アメリカ 中国のスパイ気球によって米中両国間の緊張高まる!でも、お互いドンパチ始める覚悟は無いでしょ?

4.

Q.念のため言っておくと、かつて薄熙来(Bo Xilai)は習近平の最大のライバルと言われていたのですが、習近平は反腐敗運動で彼を追い出しました。ところで、習近平と人民解放軍との関係はどうなっているのでしょうか?

A.周永康(Zhou Yongkang)は法と秩序を司る党政治局の常務委員でした。彼は薄熙来と結託していたことが明らかになっており、2人は人民解放軍のメンバーとの繋がりも持っていました。要は、習近平が人民解放軍の忠誠心に潜在的な懸念を抱いていたことが理由で、2人は追放されたのです。習近平は、人民解放軍は共産党の軍隊であり、最終的に党に忠誠を誓い、党総書記である自分に対しても忠誠を誓うべきだと考えていたのでしょう。それでこれっぽっちも懸念を残したくなかったのでしょう。そうして人民解放軍に対する彼の支配力が強まったわけですが、それを利用して彼は私が先に述べた軍の改革、近代化を推し進めたのです。中華人民共和国が成立した1949年までさかのぼると、人民解放軍では常に陸軍が幅を利かせていました。というのは、国共内戦で勝利を収め、中国共産党が政権の座に就く過程で、陸軍の貢献が非常に大きかったからです。また、朝鮮戦争でも、陸軍は主力としてアメリカ軍と戦いました。それゆえ、陸軍は人民解放軍が形作られていく過程でも、常に多大な影響力を及ぼしていました。

 しかし、習近平が2015年と2016年に行ったのは、陸軍の役割を大幅に格下げすることでした。これによって、陸軍は人民解放軍の組織図上では海軍、空軍、ロケット軍と同じレベルの位置づけとなりました。1990年代には陸軍が人民解放軍を再編することにも各軍で共同作戦を行うことにも抵抗していたことを考慮すると、習近平が人民解放軍最大の既得権益集団である陸軍の抵抗を撥ね退けてこれを実現したことは、彼が陸軍をほぼ掌握し、完全にコントロールできるようになったことを暗示しています。

Q.さて、私たちは20分以上、スパイ気球の件に触れないようにしてきました。いくぶん、それは意図的なものでした。しかし、もうそろそろ…

A.そうですね。もうそろそろ、その話をしますか。

Q.スパイ気球の件をあなたがどう受け止めたのか、教えて欲しいですね。

A.多くの国が情報収集や監視を行っていますが、他国を上空から監視するとなると、通常は大気圏のさらに上の宇宙空間から人工衛星を使って行います。今回のスパイ気球のように領空を侵犯する形で情報収集をするようなことはしません。中国がアメリカの領空で監視と偵察、あるいはその他の情報収集活動を行ったという事実に私は驚かされました。なぜなら、そのことはアメリカの中国に対する認識に影響を与えるでしょうし、アメリカが警戒すれば結果的に中国の将来の行動が制限されかねないからです。人工衛星による監視がはるか上空で行われていることは、誰もが知っていることです。そこに驚きはありません。私たちは皆、各国がお互いにスパイし合っていることを知っています。中国がスパイ行為をしたということ自体は特に驚くことではないのです。

 しかし、私が本当に驚いたこと、あるいは理解するのに苦労したことがあります。中国は、東アジアにおける自国の安全保障上の懸念となるので、台湾や南シナ海でのアメリカの航行作戦などを主権を侵害するものだとして非難してきました。しかし、今回は、中国自体がそうした主権を尊重するという原則に反する行動をとったのです。もう1つ解せなかったことは、私の直感では、これは間違いなく長年にわたる中国の情報収集プログラムの一部だと思うのですが、このプログラム自体は、おそらく人民解放軍内部で十分に練られて実施されたものではないと思われます。また、人民解放軍や共産党や他の関連部署等との間の連携も不十分で、情報も共有されていなかったのではないでしょうか。

 中国の外交関連部署間のコーディネートが不十分だったように思えるのです。そこを、最高幹部である習近平が上手くできなかったのだと思います。習近平国家主席がアメリカとの緊張状態を緩和しようとしていたまさにその瞬間に、このスパイ気球がアメリカ本土の上空を通過したわけです。ブリンケン国務長官の訪中が控えている状況でしたから、習近平が好き好んでこんな事態にしようとしていたとは思えないのです。中国はこの事件に関して明確な説明を拒否しているので私には分からないことが多いのですが、この事件は大きな官僚組織で起こる連携不足の問題が根底にあるように思えます。他の多くの国と同様ですが、中国もこの問題と無縁ではいられないのです。