What the Wars and Crises of 2022 Foreshadow for 2023
2022 年の戦争や様々な危機を見れば2023 年を予想できる
Tyrants and thugocrats have tightened their hold amid challenges to democracies, but they face problems, too.
専制的な凶漢独裁者たちは民主主義諸国への挑戦を続けていて、その勢力は強まっています。しかし、彼らも沢山の課題に直面しているのです。
By Robin Wright December 30, 2022
20世紀中頃のことですが、アメリカの霊能者で「ワシントンの予言者(Seeress of Washington)」と呼ばれたジーン・ディクソン(Jeane Dixon)は、1956年にある雑誌の記事において、ジョン・F・ケネディに似た人物が4年後に大統領に選ばれ、任期中に死亡すると予言していました。そのことで、大変な人気を博しました。しかし、彼女は1958年に第三次世界大戦が始まることや、ソ連が人類初の月面着陸を果たすという予言もしていました。彼女の予言が全て当たっていたわけではないのです。そもそも予言というものは、決して科学的なものではありませんし、未来を言い当てることなど不可能なのです。
しかし、2023年の世界の趨勢を予想することは決して不可能ではありません。それは2022年の出来事の延長上にあるわけだからです。2022年に起こった戦争と様々な危機が、新しい年にたくさんの課題を残しています。2022年には、冷酷な独裁者たちが様々な形で民主主義に大きな影響力を及ぼしました。それによって、西側諸国では外交努力の成果が出にくくなりましたし、余分な支出が増え財政的により苦境に陥りました。また、兵器や装備類の備蓄も大きく減る形となりました。残念ながら、独裁者たちが傍若無人な振る舞いを改める可能性は限りなくゼロに近いでしょう。プーチンのウクライナ侵攻、習近平の台湾での前例のない規模の軍事演習、イランの核開発とロシアへの武器供与、金正恩のミサイル発射、タリバンによるアフガニスタンでの強権的支配、ハイチのギャング集団による住民支配、アフリカでのISISの勢力拡大など、世界中で発生している厄介な事態はいずれもすぐには収まりそうもありません。
ソビエト連邦の終焉から30年、2022年は「歴史の回帰」が見られたと、外交問題評議会(Council on Foreign Relations:アメリカ合衆国のシンクタンクを含む超党派組織)のリチャード・ハース(Richard Haass)会長は先日指摘していました。その指摘の通りで、悲しいかな、歴史を振り返ると明らかなのですが、こうした状況に陥ることは決して珍しいことではないのです。21世紀になってグローバル化が急速に進展して国際的な相互依存関係が深まったわけですが、それは残念ながら野蛮な侵略行為の抑止の為には何の役にも立っていません。前世紀同様に多くの侵略行為が発生しているわけで、すでに何万人もの犠牲者が出ています。こうした流血を止める力を持つような国際機関は存在していないのです。国際機関と言えば前世紀の2度の世界大戦後に設立された国連(United Nations)が一番有名ですが、ほとんど無力であるように思われます。スウェーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(International Institute for Democracy and Electoral Assistance)によると、2022年の終わりには、世界の民主主義国家の約半数が衰退しているそうです。多くの国で二極化が進み、選挙の信頼度に疑問符が付く国も少なくありません。多くの国で汚職が手に負えないレベルになりつつあります。市民の自由と報道の自由も多くの国で脅かされています。
2022年には悲惨な出来事が多発したわけですが、それは次の1年の不吉な前兆でもあります。デンマークの元首相でNATO事務総長のアナス・フォー・ラスムセン(Anders Fogh Rasmussen)は、9月にForeign Policy誌に「世界の民主主義国と独裁国の間の溝が深まり、世界は競争と対立の新たな時代に入った。」と語っています。モスクワや北京やテヘランでは、指導者が独裁的に統治をしているわけですが、彼らのような強権的な独裁者でさえ、長期的に安泰な状況を築けているわけではなく、国内外で様々な課題に直面しています。
ロシアでは、プーチンが6月に自らを21世紀のピョートル大帝(Peter the Great)になぞらえていました。彼は、ロシア帝国を復活させるために近隣諸国を征服するという破天荒な構想を抱いています。ウクライナ戦争は、2023年に入っても終わる気配はありません。双方で数千人の犠牲者を出しながら、だらだらと続きそうな気配です。「ウクライナ併合はプーチンのキャリアで最大の取り組みであり、彼がそれをあきらめることは無いだろう。」と、アメリカ国家情報会議(NIC)で務めた経歴を持ち、現在はカーネギー国際平和基金(Carnegie Endowment for International Peace)に属しているユージン・ルーマー(Eugene Rumer)は今月(12月)初旬に記していました。また、「プーチンからウクライナ戦争を止めることはないでしょう。何とかして勝利して、自分のキャリアの最終章を勝者として書き残すことを熱望しているでしょう。彼は死ぬ気でやるか、死ぬまでやるか、どちらにしても引く気はさらさら無いでしょう。」とも記していました。ロンドンにあるシンクタンクの王立国際問題研究所(Chatham House)の元所長のロビン・ニブレット卿(Sir Robin Niblet)が私に語ったところでは、外交交渉によってプーチンの侵略を止めさせる可能性は限りなく低く、せいぜい紛争を停止させる可能性がわずかにあるのみであるという観測が広まっているそうです。
ここ50年間で初めて、アメリカはロシアの核兵器使用を真剣に懸念しなければなりませんでした。プーチンがウクライナ戦争で勝ち目が無くなったとか、自分が権力の座から引きずり降ろされそうだと認識した場合には、その懸念はさらに深まります。核兵器の使用をほのめかして脅すというやり方は、冷戦期間以降のロシアの戦略の軸でした。2022年の秋にロシア軍の重鎮たちがウクライナで戦術核兵器をいつ、どのように使用するべきかということを議論したと伝えられています。アメリカ国家安全保障会議(National Security Council)のジョン・カービー(John Kirby)は記者団に対し、「プーチンのような核保有国の指導者が、ウクライナで核兵器を使用する可能性について言及したら、周りは真剣に受け止めるしかありません。プーチンの話が無謀で無責任なものであるとして放っておくことはできないのです。」と述べていました。
しかし、プーチンのウクライナへの侵攻はこれまでのところそれほど上手くいっていません。ロシア軍が侵略して以降、ロシア軍の脆弱性やロシア軍幹部将校たちの無能さやプーチン自身の無鉄砲さが明るみとなっています。アメリカの国防総省が先月発表したところによると、ロシア軍では10万人以上の死傷者が出ているようです。ロシア国内では、プーチンに対する批判の声も高まっています。徴兵された兵士の多くが、ほとんど訓練も受けずに時代遅れの装備類を持たされて前線に送られることに不満を抱いています。プーチン政権の戦争遂行能力を公然と疑問視する批評家もロシア国内にチラホラ出てきているようです。西側諸国の課した制裁措置によって、ロシア経済は大きなダメージを受けています。現在では、もはやロシアはかつてのような超大国ではないようです。
ロシアがウクライナに侵攻した結果、皮肉なことですが、プーチンの意図に反して、NATOの結束は強まり、その活動が活性化されました。ウクライナ戦争が始まる前、ドナルド・トランプ大統領はNATOを脱退すると繰り返し脅していました。また、バイデン大統領がアフガニスタンでのNATO主導の軍事作戦から撤退した際には、NATOの結束は盤石ではないように見えました。しかし、30カ国からなるこの同盟は、新たな驚異に立ち向かわなくてはならないという使命を得て、冷戦終結後のどの時点よりも結束が強まりました。70年以上も加盟を拒んでいたスウェーデンとフィンランドが加盟を希望すると表明しています。
中国では、習近平が10月に行われた中国共産党第20回党大会で、世界で最も人口の多い国の国家主席として3期目の続投が確実となりました。3期目の続投は歴史上かつて無かったことで異例のことです。習近平は、毛沢東以降のどの指導者よりも大きな権限を持ちました。中国の政治に詳しい専門家の多くが、習近平は軍事的、経済的、領土的に野心的な目標を持っていると指摘しています。彼は、台湾を大陸と統一するために「すべての必要な手段(all measures necessary)」を用いると脅しています。11月のバリで開催されたG20サミットにおいて、習近平がバイデン大統領に対して言ったのは、台湾への介入はアメリカが越えてはならない「最初のレッドライン(first red line)」であるということでした。
しかし、バイデン政権と習政権の関係はかつての米ソ冷戦の時ほどには冷えきっていない、とユーラシア・グループ(Eurasia Group:世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社)社長のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)は言っていました。また、ブレマーによれば、バイデンにとっても習近平にとっても冷戦状態に陥ってしまうことは本意ではないのです。というのは、そこから得られる恩恵は全くないからです。技術流出や台湾をめぐって米中両国間で激しい争いがあるわけですが、両国間には相互依存関係があり、結び付きは切り離すのが不可能なほど強いのです。習近平はさらに権力基盤を強固なものとしたわけですが、低迷している中国経済を立て直す為には欧米諸国との貿易に頼らざるを得ないのです。アメリカの同盟国のほとんども、2つの超大国から1つのみを選択することを迫られるような状況は避けたいのです。経済的には両国いずれとの関係も良好に保っておきたいし、軍事的にはいずれとも紛争を抱えたくないのです。プーチンと同様に習近平も権力基盤を強固に固めたように見えるわけですが、直近で中国の複数の都市で行われたゼロコロナ政策の中止を求める抗議デモが盛大に行われていたのを見ると、それほど強固ではないのかもしれません。習近平政権は長年に渡って情報を統制してきたわけで、特にインターネット上の情報の管理を強化してきました。ゼロコロナ政策の中止を求める抗議デモが発生した際には、抗議デモの動画や警察当局の暴虐行為を撮影した動画が拡散するのを防ぐことに注力していました。しかし、結局、習近平は抗議デモに屈する形でゼロコロナ政策を中止せざるを得なくなりました。
プーチンと習近平は、自国での自身の地位を盤石とするため、同時に西側諸国に対抗するため、2022年に同盟関係を強化しました。2月の北京オリンピック開催の前夜に、2人はお揃いのふじ色のネクタイをして、中露両国の信頼関係には「限界は無い(no limits)」と称え合っていました。また、両国関係は「新しい時代(new era)」に入ったとも語っていました。プーチンは台湾の領有権は中国にあるという主張を支持した一方で、習近平は欧州でのNATOの拡大がロシアの脅威となっているというプーチンの主張に同意していました。9月には、両国の軍事協力が広範に渡っていることが明らかになりました。中国は2,000人以上の兵員と戦闘機21機と軍艦3隻を派遣してロシアと合同演習を行いました。その数カ月後、中露両国は、日本海と東シナ海で、核兵器搭載可能な爆撃機を投入して共同パトロールを行いました。
ニブレット卿が言っていたのですが、短期的には、ヨーロッパとアジアの2大国の結束がより強くなり、アメリカからの圧力に対しての脆弱性がいくぶん小さくなりそうです。2023年には、西側諸国と中露連合との間の溝はより深まるでしょう。一方、アメリカは欧州の同盟国と環太平洋の同盟国との関係をより緊密にすることで、西側諸国の結束をより強固なものとしています。日本、韓国、オーストラリアをNATOやG7各国と緊密に接近させています。同時に、アメリカは、インド・太平洋の安全保障に対して欧州各国も傍観しているだけでなく、もっと積極的な行動を取るよう働きかけています。
イランでは、エブラーヒーム・ライースィー(Ebrahim Raisi)大統領が行政、立法、司法、軍事の各分野で強権的な支配を強めています。ライースィー政権は、イスラム教的な厳格な規範を守ることを国民に強制し、個人の自由をこれまで以上に制限するようになりました。1年以上にわたってイランとアメリカは、2015年にアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国の主要6カ国と結んだ核合意を復活させるべく間接交渉を続けてきました。しかし、イラン政府は原則論を主張する一方で提示された条件に難色を示して、ウラン濃縮活動を大幅に加速させました。現在では、原爆を作るのに十分な量の濃縮ウランを得るのに、1週間もかからない状態であると推測されています(実際に、原爆を作るとなると、他にいくつもの手順を踏む必要があります)。また、イランは、ロシア軍に数百機のドローンを供与しています。それらがウクライナのインフラ破壊と民間人殺害に使用されています。また、米英の情報当局によれば、イランの革命防衛隊(Revolutionary Guards)がクリミアに派遣され、ロシア軍の精鋭部隊の訓練にあたっているようです。
イランでは、秋に髪の毛を十分に覆い隠していないことを理由に拘束された22歳の女性が死亡したことを受けて、10代の少女を含む若い女性たちが主導する形で若者たちによる抗議活動が全国で数ヶ月にわたって展開されました。それは、1979年イラン革命が起こってレヴィー朝が倒れてイラン・イスラム共和国が樹立されて以降で最大の抗議活動でした。その抗議活動が繰り広げられていた頃、シーア派宗教指導者でイランの最高指導者でもあるアーヤトッラー・アリー・ハーメネイー(Ayatollah Ali Khamenei)は、高齢なこともあり病に臥していました。外交問題評議会(Council on Foreign Relations)のハース会長は私に言いました、「2023年には、地政学的に見ると波乱含みのイランから目が離せなくなるでしょう。イランでは、抗議活動が収束するか否か見通せませんし、最高指導者が交代する可能性も否定できませんし、核合意の顛末も全く見通せません。」と。
ハースは、2022年は決して悪いことばかりではなかったとも言っていました。アメリカの主要なライバルである中露両国や対立しているイランが国内で様々な問題に直面しており、独裁的な政権の基盤が必ずしも強固ではないことが明らかになりました。同時に、アメリカ国内に目を向けると、秋に行われた中間選挙では醜悪な民主主義否定論者の多くは敗北しました。ハースは、民主主義を信奉する西側諸国は思っていたほど脆弱ではなかったことが明らかになったし、民主主義の重要性が再認識されるようになり、西側諸国の連携がより深まったと指摘しています。また、世界各地で繰り広げられた抗議活動も一見バラバラのように見えて、価値観は共有されており、連携しているように見えなくもありません。「我々が目撃したのは、マリウポリ、マナグア、カブール、キガリ、台北、テヘランで、自由のため、そして権威主義や独裁者による圧制に対抗するために闘った無数の勇敢な市民の行動である。」と、世界規模で自由と民主主義を守るために活動している非営利団体フリーダムハウス(Freedom House)は先週公表していました。アメリカも他の民主主義諸国も2023年には取り組まなくてはならない課題をいくつも抱えていて、それらはいずれも決して軽いものではありません。さて、気狂い独裁者が統治している国々は、全く課題を抱えていないのでしょうか?そんなことはないわけで、民主主義諸国とは全く違った形の課題を沢山かかえているのです。♦
以上
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