、皆の前では問題ないと言って敗北を予想していないような振る舞いをしていました。それで開票が終わって、結局勝っていました。それで、プライベートジェットを準備したことはお金と時間の無駄になりました。その時のことが参考になると思うのですが、トランプはバイデンに負けても、多くの人が予想しているのとは違って淡々とことを進めるでしょう。簡単に引き下がって逃げていくでしょう。ですから、誰も彼を叩き潰すことは出来ないでしょう。」と。
メアリー・トランプは、バーバラ・レスと同様に、トランプは選挙に負けた場合に米国を離れることを検討しているのではないかと疑っています(彼女は選挙はどちらが勝つか全く分からないと見ています)。彼女は、バイデンが勝った場合にはトランプは何らかのコメントを出すと思っています。そのコメントは次のようなものだと推測されます。「私はこの国で歴史上最も偉大なことを成し遂げてきました。敗北は受け入れられません。私は、今後も本当に重要なことを成し遂げるでしょう。モスクワにトランプタワーを作ることだって出来るんです。」
追放された王様や亡命した専制君主のように、米国の大統領が国外に逃亡するなんてことは馬鹿げたことだと思われます。トランプの側近の多くも国外に逃亡することはないだろうと考えています。その中にはトニー・シュワルツも含まれます。シュワルツはトランプの最初のベストセラーとなった自伝「The Art of the Deal(邦題:不動産王にビジネスを学ぶ)」のゴーストライターでした。シュワルツは言いました、「彼は間違いなく恐れています。しかし、彼がこの国を離れることは無いと思います。いったい、どこの国へ行くというのです?」と。しかし、東欧の反民主主義体制を研究しているイェール大学のスナイダー教授は、トランプは米国との引き渡し条約を結んでいない国に逃亡する可能性があると考えています。スナイダー教授は言いました、「トランプが馬鹿でなかったら、飛行機を準備しているはずです。誰もが私に、トランプがフォックスニュースに登場するだろうと言うんです。そうじゃなくて、私は、トランプは”RT”に出るだろうと思っています。”RT”は何か?って。ロシアのテレビ局ですよ。」と。
スナイダーの見解では、もしトランプがもっと熟練した独裁者であったならば、今回のような窮地に陥って必死にもがくようなことはなかったでしょう。トランプは最近さまざまな独裁主義的な行動をとりました。6月には抗議者に対して軍を派遣すると脅迫しました。7月には選挙の延期を言い出しました。しかし、スナイダーは、トランプは熟練した独裁者と異なり、米国の政治システムを十分に破壊することが出来ないので苦境から脱することができないのだと見ています。スナイダーは、次のように説明しています、「一般的に、独裁者は権力の座を維持し続けるために必要なレベルまで国の仕組みを歪めなければなりません。どのくらいまで歪めなければならないかというと、今までトランプがしてきたことでは全く不十分です。」と。強固な独裁体制が構築された国では、選挙は茶番でしかなく全く意味がありません。今の米国はそんな状況とは全く違います。大統領選では、投票妨害や不正投票などの懸念があるものの、公正に争われています。それが証拠に未だに予測がつかない状況です。
選挙結果では、勝者と敗者の獲得した投票人数の差がトランプの将来について重要な意味を持つでしょう。選挙人数の差が圧倒的なものである場合、どちらの陣営も結果に異議を唱えることはないでしょう。しかし、トランプの元側近の何人かから聞かされたのですが、少しでも選挙の不備を見つけたら、トランプは必ず勝利宣言をするつもりです。トランプの元弁護士であるマイケル・コーエンは私に次のように言いました、「トランプは決して敗北を認めないでしょう。絶対に、永遠に認めないでしょう。敗北したすべての州で投票の有効性に異議を唱えるでしょう。不正投票を主張し、手続きの不備を指摘し、選挙を無効にしようとするでしょう。」と。トランプは、大急ぎでエイミー・コニー・バレットを最高裁の陪席判事に任命しました。その動機は、最高裁判事の過半数を保守派が占めることで、選挙に関する裁判で有利な判決を得たいというものです。
2018年にコーエンは議会での偽証や選挙資金法違反や脱税で有罪となりました。それで彼の信用は傷つき、トランプは彼を貶しました。コーエンによれば、トランプは、いろんな弁護士に連絡して、大統領選に異議を唱える件について見解を聞いているようです。トランプの個人弁護士で最高裁の訴訟担当者であるウィリアム・コンソボイは、共和党やトランプの選挙活動や”Honest Elections Project(非公式な選挙活動グループ)”のために、郵便投票に疑義を唱えて国中で提訴を始めました。そして、元トランプの選挙運営責任者のマイク・ローマン(以前、多くの人に非白人の不正投票に対 して興味を抱かせる作戦を成功させた)は、ボランティアによる選挙監視員団(the Army for Trump)を指導する役割を引き受けました。
コーエンは、トランプが負けることを確信しており、最近トランプの負けに1万ドル賭けました。コーエンは言いました、「トランプは負けたら、自分以外の者全員を責めるでしょう。毎日、怒鳴り、叫び、お前らのおかげで選挙に負けたと非難するでしょう。また、本当は圧勝していたと言い張るでしょう。投票に不正があり、民主党は死人やまだ産まれてもいない赤ん坊の名前で投票したと言うでしょう。あらゆる種類の嘘を言うでしょう。彼の熱烈な支持者を煽るでしょう。哀れな見世物のように見えるでしょう。しかし、彼は最高裁に沢山提訴することで、差し止め命令が得られる可能性があると思っています。彼は、嘘を繰り返し繰り返し言い続けるでしょう。なぜなら、何度も言い張れば人々はそれを信じるようになるという信念を持っているからです。誰もが彼が黙ることを望んでいます。しかし、問題は彼は絶対に黙らないということです。」と。
シュワルツは、トランプが負けていないと主張をするためなら何でもするだろうという予想には完全に同意しています。シュワルツはトランプの強みの1つは、失敗を絶対に認めないことだと言います。つまり、勝った時は「勝った」と言い、負けた時も「勝った」と言います。それでも、シュワルツが言うには、トランプも圧倒的な大差で負けた場合には、出せるカードが少なくなるでしょう。その場合はさすがに、「選挙で大事なカードを盗まれた」との主張はしにくいでしょう。