What Google Off-loading Chrome Would Mean for Users
Google から Chrome が引き離されることはユーザーにとって何を意味するか
A landmark antitrust ruling could change the Internet’s power balance, but the industry is shifting regardless.
画期的な反トラスト法の判決はインターネットの勢力バランスを変える可能性がある。しかし、それは判決が無くても変わるものである。
By Kyle Chayka November 27, 2024
インターネットを使うということは、グーグル( Google ) を使うこととほぼ同義である。このことにときどき困惑することもある。この星で最も人気のある検索エンジンであるグーグルサーチ( Google Search )は、インターネット上のあらゆるデータをクロールしてインデックスし(訳者注:インデックスとは検索エンジンのデータベースに Web ページの情報を登録すること)、Web サイトへのトラフィックを促進する。グーグル広告( Google Ads ) はコンテンツ制作者の存続を支えるための収益を提供する。G メール( Gmail )は約 20 億人が E メールを受信するために使っており、受信トレー( in-boxes )に 10 年以上分のメッセージが蓄積されているユーザーも少なくない。同社の提供しているサービスは無数にあるわけだが、誰もが一番重要と考えているのは、ブラウザのグーグルクローム( Google Chrome )である。インターネットを閲覧するために 30 億人以上が使用している。ある推計によると、Google のアメリカの検索エンジン市場でのシェアは約 90% である。Chrome は、Google が広告を出す際にどのユーザーをターゲットにするかを決定する際に活用するオーディエンス データ( audience data:WebブラウザのCookieを元に収集した個人を特定するデータを含まないデータ)を提供する。また、Chrome は、同社の他の種々サービスを円滑に繋げる役割も果たしている。Chrome を使っていれば、Google が提供する検索やメールのためのツールだけでなく、ジェミニ( Gemini )のような最新の生成 AI ( generative-A.I. )プログラムもスムーズかつ簡単に利用できる。Google Chrome は、ユーザーが Google エコシステム( ecosystem )の奥深くへと滑り落ちていく滑りやすい漏斗の頂点である。このことが、反トラスト法に違反しているとの一審判決が出た訴訟において司法省( the United States Department of Justice )が同社に Chrome を売却させようとしている理由である。ある意味で画期的な判決である。
今年 8 月に DC 地区連邦地裁が検索サービスとオンライン広告に関して「 Google は独占企業であり、独占を維持するために独占企業として行動してきた」との判断を下した。先週、司法省( DOJ )はこの問題をどのように改善すべきかについての提案を発表した。司法省は、Google が競合検索エンジンの「重要な流通チャネル( distribution channels )と流通パートナー( distribution partners )を競合企業から奪った」と指摘した。それを是正するために、Google は Chrome を売却もしくは独立事業に分離させるべきであるという。ブルームバーグ( Bloomberg )の分析によれば、その価値は 150 億から 200 億ドルに達するという。司法省が勧告したのはそれだけではなかった。Google Search を各社のデバイスのデフォルト検索エンジンとすることを保証するため、同社がアップル( Apple )やサムスン( Samsung )などの競合企業に数十億ドルを支払う既存の取り決めを Google が中止すること、直接の競合企業に検索結果を「わずかな費用( marginal cost )」でライセンス供与すること、ユーザーと広告に関するデータを無償で共有することである。
これらの提案が実現すれば、インターネットの状況に関する Google の詳細な専有情報が多かれ少なかれオープンソースになるだろう。他社の検索エンジンが Google 独自のデータを活用して Google にキャッチアップするチャンスが増える。スタートアップ企業でも Google Search の新しいインターフェースや、検索結果をフィルタリングする新しい方法を提供することができるようになる。11 月 21 日のブログ投稿で、Google の国際問題担当社長兼最高法務責任者のケント・ウォーカー( Kent Walker )は、司法省の提案は「極端( extreme )」なものであり、「人々が Google Search にアクセスする能力を意図的に妨げる」ものであると主張している。この提案が実現されれば、ユーザーがどの検索エンジンやオンライン ソフトウェアを使用するかについて、より独立した選択を行えるようになるだろう。
現状、Google は自社の人気のオンラインソフトウェアのデフォルト設定をコントロールすることで実質的に自社製品を優遇している。Google Search ではグーグルマップ( Google Maps )が目立つようになっており、Google Maps は地元企業の Google のレビューを強調している。司法省の提案が実現すれば、ユーザーは Google Search にオプトイン( opt in:ユーザーが許可する意思を示すこと)をわざわざしなければならなくなる。ウォーカーがブログで主張していたのは、「新しい規則下では、Google Search にアクセスするためには、Google がつくったスマホ Pixel を使っても 1 つではなく 2 つの別々の選択画面をインストールする必要がある」ということである。実際には、マイクロソフト( Microsoft )の Bing やダックダックゴー( DuckDuckGo:ユーザーのプライバシーを重視した検索エンジン)のような選択肢が表示されるようになり、 Google を使いたいユーザーはそれに同意するために 2 つボタンを押すような形になるだろう。Google の知名度とその製品の優位性を考えると、ほとんどのユーザーは競合他社の製品よりも Google の製品を選び続ける可能性が高いだろう。制限が課されれば、 Web サイトにポップアップのようなものが表示されて、クッキーを受け入れて自分のデータが追跡されても問題ないか否かをユーザーに尋ねるような形になると推定される。これは、近年 EU で規制によって義務付けられたシステムである(アメリカには同様の規制はないが、カリフォルニア州など一部の州では規制が存在している)。このようなポップアップが表示されれば、ほとんどの人は反射的にオプトインするだろう。
ウォーカーは、反トラスト法違反で自社が訴えられたのは 「前例のない政府の越権行為 ( unprecedented government overreach )」に該当すると主張する。2001 年に Microsoft もウェブブラウザーの抱き合わせをめぐって同様に反トラスト法違反で訴えられた。しかし、最終的には司法省に 2 分割する要求を取り下げさせた。Microsoft は司法省と和解するにあたって、ソースコードの一部を他の企業と共有することに同意した。Microsoft は現在もテック業界の巨人の地位を維持しており、最近ではオープン AI ( OpenAI )への投資で活気を取り戻している。Google の場合、Chrome を切り離すことが最も侵食の少ない選択肢になるかもしれない。Chrome を残そうとした場合、あるいは切り離ししても Google の独占が維持されると判断された場合、原告は世界中で 30 億台以上のスマホを稼働させているオペレーティングシステムの Android を切り離すことを提案するだろう。しかし、そこまで劇的な措置は必要ないであろう。DC 地区連邦地裁のアミット・メータ( Amit Mehta )判事が来年夏までこの案件について判決を下す予定はないし、その後も長い控訴手続きが続く可能性が高い。余談であるが、第 2 次トランプ政権はシリコンバレーと親密な関係にあるようにも見えるが、ドナルド・トランプが連邦通信委員会( Federal Communication Commission:略号FCC )委員長に指名したブレンダン・カー( Brendan Carr )は、Google や他のハイテク大手による「検閲カルテル( censorship cartel )」を解体しなければならないと声高に非難する人物である。
その一方で、テック業界の勢力図はそれとは関係なく変化するかもしれない。反トラスト法違反の判決がなくても、Google の独占的な支配力はここ数十年で最も不安定に見える。Google Search の市場シェアは、数年前に比べると実際に 2〜 3%低下している。Bing が徐々に勢いを増しているものの、市場シェアは 10% 未満である。また、2022 年 11 月に ChatGPT がリリースされて以来生成 AI の存在感が増しており、Google が発明した古典的な検索インターフェースの優位性は若干ではあるが失われつつある。将来の検索機能とブラウザは、オンラインで公開されているものを整理した百科事典というより、人工知能で生成されたコンテンツの複合体を映す魔法の鏡のようになるのかもしれない。パープレキシティ( Perplexity )や アーク( Arc: Browser Company が開発) など、人工知能を巧みに組み込んだまったく新しいタイプの検索インターフェースが登場している。これらは AI を駆使して Web サイトをフィルタリングして再構成し、特定のクエリに対して比較的精度の高い情報を効率的に返す。Google、Microsoft、メタ( Meta )の 3 社は、AI 検索に最適な製品の開発でしのぎを削っているが、こうしたテクノロジーは既存の製品にとって破壊的であるため、最終的には老舗ブランドが駆逐される可能性も十分にある。全く新奇なテクノロジーを引っ提げた予想外の企業が登場して人気を一気に奪う可能性もある。それは 1990 年代後半に Google が成し遂げたことでもある。
反トラスト法判決に対する Google の主張の 1 つは、自社のビジネスが AI によって過酷な競争にさらされるようになっているということである。その点で政府の規制機関の認識が誤っているという。ある意味、同社の主張は正しい。今後、Google にとって政府の規制よりも生成 AI の方が大きな脅威となる可能性がある。間違いなく言えるのは、今後大きな変化がもたらされるということである。それは検索バーにいくつかの新しいオプションが加わるような小さな変化ではない。インターネットのユーザーエクスペリエンスが大きく一新されるだろう。♦
以上
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