本日翻訳して紹介するのは、the New Yorker のWeb版にのみ3月14日に掲載された Isaac Chotiner のコラムで、タイトルは、”What the Saudi-Iran Deal Means for the Middle East”(サウジとイランの合意が中東にとって何を意味するか)です。
スニペットは”Brokered by China, the agreement between the two regional rivals reflects shifting economic—and ideological—alignments.”(中国が仲介したこの地域のライバル 2 か国間の合意は、経済的、そしてイデオロギー的な調整の変化を反映しています。)となっています。
さて、このコラムは、直近の中東情勢について、スタッフライターの Isaac Chotiner が中東の専門家と議論した内容です。記事の形式はQ&A形式となっています。直近で、サウジアラビアとイランが中国の仲介によって外交関係の正常化に合意したと発表していました。そのニュースに関してChotinerが専門家に質問している形です。
さて、このニュースで一番インパクトが大きかったのは、2国間の合意が中国の仲介によって為されたことでした。中国が中東におけるプレゼンスを急速に高めているようです。といっても、別に中国の姿勢とかが立派で尊敬されているわけではありません。中東の産油国はどこの国も最大に輸出先が中国だから、それで普段からお付き合いがあるというだけです。
ところで、中国が仲介したことをアメリカの外交上の大失態であると指摘する者も少なくないようです。しかし誤りです。かつての2つの超大国(アメリカとソ連)の覇権争いでは、どんな時も一方が勝者で他方が敗者でした。しかし、アメリカと中国の関係はそれとは違っていて、経済的に広く深く繋がっています。ですので、片方が勝者になることは、他方も勝者になることを意味するのです。今回の場合でも、中国が中東に平和をもたらしたとしたら、中国がメリットを享受できる勝者なわけですが、アメリカも同様にメリットを享受できるのです。むしろ、アメリカの方が何もしなかったのに美味しい目を見れるので勝者だと言えるくらいです。
さて、今回のコラムの要旨は次の通りです。
- 中国の事情
・サウジとイランの外交正常化を仲介したことは中国外交の勝利。3点を世界に知らしめた(中東での中立姿勢、平和を望む姿勢、中東の2大国を仲介する外交能力)
・中東での宗派争いは興味なし、共産主義を広めたいわけでもない、そこに台湾のように主権を主張する島があるわけでもない。
・仲介した動機は純粋に経済的なもの、とにかく安く原油が調達したい、そのためには紛争が無い方が良い。
・シーア派にもスンニ派にも与していないことと、アメリカのように人権とか核開発問題とかウザいことを言わない姿勢と、サウジ・イランと同様に奔放な独裁体制であることで共感を得られたことで仲介役たりえた。 - サウジアラビアの事情
・原油施設がドローン攻撃された際に助けてくれなかったアメリカだけに頼るのは心細い。もはやどことでも手を組む状態。
・イランの核開発プログラムを脅威に感じていた⇒とりあえず国交正常化しておきたい。単にそれだけ。同盟を結ぶわけではない。
・イランとイスラエルと対峙している。イランと協調するとイスラエルが反発するかもしれないと恐れていたが、単なる国交正常化だから無問題だった。イスラエルは問題山積で、湾岸地域でどことどこが提携しようが気にしておらず、とにかくちょっとでも平和になれば何でも良い。
・中国は原油の最大輸出先で、仲介してくれたのは渡りに船。 - イランの事情
・核開発プログラムの件で孤立が深まっている。
・国内で抗議活動が盛り上がっており、またエリート層にも分裂が見られる。
・国内外で課題を抱えており、特にイスラエルと対立しており、同時に大国サウジと対峙するのは不可能。
・原油の最大輸出先の中国が仲介するのなら、断らないが良いと考えた。 - イスラエルの事情
・最も忌み嫌っているイランとサウジが国交正常化するのは脅威だと見る向きもあるが、単なる国交正常化だけなら無問題と認識。
・正当にガザ地区を占拠していると認識しているのだが不当と見られることもあり、とにかく大人しくしておいて目立たず誰にも気づかれないようにやり過ごしたい。
・中東がとにかくちょっとでも平和になれば恩恵大きい。今回の合意はその点で歓迎すべき。 - アメリカの事情
・外交政策の失態と見る向きもあるが、全く的はずれな指摘である。
・とにかく中東で諍いが減ることが自国にとってプラス。天然ガスが出るから、もはや中東から原油を買う必要はなく、バイデンはお金をかけて関与する意味が分からない状態にある(加齢の影響ではない)。
・そもそもアメリカがサウジとイランを仲介することは不可能。サウジと話し合いをしたらカショギ氏殺害の件を棚上げにできないし、イランの場合には核開発プログラムの件を棚上げにできない。そんなことをしたら、国内世論がもたない。
⇒そんな状況下で中国が労を惜しまず仲介役をしてくれたことはラッキー。労せずして中東の安定という果実を手にし、そこから得られる利益を享受できる。
以上が要旨でした。
では、以下に和訳全文を掲載します。詳細は和訳全文をご覧ください。