Question 5
Question5
サウジアラビアがロシアや中国に接近しようとする理由は他にもあるのでしょうか?MBSのような人物がシンパシーを感じるような政治体制を2国が保持していることが理由だったりするのでしょうか?MBSは、ジャマル・カショギ(Jamal Khashoggi)が殺害された件や、女性人権活動家に禁固刑を言い渡した件でバイデン政権から非難されることを、あまり愉快なことではなかったと思っていたでしょう。要するに、MBSがイランと接触しようとした動機は、実利的であると同時にイデオロギー的でもあるということでしょうか?
Answer
MBSにとって、アメリカは安全保障の観点から最も重要な国の1つであることに変わりありません。武器の調達、軍事訓練、諜報活動などでアメリカとの連携が必須である状況は変わっていません。しかし、MBSに、アメリカとの連携を差し置いてでも、ロシアとの連携を深めなければならない事情が発生してしまったのです。思い出していただきたいのは、MBSが中国やロシアにいろいろと働きかけをするようになったのは、バイデン政権発足後のことでも、ましてやオバマ政権末期のことでもないということです。MBSは、ロシアとはオペックプラス(OPEC+)関連で接触したことがありました。サウジアラビアが原油価格を維持するために、非オペック加盟国を取り込もうとしていたことがありましたが、その際にとりわけ産油量の多いロシアには強力に働き掛けをしていました。その時に、MBSは初めてロシアと接触したのです。2015年頃のことです。当時、原油価格が暴落していました。サウジアラビアとロシアとの連携が見られたのは、基本的には原油が暴落していた時だけです。何としてでも原油価格を維持したい時には、鼻つまみ者とも仲良くしなくてはいけないのです。サウジアラビアからすると、原油価格の維持のためにはロシアと連携することが必須なのです。奇しくも2020年に新型コロナの影響で再び原油価格が暴落しました。原油価格の低迷が続く中でロシアが不法にウクライナに侵攻して戦争を起こしたわけですが、サウジアラビア政府の原油価格維持のためにロシアと連携したいという決意は固いもので揺らぎませんでした。
ロシアは、サウジアラビアから原油の減産を持ち掛けられても協力しないことも多々あります。むしろ、自国だけは産油量を増やして単価の下落を補おうとしたりします。そんな時には、サウジアラビアは自国の産油量も増やし、原油価格をさらに下落させて、ロシアに協力する必要があることを無理やり理解させます。とはいえ、サウジアラビアは、世界の原油価格をコントロールするためにはロシアとの連携が必要であることは認識しています。そう認識したのは、トランプ政権時代よりも前のことです。したがって、間違いなくバイデン政権よりも前のことです。一方、サウジアラビアが中国へ接触するようになったのは、2000年代にアブドラ国王(King Abdullah)が統治していた時代まで遡ります。彼が国王になって最初の外遊先の1つが中国でした。サウジアラビアが、原油の主要な供給先で急激に需要が増えていた中国に働き掛けをするようになったのは、オバマ政権2期目で中東情勢が不安定な頃よりもはるか昔のことなのです。もちろん、2019年にドローンでの攻撃をサウジアラビアが受けたのにトランプ政権が何もしてくれなかった時よりもずっと前のことです。そしてもちろん、バイデン政権になってアメリカとサウジアラビアとの関係が冷え込むよりもずっとずっと前のことです。