山火事発生件数急増!個々の山火事の規模も年々巨大化している!自然現象?いや、これは人災です! アメリカ

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 ウエストがホットショット隊の隊員としてのキャリアを始めてから、アメリカの山火事の様相は大きく変化し続けています。ナトール峡谷火災が発生して以降、山火事は強度と複雑さが非常に増しました。最近の山火事はしばしば制御不能と思われるほどで、10万エーカー(約4万ヘクタール)以上を焼き尽くし、延焼防止にかかる費用は数百万ドルに達します。山火事の研究者たちは、そのように大きくなった山火事を指す用語として「メガファイア」という語を作り出しました。ここのところ毎年のように、メガファイヤによって焼失する面積が米国中で火事で焼失する総面積に締める割合は高くなっています。気象学者は、米国でメガファイヤが発生する日数は、2050年までに50%増加すると予測しています。

 今年の春、私は山火事専門の消防士になるための訓練を受けました。そして、夏に単独の山火事としてはカリフォルニア州で過去最大となるディキシー・ファイヤ(ディキシー山火事)が発生しました。ちょうど私が取材でウエストからナタール峡谷火災での恐怖体験を聞かせてもらっていた頃のことでした。ディキシー山火事によって、ウエストが生まれ育ったスーザンビルの住人は避難を余儀なくされました。私はスーザンビルから南へ66マイル下ったあたりでハンドラインを作り放水の準備をする作戦に参加していました。ディキシー山火事の最前線の炎の前進と拡大を防ぐことが目的でしたが無理でした。あっという間に延焼面積は100万エーカー(約40万ヘクタール)近くにまで拡大しました。

 最近の巨大な山火事は驚くべき動きをします。1990年代後半に、数人の気象学者が気象衛星からの画像を分析してオーストラリアや他の国々で異常な雲が発生していることに気付きました。気象学者マイケル・フロムが推測したのですが、そうした雲が形成されたのは、雲のはるか下にある大規模山火事が引き起こした対流の影響だと思われます。研究者たちによれば、最終的には、メガファイヤのような巨大な山火事は火災積雲を生み出すだけでなく、火災積乱雲も生み出すそうです。火災積乱雲は稲妻を発生させます。気流が非常に強いため、商業用ジェット機が巡航する成層圏にも煙の粒子が入り込むことになります。フロムは言いました、「私たちが何が起こっているのかを説明しようとした時、文字通り笑う人もいました。笑った人たちは、成層圏にエーロゾル(煙霧質)が入り込むとしたら、火山の影響しかないと考えているんです。」と。

 それ以来、火災積乱雲はますます頻繁に観察されるようになりました。2003年、オーストラリアのキャンベラで発生した山火事にでは火災積乱雲が形成され、火災旋風を引き起こしていました。それは竜巻の一種でFスケール2の大きさで、風速は時速113マイルを超えていました。2010年代には、多くの気象学者たちが、火災積乱雲の形成を観測しました。場所は、ロシア西部、欧州、アフリカ、南米などでした。最近では、北極圏上空で観測されています。今から2年前(2019年)、オーストラリアで山火事が発生し、それは通称でブラックサマー山火事と呼ばれていますが、1週間で18個の火災積乱雲の発生が観測されました。それにより、南半球全体に巨大な煙の層が広がりました。煙の層は最大で幅が620マイル(1042キロメートル)もありました。フロムは言いました、「それは私たちにとって非常に衝撃的でした。」と。

 そびえ立つ火災積乱雲が崩れると、大量のエネルギーが放出され、下降気流が生み出されます。それは非常に高速度の風ですので、山火事と格闘する消防士の身に危機をもたらします。とって危険です。カリフォルニア大学マーセド校で山火事の研究をしているクリスタル・コールデンが私に言ったのですが、「火災積乱雲が崩れると、山火事は多大なエネルギーを得ることになり威力が非常に増すことは非常によく知られています。」と。下降気流の恩恵によってメガファイヤが発生すると、数万エーカーが数時間で焼き尽くされることもあり、あっという間に消防士が火に飲み込まれてしまうこともあります。そうした火事の煙は地球の広範囲を覆い、昼の日照時間が減るので、通常時と大気の循環が変わってしまい、普段と風向きが変わりますし、各地で突風が吹く原因となります。

  山火事の消防士には常にリスクが付き纏いますが、リスクは年々高まりつつあります。米国立山火事消防協会によれば、1910年から1996年の間の山火事の消防活動中の死亡者数は699人です。また、連邦緊急事態管理庁によれば、過去30年間の死亡者数は500人以上です。グリーンベレー部隊員としてアフガニスタンに9回派遣された経験のあるトム・リーは、2018年と2019年に合計9回山火事の際に消防士として働きました。彼が私に言ったのですが、メガファイアの消火活動はこれまでに行った中で最も危険な仕事で、アフガンでの戦闘行為より危険だったそうです。彼は「山火事は非常に動的であり、予測不可能だ。」と私に言いました。彼は山火事の消火活動を戦闘に例えて言いました、「あらゆる不測の事態に備えて計画を立てることはできますが、山火事の消化活動ではいつも予測不可能な出来事が起こるのです。」と。

 山火事の激しさが増している理由は、気候の変化も原因ですが、山火事の鎮圧方法が変わったことも影響しています。1930年代から70年代までは、山火事の消火活動では” 10 a.m. policy(以下、午前10時ポリシー)”が採用されていました。それは新しい山火事が発生したら翌日の午前10時頃までに消すことを目指すというものです(消火することを急がない)。そのポリシーは数十年前に捨てられたのですが、その考え方は依然として山火事の消防に携わる者たちのあいだに根強く残っています。米国林野局と内務省を合わせると約1万5千人の山火事の消防士を雇用しています。炎の鎮火を何よりも優先するよう指示されています。その結果、米国で発生している山火事の98%は、大規模なものになる前に鎮火されています。しかし、山火事を早期に鎮火して焼失面積を小規模にとどめるということは、将来山火事になる可能性のある面積を沢山残すことを意味します。そうした燃え残った将来の山火事候補地が沢山増え続けて山火事が発生すると、大規模になり期間も長くなり激しさも増してしまいます(そうした土地は消防士の間では ”fire deficit(燃え残り)” と呼ばれてます)。山火事の消防士が1世紀に渡って山火事の鎮火を頑張ってきた結果、本来は山火事で焼失したはずなのに、早期に鎮火されてしまい焼失せずに残った将来の山火事候補地の面積は増えに増えました。カリフォルニア州だけでも推定2千万エーカーにもなります(メリーランド州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州を合わせた面積と同じ)。林野局も内務省もそれは非常に危険であることを認識していますが、特に思い切った対策は取られておらず、粛々と旧来通りの方法で山火事に対処しています。それは、官僚のリスク回避的な思考や、予算上の制約等が原因と思われます。結果として、米国中に山火事の可能性がある土地が増え続けています。

 2017年に全米消防士組合連合の常任理事のティモシー・インガルスビーは、組合連合の機関誌”International Journal of Wildland Fire”に記事を書きました。その記事で彼が主張していたのは、気候変動が無くなるか、増え続けえいる山火事の候補地が全て燃え尽きない限り、大規模山火事は無くならないということでした。歴史家で山火事の消火に携わった経験のあるスティーブ・パインは私に尋ねました、「山火事を消防士が消火する理由は何ですか?時に本当に消火するのが良いことなのか考えさせられる時もあります。」と。消防士が頑張って山火事を消せば消すほど、将来山火事が発生しそうな面積は増え続けてしまい、山火事の激しさを強めてしまうのです。このことを山火事の研究者は、これを”fire paradox(山火事消火の誤謬)”と呼んでいます。現在、山火事の消火に携わる者にとっては由々しき問題です。