トランプは敗北を受け入れられない!トランプは国外逃亡しないのか?

トランプが裁かれない可能性は低くない

トランプは、ニューヨーク州地方裁判所が下す有罪判決を放棄したり差し替えたりする権限を持っていません。しかし、連邦裁判所の裁判では話が別で、介入する権限が無いわけではありません。自分自身の裁判で自らに恩赦を与えることだって不可能ではありません。ニクソン大統領(弁護士出身)は、ホワイトハウスにいた時、そういう力があることを認識していましたが、行使はしませんでした。さらに惨めになるだけだと考えたからです。実際には、当時の司法省は、ニクソンから大統領が自ら恩赦をすることが出来るかどうか尋ねられた時、出来ないと判断していました。当時の副司法長官のメアリー・C.ロートンは、自らの案件で自らは裁判官にはなれないという基本的な規則を考慮すると、大統領が自らを恩赦するのは不可能だと主張するメモを残していました。しかし、同時に抜け道もあると考えていました。つまり、大統領が職務を遂行するのが不可能として、副大統領を代行者として、副大統領が大統領に恩赦を与えることは可能であり、その後、大統領が辞職することも復職することも可能であると考えられていました。
 これまでのところ、その考え方がこの問題に関する唯一の政府から出された見解である、とジャック・ゴールドスミスは言います。彼は、かつてジョージ・W.ブッシュ政権下で司法省の法律顧問局を率い、現在はハーバード・ロー・スクールで教鞭をとっています。最近、ゴールドスミスはボブ・バウアーと共著で1冊本を出版しました。題名は”After Trump: Reconstructing the Presidency”です。バウアーは、バラク・オバマ政権下の大統領上級顧問でした。党派を超えた2人の提案の中には、大統領が自分自身を恩赦することを明確に禁止することが含まれています。また、大統領が証人に賄賂を贈ることや司法妨害することを防ぐために賄賂に関する法令を改正することも提案しています。
 そのような提案が実現したとしても、トランプに適用することは難しいでしょう。ゴールドスミスは、トランプは万が一選挙に負けた場合には恩赦を乱発するだろうと推測してます。トランプは既に44件恩赦を実施しています。その内のいくつかは非常に物議を醸しました。1つは古くからの彼の支持者であったジョー・アルパイオへの恩赦です。アルパイオはアリゾナ州の保安官ですが、州法違反の疑いのない移民を拘束してはならないとする裁判所命令に意図的に違反し法廷侮辱罪で有罪判決を受けていました。また、トランプは、証拠改ざん、偽証、下院の調査の妨害など、7件の重罪で有罪判決を受けた元側近のロジャー・ストーンの刑を減刑しました。トランプ以外の大統領も問題のある恩赦を与えたことがあります。ビル・クリントンは2001年に起業家であり相場師であったマーク・リッチに恩赦を与えるという決定を下しました。その決定が下されたのは、リッチの前妻がクリントンが設立した図書館と民主党選挙資金に100万ドル以上を寄付してから間もなくのことでした。賄賂の可能性があるため、連邦捜査局が動き始めました(結局クリントンは起訴されませんでした)。しかし、ゴールドスミスは、「トランプほど恩赦する特権を濫用した大統領は他にいない。」と言います。歴史家で大統領の伝記作家として有名なジョン・ミーチャムは、言います、「これまで恩赦を濫用してきたトランプですから、自己恩赦もしようとするでしょう。自己恩赦などというものは、自己陶酔的な大統領が自己満足のためだけにする行為です。」と。
 別の問題として、自己恩赦は法的に問題がないかということがあります。ゴールドスミスは言います、「自己恩赦が出来るか否かということについて、何の判断も下されたことはありませんので、明確になってはいません。恩赦の影響範囲は非常に広範囲です。ですから、誰も全体を理解している者はいません。恩赦について論じると、様々な分野の専門家からありとあらゆる意見が出てきます。」と。
 ニューヨークの弁護士であるロバータ・カプランは、ロートンが可能性があると示唆していたシナリオが実現される可能性もあると思っています。つまり、トランプが休職して、副大統領ペンスが恩赦をする可能性が無きにしも非ずと思っています。カプランは、E.ジーン・キャロル(著名コラムニスト)の訴訟を受け持っています。キャロルは、1990年代にニューヨークのバーグドルフグッドマン百貨店内でトランプにレイプされました。それを告発しましたが否定されたため、名誉毀損でトランプを訴えています。その訴訟は連邦裁判所が10月27日に審議することを許可されています。それは、トランプが起こされた多くの民事訴訟の1つです。カプランは、トランプがその訴訟についても恩赦しようとするのではないかと心配しています。普通に考えれば民事訴訟に恩赦が与えられることなどないのですが。カプランは、もし、そんなんことが可能であれば、もうこの国は法治国家ですらないと笑いながら言いました。
 大統領の恩赦に関しての法曹関係者による見解は、現在は以前より多岐にわたっています。フォード副大統領がニクソンに恩赦を与えた時は、議論が巻き起こりました。フォードの行為は国民の怒りを引き起こしたが、最終的にワシントンの政治家連中を納得させることには成功しました。それは、フォードが無私の精神で政治的混乱を必死で収束させようとしている姿勢が評価されたからです。しかし、その時の行為に対する批判が影響したのかもしれませんが、フォードは1976年の大統領選挙では敗北しました。しかし、後にフォードは、その時の行為によってJFKケネディ財団による表彰(ジョン・F.ケネディ勇気賞)を受けて、様々な人たちから称賛されました。ボブ・ウッドワード(著名な編集者)もテッド・ケネディ上院議員(ジョンの末弟)も称賛していました。この件についてフォードにインタビューした歴史家のベシュロスは、言いました、「彼が恩赦を与えたことは正しいと認めます。しかし、ニクソンに起訴されて有罪になりましたと自白させ署名させなかったのは、間違っていたと思います。結果、ニクソンは死ぬまで、他のどの大統領よりも悪いことはしていないと主張していました。」と。ジャーナリストで歴史家のサム・タネンハウスが言うには、フォードの恩赦によって、ニクソンと彼の熱烈な支持者はウォーターゲート事件の歴史を改竄する暴挙が可能となりました。恥知らずにも、彼らはニクソンは加害者ではなくリベラルな報道機関に追い立てられた哀れな犠牲者であるなどという主張をし始めました。それで、ニクソンは、その筋立てに沿って、彼に対する弾劾や議会での調査は完全に違法で、全て濡れ衣だったとする物語をでっち上げて主張していました。
 それ以来、トランプや他の扇動政治家が、ニクソンと同じ主張を繰り返しするようになりました。自身の不正行為に対する捜査をさせないためにです。ミーチャムは、ニクソンを恩赦したことについてフォードと話したことがあります。ミーチャムによると、フォードはニクソンを自由の身にしたことに対する批判に悩まされていたため、1915年の最高裁判決で恩赦される者は有罪であることを認めていると推定されるとする判決文をタイプライターで打って大事に財布の中に入れていたそうです。前任者の不正行為を裁くという責任はフォードには重すぎたようです。そして、ミーチャムは、言います、「バイデンもその重荷と格闘する必要があるかもしれません。」と。
 トランプの元側近の中には、バイデンが勝ったら政権移行の前に混乱する期間が発生するかもしれないと心配する者が何人もいます。トランプについての新著「Dealing with the Devil(悪魔への対処)日本未発売」を上程したシュワルツは、11月から2021年の就任式までの期間が最も危険な期間だろうと恐れています。シュワルツは言います、「バイデンが大統領に就任すると、それぞれの町には新しい上司と新しい法執行官が来ることになります。この国では、大統領が1番の権威です。しかし、その時まで最も危惧されるのは、トランプが自身の熱烈な支持者に水面下あるいは堂々と不法行為を促すことです。」と。(実際、既にトランプは水面下でそうした指示を出しています。第1回目の討論会において、極右の過激派組織”Proud Boys”に「準備しろ」との呼びかけをしています。)メアリー・トランプはトランプが敗北した場合にどうなるかを推測しています。トランプと熱烈な支持者たちは、退任までの11週間で出来るだけ多くのものを破壊し、出来るだけ多くの税金を掠め取ろうとするでしょう。
 ビル・クリントンの報道官を務めたジョー・ロックハートは、バイデンが小差で勝った場合、混沌とした空位期間が出来るだろうと推測しています。小差の勝利には、トランプに、”global settlement(世界中どこにいても起訴されない権利を得ること)”のチャンスを与える可能性があります。なぜなら、それを条件として、トランプに敗北を認めさせる可能性があるからです。ロックハートは、ニューヨーク州の裁判官は再選時に選挙に服するので、そうした取引をした場合、批判の声が非常に多いだろうことを認識し懸念しています。ロックハートは、”global settlement(世界中どこにいても起訴されない権利を得ること)”は実際に適用されたことが過去にあると言います。クリントン政権の終わりの時ですが、モニカ・ルインスキーの件で特別検察官が、クリントンが罰金25,000ドルを払い、弁護士資格を失い、宣誓の下で虚偽の証言をしたと認めた場合に捜査を終了するという取引をしました。既に前例があったのです。しかし、もし今回も同様に取引が為されたら、国民は黙っていないだろうとロックハートは言います。
 黙っていない人の中には、現在ニューヨーク大学法学部の教授でありオバマ大統領の元上級顧問のバウアーも含まれます。バウアーは、大統領も他のすべての人と同じように法を犯した場合には裁かれるべきであると主張します。バウアーは言います、「米国で法執行機関のトップが、恩赦などという法の抜け穴を使うなどということは考えられないことです。現在、この国の司法制度は嘆かわしい状況にあり、その上、大統領が自ら恩赦する可能性も少なからずあります。全く納得できません。」と。オバマ大統領の元上級顧問で、現在は非営利団体”Protect Democracy”を率いるイアン・バッシン氏は、重要なのはトランプを罰することよりも、将来の暴君が生まれるのを防ぐ仕組みを作ることだと言います。バッシンは言います、「トランプは炭鉱のカナリアだと思います。怖いのは、いつかトランプ2.0が現れることです。そいつは、”アメリカは強い大統領を欲している。それは俺だ!”と言いながらやってきます。」と。