3.
Q.人民解放軍は政治的な目的のために使われることもあるとおっしゃいましたが、人民解放軍の近代化は中国の国際社会での存在感を高めることに何らかの形で寄与してきたのでしょうか?何らかの因果関係があるのかということについて教えていただけますか?
A.この5年間で中国人民解放軍はより近代的になりました。それによって、自国の利益を高める方法を考える際に、選択肢が少なくて困るということが無くなりました。以前よりもはるかに武力を誇示することを効果的に行うことができるようになりました。10年、15年、20年前には、中国の戦闘機が台湾の防空識別圏(air-defense-identification zone)にほぼ毎日侵入することはなかったと思います。これは明らかに、主に政治的効果を意図した行動であり、中台統一に対する中国のコミットメントと独立を阻止する決意を強調するものです。また、中国海軍の艦艇が日本列島を一周するのは、この地域における中国の存在感を示す示威行動です。また、2020年の春から夏にかけては人民解放軍とインドとの間で紛争が起きましたが(中印国境紛争)、中国はより直接的な武力行使をするようになっています。
軍事力が高まれば、よりできることが増えます。自国や東アジアだけでなく、世界のあらゆる大陸に寄港し、世界中で他の国々と合同演習を行って、自国のステータスを高めることが可能です。ロシアと合同演習を行うことで、ロシアとの関係が緊密であることを誇示することもできます。軍の近代化は、政策立案者や意思決定者に、国家の利益を追求するためのより多くの手段を与えています。
Q.それは面白い答えですね。それは、私が最初に質問した習近平の話にもつながるのでしょうか?
A.そうです。
Q.彼は拡大的な外交政策をサポートするために近代化した人民解放軍というツールを駆使しているのですね。
A.全くそのとおりで、中国のこれまでの指導者よりも、より頻繁に、より多くの場所で、同時に人民解放軍を活用しています。
Q.人民解放軍は中国国内で政治的にどのような役割を果たしていると理解していますか?習近平についてよく耳にする言葉に “中央集権化(centralization) “というものがあります。習近平は、人民解放軍にもその概念を適用しようとしているのでしょうか?また、習近平の人民解放軍へのかかわり方は、旧来の指導者とは違うのでしょうか?
A.毛沢東(Mao)と鄧小平(Deng)は、中国共産党(Chinese Communist Party)を政権の座に就かせた国共内戦を戦った退役軍人です。そのため、2人は人民解放軍との間で厚い信頼関係を築いており、かなり高いレベルで全軍を掌握できていました。ただし、中国では巨大な官僚機構が存在しているため、時として統制が取れていないこともありました。中国という国は、統治し、コントロールするのが非常に難しい国なのです。
現在、国共内戦を戦った退役軍人ではない習近平が2人の後継者として指導者となったわけですが、人民解放軍の最高司令部と良好な協力関係を確立するためには、より懸命に働かなければなりませんでした。しかし、人民解放軍は国軍ではなく、共産党の軍隊であることを認識しておくことが非常に重要で、それを統括しているのは共産党中央軍事委員会なのです。中央軍事委員会は、中国共産党の総書記が委員長を務めています。共産党の軍隊である人民解放軍は、民主主義国家にある軍隊とは全く異なるので、憲法や憲法が定める統治手続きに従うものではないのです。その構造も全く異なっていて、人民解放軍には多くのレベルで共産党が浸透しています。
中国では、各省庁や各国有企業内に党委員会が存在しています。それこそ、中央だけでなく市などの自治体に至るまで、隅々にまで党委員会が存在しています。また、軍事組織内にも党委員会があります。つまり、何らかの政治的動向があれば、通常、人民解放軍にも何らかの影響が及ぶこととなります。習近平が指導者になってからの5年間、いわゆる反腐敗運動が繰り広げられた時代には、人民解放軍も無傷ではいられませんでした。中央軍事委員会の副主席2人が、つまり人民解放軍で習近平を除くと最もランクが高かった2人が反腐敗運動に巻き込まれて、党から追放されました。それは非常に稀な出来事でした。
結局のところ、中国共産党には人民解放軍を優れた軍隊にしたいという欲求があるため、平常時には人民解放軍にはかなりの権限が委譲されていました。しかし、共産党のトップに対して少しでも挑戦するような気配が人民解放軍に見受けられる場合には、ほとんどの場合、それをコントロールしようとする動きが見られることとなります。習近平も国家主席になった際には人民解放軍への支配を強めたいと考えたに違いありません。2012年に権力の座に就いた習近平は、その座をより強固にするためにあらゆることを行いました。ライバルとなる可能性のあった薄熙来(Bo Xilai)や周永康(Zhou Yongkang)を汚職で逮捕したりしました。ライバルが決していないわけではない状況だったからこそ、習近平は人民解放軍の指導部を自分の支配下に置きたいと考えたのかもしれません。