A Reporter at Large October 31, 2022 Issue
Will Sanctions Against Russia End the War in Ukraine?
ロシアに対する制裁で、ウクライナ戦争を終わらせることができるのか?
D.C. bureaucrats have worked stealthily with allies to open a financial front against Putin.
ワシントンの官僚たちは同盟国と密かに協力して、プーチンに対する金融制裁を発動しています。
By Sheelah Kolhatkar October 24, 2022
1.西側諸国は、ロシアのウクライナ侵攻に即応して制裁措置を課した
ロシアがウクライナに本格的に侵攻してちょうど1カ月が過ぎた3月末のある日の午後、ブリュッセル駅で列車から降りた米国財務省の少し疲れ気味の9人のスタッフが、待機していたミニバスに乗り込んでEU(欧州連合)本部へ向かいました。彼らは、プーチン大統領率いるロシアに経済制裁を課すために、EUの担当者と協議することが目的でした。米国の代表団を率いているのは、財務副長官のアデワレ(ウォーリー)・アデエモ(Adewale Wally Adeyemo)でした。ナイジェリアで生まれ、カリフォルニアで育ち、エール大学ロースクールで学んだアデエモは、オバマ政権で経済アドバイザーを務めていました。ジョー・バイデン政権がプーチンの軍事侵攻に対して制裁措置を講じた際に、彼は中心的な役割を果たしています。また、世界の金融システムからプーチンを締め出すスキームを考案したのも彼です。
プーチンが侵攻を開始する前、西側諸国のリーダーたちは制裁を抑止力として使おうとしていました。ロシア軍が侵攻を開始してしまった時点では、バイデン大統領は、アメリカ軍を現地に派遣して第三次世界大戦が発生するリスクを冒すという選択肢はとりませんでした。代わりに、ウクライナに数十億ドル規模の武器供与と軍事支援をすることを約束しました。同時に、バイデン政権は強力な制裁措置も講じました。NATO加盟国や他の同盟国と協力して、何とかしてロシア軍の戦車を国境まで押し戻そうとしてしていました。
ブリュッセルの中心部を走るミニバスの中で、アデエモ率いる一団の中の何人かが、有刺鉄線のバリケードで囲まれた重厚な白い建物に目を留めました。それは、ロシアEU代表部の建物でした。アデエモらの一団は、EUで金融サービス・金融安定・資本市場同盟担当コミッショナー(European Commissioner for Financial Services, Financial Stability, and Capital Markets Union)を務めているマイリード・マクギネス(Mairead McGuinness)に会いに行くところでした。既に課していた制裁措置の効果を検証することが目的でした。アデエモは、米国が同盟国と緊密に連携しなければ、プーチンは制裁を回避する方法を容易に見つけ出すだろうことを認識していました。米国と同盟国の連携が無ければ、プーチンは経済的苦境を感じることも無く、ウクライナの支配や併合を続けるでしょう。
米国財務省、EU、英国、カナダは、既にロシア中央銀行との取引を禁止し、同行が国外に保有する約3,000億ドルの資産を移動できないようにしていました。さらに米国は、ロシアの2大銀行とプーチンに近い数十人のオリガルヒやエリートにも制裁を課しました。財務省の指示により、ロシアの主要な国有企業が米国の金融市場で資金を調達することも制限されました。また、米国とEUは、ロシアの大手銀行7行を、世界中で決済を容易にする金融通信システム「スウィフト(SWIFT)」から切り離しました。フランスの財務相であるブルーノ・ル・メール(Bruno Le Maire)は、その措置を「金融核兵器( financial nuclear weapon)」と表現しました。
財務省外国資産管理局(Treasury’s Office of Foreign Assets Control)の元局長のジョン・E・スミス(John E. Smith)は言いました、「これほど大規模な経済制裁が、これほど規模の大きな一国に対して課されたのは世界初のことです」と。この制裁では米国と西側諸国が前例のないレベルで強固に連携しています。それぞれ自国の経済を混乱させるリスクがはらんでいることを承知の上で制裁に踏み切っています。こうしたことは、多くの専門家を驚かせたでしょうし、プーチンも驚いたでしょう。しかし、そうした協力関係は、その前年から密かに下地が作られていたのです。
2021年4月にアデエモはG7各国(米国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国)の財務当局者と接触しました。それで、以前に米国が主導した制裁措置に参加しなかった際の理由が何であるかということと、米国が将来制裁を実施する際に追随するための条件は何であるかということについて聞いていました。フランス財務省のエマニュエル・ムーラン(Emmanuel Moulin)長官は、米国が勝手に作り上げた懲罰的な制裁案に追随する形ではなく、制裁措置の考案段階で参画したいという意見を述べました。他国も同じような意見だったようです。
ロシアが侵攻を始めると、直ぐにロシアに対して米国と西側諸国が協力して制裁第1弾を課しました。それが報じられると、ロシアの主要株価指数は33%下落し、史上5番目に大きな下げ幅を記録しました。ルーブルの価値も急落しました。しかし、侵攻開始から1カ月が過ぎても、プーチンが矛を収める気配は無く、ウクライナの都市にミサイルの雨を降らせ続けていました。
アデエモ率いる一団は、G7各国が協力して課す追加制裁の案を作成しました。しかし、いくぶん制裁の強度を落とさざるを得ませんでした。それは、米国からすると苦々しいことなのですが、欧州各国が家庭の暖房や自動車を動かすための化石燃料の供給をロシアに大きく依存していたからです。実際、2021年にヨーロッパで消費された天然ガスの40%近くがロシア産でした。化石燃料のロシアへの依存を減らす方法を見つけることは、簡単ではありません。会議で1回討議して解決できることはありません。しかし、そうした状況を変えるために抜本的な対策を講じなければならないのです。そうしなければ、ロシアに資金を提供し続けることになるわけで、それは西側諸国がこぞって非難している残虐なロシアの侵攻を間接的に奨励していることになります。
アデエモはG7各国が協調して追加制裁措置を課すことができたのは大きな成果だと感じていました。しかし、本当に制裁の成果があるか否かを慎重に見極めようとしていました。ロンドンからブリュッセルに向かう列車の中で、英国政府関係者と作戦を練っていたアデエモは言いました、「制裁の究極的な目標は、誰かの行動を変えることである。行動が変わったかを確認するわけですが、しばらく時間がかかることもあります。」と。しかし、彼は制裁の効果が出始めていることを感じとっていました。彼は言いました、「現在、ロシアは化石燃料等の輸出で外貨を獲得しています。しかし、それが全て戦費に使われているわけではないのです。そのほとんどがルーブルを買い支えるために使われていることが明らかになりつつあります。これは、まさしく私たちがロシアにとってもらいたいと思っていた行動であり、制裁が効いている証拠です。ロシアにルーブルを支えるために資金を投じさせ、せっかく獲得した外貨を無駄に浪費させることができているのです。」と。
アデエモらが乗ったミニバスは、EU(欧州連合)の主要機関である欧州委員会(European Commission)の本部が入っているベルレモン・ビル(Berlaymont building)で停車しました。予定されていた会合に入る前に、アデメモは沢山のビデオカメラが並ぶ前に立ち、この日の主な議題について冷静に語りました、「クレムリンがウクライナへの無謀な侵攻を行った目的の1つは、西側諸国を分断することでした。しかし、逆に我々の同盟関係は強まっています。」と。
その後の数日間で、キエフの占領を試みていたロシア軍は撃退されました。それは、ウクライナ人にとって軍事的にも心理的にも大きな勝利となりました。これは、ロシア軍の侵攻の終わりの始まりに思えるかもしれません。しかし、かつて、1942年にチャーチルが言及したように、始まりの終わりでしかないのかもしれません。それは、いずれ明らかになるでしょう。それから、半年以上たった今、ウクライナは重要な町や村を取り戻しつつあります。ロシア軍には何万人もの犠牲者が出ていると推定されています。モスクワで、侵略は失敗だったとあからさまに批判する者も出始めています。今月に入って、ロシア軍は空爆する回数を増やしています。また、プーチンは占領下の4地域に戒厳令(martial law)を発令しました。紛争はまだまだ終わらなさそうです。隣国を占領しようとする核超大国を抑止するために、西側諸国が課した前例のない規模の制裁措置は功を奏するのでしょうか。それとも効果は無いのでしょうか。アデエモたちは、その行く末を固唾をのんで見守っています。