NYダウ8週連続下落は100年ぶり!株式相場の下落は何を示唆している?既にスタグフレーションに陥ったのか?

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What Is the Fall in the Stock Market Telling Us?
株式相場の下落は何を示唆しているのか?

Investors are fearful of a recession, but the White House says the economy is resilient.
投資家の多くは景気後退を恐れています。一方、ホワイトハウスは米国経済は力強く回復すると主張しています。

By John Cassidy May 24, 2022

 月曜日(5月23日)にダウ平均は、前の週の終値から大きく値を飛ばして2%ほど上昇しました。しかし、翌日24日には、米国株式市場は大混乱しました。その日の終値は、ダウ平均だけはわずかに前日比でプラスでしたが、S&P500は1%近く、ナスダックは2%以上下落しました。

 もし、今週もダウ平均が下落すれば、9週連続となり、第二次世界大戦前以降で最長となります。各ニュースメディアは、競うようにして弱気相場入りしたと報じています。弱気相場というのは、通常であれば20%以上株価が下落した時に使われる言葉です。今、株式市場で何が起きているかを注視すべきです。暗号通貨は大きく価値が毀損してしまったので除外して話をしますが、今年に入って株式相場が低迷していると言っても、超低金利と金融緩和で新型コロナ発生後の2年間で多くの投資家が受け取っていたボーナスのほんの一部が消え去ったにすぎない状況です。新型コロナ発生後のバブルは崩壊したようですが、依然として株価は非常に高い水準にあります。

 それは、いくつかの数字を見れば明らかです。新型コロナのパンデミックが発生する約1カ月前の2020年2月19日に、米国内の大企業のほとんどが構成銘柄となっているS&P500の終値は3,386.15で、史上最高値を記録していました。月曜日(5月23日)の終値は3,973.75で、パンデミック発生前の高値から約587ポイント、およそ17%も上昇しています。また、ナスダックも似たような状況で、パンデミック前の最高値は2020年2月19日の9,817.18ですが、月曜日(’5月23日)の終値はそれを約17%上回る11,535.27でした。

 別の見方をすれば、この27ヶ月間で米国経済はかつて経験したことが無いような緊張に晒されていたわけですが、株式市場は総体的に堅調だったのです。企業や工場の長期操業停止、サプライチェーンの不具合、足元での世界的なエネルギー価格高騰という逆風下でも堅調だったのです。直近でかなり株価が下落してしまったわけですが、それでも、インデックスファンドに投資したり、幅広い銘柄に分散投資しているような投資家は、新型コロナ発生前と比較すればかなり資産が増えたはずです。CNBC(米国のニュース専門放送局)のニュース報道やソーシャルメディアを見ていても、そうした事実はあまり報道されていません。しかし、数字は嘘をつきません。数値をよく見て欲しいものです。

 もちろん、Netflix、Zoom、Peloton などの在宅する割合が増えることを見越して株価が高騰していた銘柄に投資していた投資家にとっては、今年に入ってからの株価下落の影響は甚大でしょう。しかし、ほとんどの人が気にしているのは、現在の株式市場の低迷は単に過去の過熱しすぎた株価を修正したものなのか、それとも何か暗い未来を暗示するものであるのか、どちらなのかということです。暗い未来とは、GDPが縮小し失業率が大幅に上昇して不況になるということです。米国では半数近くの人が全く株式にもインデックスファンド等にも投資していませんので、そうした人たちは株式市場が下落しようがほとんど気にしないのです。

 今後の景気の先行きが案じられるわけですが、ナスダックやS&P500が下落したからといって、必ずしも経済が壊滅的になるわけではないことを忘れてはなりません。経済成長の原動力は消費と雇用ですが、インフレ率の急上昇により実質賃金が低下しているにもかかわらず、その2つの数値はそんなに落ち込んでいません。先月の小売売上高は0.9%増で、前年同月比では8.2%増と好調でした。また、2022年1月以降、雇用も非常に力強い状態が続いており、毎月の新規雇用者数は、平均で50万人以上となっています。

 当然ながら、バイデン政権はしきりにそうした数字を有権者にアピールしています。大統領経済諮問委員会 (CEA)のセシリア・ラウス委員長は、先週のオンラインの会見にて、「米国経済の足腰は非常に強い。」と述べました。ラウスは、3つの要因が米国経済を下支えしていると主張しています。一つ目は、労働市場の活況です。失業保険申請件数が過去50年の中で最低水準です。二つ目は、堅調な民間企業の投資意欲です。三つめは、堅調な家計消費支出です。米国救済計画法(American Rescue Act)によって家計を下支えした効果が昨年から引き続き出ているようです(トランプ政権時代に米下院が制定した新型コロナパンデミック救済プログラムの効果も残っているようです)。ほとんどの家計のバランスシートは傷んでおらず、物価上昇に対してもある程度は耐えられそうな状況です。ラウスは言いました、「私は、物価上昇は辛いものだということを良く理解しています。たしかに、非常に辛いものです。しかし、バイデン政権の過去1年間の取り組みの成果によって、各家計は非常に健全な状態になっています。ですので物価が上昇しても吸収できないわけではありません。」と。

 ラウスが強調したことは、多くのエコノミストも認識していることでした。正しいことなのに、インフレに関する議論であまり触れられないことなので、敢えて言及したのだと思われます。新型コロナのパンデミックが始まってからの2年間で連邦政府はかつてないレベルの支援を行ってきました。特に各家計への給付金と扶養控除額の増額のおかげで、多くのアメリカの家計は負債を減らすことができました。特にクレジットカードの債務残高が減り、銀行口座の預金額が増えました。ニューヨーク連銀の統計によると、米国救済計画法(American Rescue Act)が成立した昨年の第1四半期に、クレジットカードの債務残高は米国全体で490億ドル減少しています。過去2番目に大きな減少幅となりました。今年第1四半期末時点のクレジットカードの総債務残高は、2019年末より860億ドルも減少しています。

 月曜日(5月23日)に、米国最大の銀行であるJPモルガン・チェースは、景気悪化時に顕著となることが多いローンの返済延滞件数が増加する兆候はほとんど見られないと発表しました。同行の最高財務責任者(CFO)ジェレミー・バーナムは、「全体として、特に米国の消費者向けの短期的な信用見通しは依然として強い。」と述べました。これは良いニュースです。悪いニュースとしては、新型コロナのパンデミック関連の支援策のほとんどが期限切れとなったことが挙げられます。クレジットカードの負債が再び増加していますし、自動車ローンや学生ローンの債務残高も増加しています。悪いことに、同時に消費者物価と金利も急上昇しています。(大半の債務者は返済を続けているが、自動車ローンの延滞が、信用度の低い債務者を中心に増加しています)。

 ジェローム・パウエル議長率いるFRBが景気減速とインフレ抑制のために政策金利を引き上げると、家計、個人消費、雇用はどうなるか?現在、米国経済にとって、その問いは最も関心がもたれているものです。先週、パウエル議長は、インフレ率がFRBが目標としている2%に向かって低下しているという「明確かつ説得力のある(clear and convincing)」証拠が得られるまで金融引き締めを継続すると言い、これまでの方針に変更がないことを改めて強調しました。パウエルは、FRBが米国経済を軟着陸(soft landing)させることができるだろうという見通しを示す一方で、それは決して容易ではないということも認めています。

 数ヶ月前まで、多くのエコノミストが今年後半にはインフレ率は急激に低下すると予測していました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰していますし、中国での新型コロナのロックダウンによる影響でサプライチェーンは現在でも不全な状態となっています。先週のAAA(全米自動車協会)の報告によれば、ガソリン1ガロンの全米平均価格が初めて4.50ドルを超えたそうです。JPモルガン・チェース銀行が出した予測によれば、8月までに1ガロン6ドルを超える可能性があるそうです。全米の小売売上高は堅調に推移していたのですが、今年に入ってから住宅ローン金利が急上昇した住宅市場などで弱含んでいる兆候が出始めています。また、ターゲットやウォルマートなど小売業界の一部では、消費者がインフレを懸念しているような動きが謙虚になりつつあり、生活必需品や安価なプライベートブランドの購買比率が高まっているようです。

 全米ビジネスエコノミスト協会(the National Association of Business Economists)が行った最新の調査によると、今年末から2023年前半にかけて景気が後退すると予想したのは回答者は4分の1に過ぎなかったのですが、その予測は多くの投資家やバイデン政権が望んでいるような明るいものではありませんでした。その調査の回答者の予想は、今年の第4四半期の実質GDPは2021年の同期比1.8%増の微増となり、これまでの予測に比べて成長率は大幅に鈍化するというものでした。また、回答者の予想では、インフレ率は5.6%までしか下がらず、FRBのインフレターゲットを大幅に上回るとされています。

 巷ではもっと悲観的な予測をしている者も少なくないようです。たくさんの投資家の資金を運用している人の中にも悲観的な予測をしている人がいるようです。世界最大のヘッジファンドの一つであるブリッジウォーター・アソシエイツの共同最高投資責任者のグレッグ・ジェンセンは、前週末にブルームバーグの取材に応じた際に言いました、「米国はスタグフレーション突入目前である。来年か再来年には、マイナス成長になると思う。」と。また、ジェンセンは、株式相場が底を打ったと判断するのは時期尚早であり危険であると言っていました。彼は言いました、「現在の株式市場は、まだ過度に楽観的だと思います。実体経済が大きく悪化していますが、現在の株価はまだそうした変化を完全には織り込んでいない。」と。これは、あくまで彼の個人的な見解であり、必ずしも正しいわけではありません。しかし、FRBの利上げが打ち止めになることが明らかになるまでは、株式市場が安定することは無いと思われます、残念ながら、現在、FRBの利上げがいつ打ち止めになるかを予測することは不可能です。

以上