炭素を除去するテクノロジーの進化について 嘘でしょ?残念ながら焼け石に水以下のレベルだった! 

Annals of a Warming Planet

What Is the Opposite of Oil Drilling?
石油掘削の悪影響を打ち消す手段はあるか?

A growing industry aims to remove carbon from the atmosphere—but it’s still in its infancy, and greenhouse-gas emissions remain dangerously high.
大気から炭素を除去する業界は成長を続けることを目指しているが、まだ初期段階にあり、温室効果ガスの排出量は依然として危険なほど高いままである。

By Michelle Nijhuis June 7, 2024

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 カンザス州ウイチタ( Wichita )近郊の農場に住む地質学者のモンテ・マークレー( Monte Markley )は、自分の仕事を「地中に物質を埋めて、それを留めておくこと」と定義している。環境コンサルタントとして、彼は地下の岩盤層に産業廃棄物を処分することを専門としている。「私はこれまでずっと、誰も話題にしたがらない工場の裏側から出てくる廃棄物の処理を手伝ってきた」と彼は私に言った。2020 年初頭に彼はサンフランシスコ近郊にあるチャーム・インダストリアル( Charm Industrial:以下、チャーム社)という企業の共同設立者ショーン・キネティック( Shaun Kinetic )から電話を受けた。キネティックは、ロボット、人工衛星、ロケット等の製造に詳しかったのだが、厄介な種類の廃棄物の処理で相談に乗って欲しいと言ってきた。特に地球温暖化の原因となる厄介な炭素の処理方法を知りたがっていた。

 マークレーは、排出される炭素を大気圏に放出される前に回収して貯蔵しようとする企業と仕事をしていた。しかし、チャーム社が取り組んでいたのは、既に放出された炭素であった。同社はパイロライザー( pyrolyzer:熱分解装置)と呼ばれる機械を改造し、トウモロコシの茎などの植物を酸素のない環境下で加熱して、濃いメープルシロップのような色と粘度を持つ炭素を豊富に含む液体、バイオオイル( bio-oil )に変えようとしていた。キネティックは、バイオオイルを地下に埋設することが可能か否かを知りたかった。マークレーは、可能だと答えた。実際、バイオオイルはおそらく何世紀も、いやもっと長い間閉じ込められたままである可能性が高い。このプロセスは、従来の石油の掘削と燃焼に似ているが、まったく逆のものである。

 2021 年後半にキネティックからマークレーに再び電話があった。チャーム社が望んでいたのは、移動式熱分解装置によって農場でバイオオイルを生産できるようにすることであった。そのためにキネティックが言ったのは、マークレーの所有する土地でチャーム社の最新鋭の熱分解装置をテストしたいということであった。マークレーはそのことについて妻のアンナ( Anna )と話し合った。マークレー夫妻は農地を所有していて、長年、自然保護に関心を持ち、気候変動に対する解決策に関心を持っていた。マークレーは当時のことを鮮明に覚えていて、「私たち夫婦が自然保護の重要なプロジェクトの一部であったことを子供たちに伝えることができたらクールではないだろうか 」と考えたという。マークレー夫妻は同社と農地の賃貸借契約を締結した。

 2022 年 1 月、セミトレーラー 3 台がマークレー夫妻の農場に到着し、大きな輸送用コンテナを 3 個置いていった。キネティックと彼の妻ケリー( Kelly:チャーム社の共同設立者の 1 人であり、同社の最高技術責任者)は、吹雪の影響でその 3 日後に到着した。チャーム社のエンジニアも大勢やって来て、マークレー夫妻の家から数百ヤード離れた場所で熱分解装置の梱包を解いた。彼らはこの装置を、首の長い草食恐竜にちなんでアパトサウルス( Apatosaurus )と呼んでいた。マークレーはその装置の複雑な機構に大いに興味をそそられた。「イーロン・マスクがツイッターで投稿しそうなものに見えた。」と彼は私に言った。

 アメリカ中西部の冬は厳しい。思わぬトラブルが発生することもあった。熱分解装置を格納するコンテナに雪が分厚く積もった。氷点下の気温で装置の液晶画面に不具合が発生した。熱分解装置は 1 日 10 トンのバイオマスを処理するように設計されていたが、近隣の農場から送られてくるトウモロコシの茎には小石などが含まれており、それを除去しなければならなかった。装置はしばしば夜中の 2 時までうなり声を上げていた。「妻は 『装置が壊れたんじゃない?』という感じだった。」とマークレーは振り返る。マークレー夫妻は時々、技術者たちにコーヒーをふるまったり、夕食に招いたりした。半年後の時点でチャーム社がそこで生産したバイオオイルのトン数は一桁でしかなかった。熱分解装置は機能しなかったわけではないが、期待したほどではなかった。

 気候変動による壊滅的な影響を押し止める最善の方法は、化石燃料の使用を止めることである。先日、多くの世界有数の気象専門家が警告したのだが、石油、ガス、石炭を段階的に減らしていくだけでは十分ではないという。人類が地球を摂氏 1.5 度以上温暖化させないためには、毎年少なくとも 1 ギガトン、場合によっては 10 ギガトン以上の炭素を大気中から除去し、数世紀先までどこかに貯蔵しておく必要があるという( 1 ギガトンは、地球上のすべての人の体重の合計の 2 倍以上に相当する)。炭素除去に批判的な者も少なくない。彼らが長い間懸念しているのは、炭素除去が環境を破壊する者に炭素の排出を続ける口実を与え、安易な逃げ道を与えることになるということである。しかし、本当の問題は、簡単に炭素を除去する方法自体が存在していないということである。