経済制裁って効果あるの?ロシアに課した制裁措置でプーチンは苦しんでるか?いや、西側の方が苦しんでるだろ!

4.ロシアへの制裁措置は、優秀な官僚たちが様々な分析・予測をして立案した

 アデエモのような表舞台に立つ高官の背後には、深い専門知識を持ちながら、より有利な民間企業で仕事に就くことを避けてきたキャリア官僚がいます。その中の1人が、テロ組織の資金調達を防ぐ担当をしていた次官補のエリザベス・ローゼンバーグ(Elizabeth Rosenberg)です。彼女は大学院で近東について研究した後、貿易問題を扱う記者となり、エネルギー分野や国家安全保障や制裁措置などに関する取材をしてきました。しかし、彼女は、11年前に制裁措置に関する取材をする中で身につけた知識を活かしたいと思い、随分と給料が下がるのを承知で記者を辞めて役人になったのです。

 2021年の秋には、ウクライナ国境でのロシアの動きについて諜報機関からの報告があり、プーチンが大規模な侵攻を計画し準備していることが明らかになりました。その時、彼女は他の関係者とともに、どのような措置を講じるか検討しました。ロシアの石油や天然ガスの輸入制限をすること等が検討されました。また、同時にそれが世界経済に与える影響も見積もりました。「制裁措置を課せば、こちらも無傷では済みません。それは避けられないことなのです。」と、ローゼンバーグは言いました。「私たちには、西側諸国がロシアから石油や天然ガスを購入しなくなるわけですが、それによってこちらが必要以上に傷付かないようにする責任もありました。」

 ローゼンバーグの仕事で重要であったのは、情報やデータを精査し、検討している制裁がもたらす効果だけでなく、米国の経済的利益を損なうか否かを予測することでした。どのくらいの損害がでるかを評価する必要があり、しかも、それはどのような制裁措置を講じるかを決定する前に行わなければなりませんでした。

 ローゼンバーグは、外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control)の局長であるアンドレア・ガッキ(Andrea Gacki)と密接に連携して仕事をしました。ガッキは以前は司法省で仕事をしていて、特に制裁措置に関しての知見が豊富でした。ローゼンバーグとガッキは、その秋から冬にかけて、難しいことに取り組みました。それは、計画している制裁措置を発動すると、米国経済がどのくらい傷付くかということを予測することでした。他の西側諸国のカウンターパートと相談することもありました。

 ローゼンバーグと同僚たちは、何度もイギリスやヨーロッパに足を運びました。しかし、彼女らが到着してみると、ヨーロッパ側の都合で会議時間が1〜2時間しかないということが何度かありました。ローゼンバーグは当時のことを回想して言いました、「私は、『いや、もっと時間が必要だ!』と言いました。また、『コーヒーブレイクする時間も必要だし、自由に使える部屋も準備してもらいたい。』とも言いました。」と。また、ある国では、司法省や諜報機関の然るべき者にも国家安全保障の問題が絡んでくるので話し合いに参加してほしいと依頼しました。こちらとしては当然のことだと思ったのですが、驚かれることも多々ありました。いくつかの国では、政府にロシアの資産を凍結する法的権限があるのか否かを確認するために多くの時間が費やされました。もし無い場合には、その権限を獲得するためにはどうすれば良いのかということを検討しなければならず、さらに何時間もかけて検討しなければなりませんでした。そして、そうした会議が終わると、ローゼンバーグらは当地のアメリカ大使館に急行しました。そして、そこから会議の結果をイエレン財務長官に報告していました。