A Better Idea Than Releasing Oil from the Strategic Reserve
戦略的備蓄から石油を放出するよりも良い対策がある!
It’s time to do away with the S.U.V. loophole.
SUVの燃費を改善すべき時が来た。
By Elizabeth Kolbert
March 31, 2022
木曜日(3/31)の午後、ジョー・バイデン大統領は、戦略的石油備蓄から6ヶ月間で最大1億8千万バレル(日量100万バレル)を放出すると発表しました。石油価格の上昇を抑え込むのが目的のようです。バイデンは、今年に入ってからのガソリン価格高騰を、「プーチンによる価格押し上げ」と表現しています。ウクライナ軍事侵攻を命じたプーチン大統領に責任があるとして非難しています。バイデンが石油価格の上昇を何とかして食い止めようとしているのは、明らかに政治的な動機によるものです。今年後半には中間選挙が控えていますので、バイデンがインフレを抑制しようとすることは、一見すると理にかなった行動に見えます。しかし、冷静に分析してみると、バイデンの行動は、民主党の従来から続けてきた政策が間違いであったことが明らかになったのに、それを今後も継続するということなのです。本来であれば、バイデン政権はそれを修正すべきなのに、修正しようとしていないわけですから、過ちと言わざるをえません。
過ちの発端は、1973年のオイルショックにまでさかのぼります。当時、オイルショックに対応するために、米下院は”Energy Policy and Conservation Act”法(エネルギー政策・省エネ法、略してEPCA法)を可決し、戦略的石油備蓄をするようにしました。また、自動車メーカー別に”Corporate Average Fuel Economy”(略してcafe:企業別平均燃費)基準を評価するようになったのも、その頃のことです。それらの目的は、海外の石油への依存度を減らすことでした。
cafe(企業別平均燃費)の基準が設けられたものの、当初からそれはあまり実効性の高いものではありませんでした。というのは、自動車メーカーは燃費効率の悪い車をたくさん売ることが可能であったからです。自動車メーカーは、燃費効率の良い車をある程度売れば、cafe基準を満たす(全車両の平均燃費がcafe基準を満たす)ことができたのです。cafeの基準が導入されたのは1978年ですが、当時の基準では販売する全車両の平均燃費は1ガロン当たり18マイル以上とされていました。また、小型トラックは仕事で使用するものであるとして、各自動車メーカーの平均燃費を計算する際には除外され、より緩い燃費基準が適用されました。小型トラックの分類には、SUVも含まれました。当時、まだSUVはほとんど存在していませんでしたので、誰もそのことを疑問視しませんでした。
cafeの基準で、SUVが小型トラックに分類されることは特に問題ないように見えましたが、直ぐに状況は一変しました。1984年に、ジープからジープ・チェロキーXJが発売されました。爆発的に売れて、その後SUVが主流になっていく契機となりました。cafe(企業別平均燃費)の基準では、小型トラックにはSUVも含まれるとされていましたから、SUVの販売台数が急増するに連れて、小型トラックの販売台数も急増しました。2004年には、新車販売台数の半分以上を小型トラックが占めるようになりました。SUVは売れに売れていましたし、自動車メーカーもSUVで利益の大半を稼いでいました。結果的には、cafeの基準でSUVが小型トラックに分類されて緩い燃費基準が適用されていたことは、消費者にとっても自動車メーカーにとっても恩恵が大きかったのです。しかし、結果として、米国中をより多くのSUVが走り回ることとなり、ガソリンの消費量も増えました。それに伴って、二酸化炭素排出量も増えました。(ガソリン1ガロンが燃焼されると、大気中に20ポンドの二酸化炭素が放出されます。ガソリンを精製する際にも二酸化炭素が生成されますが、それは計算に含めていません。)
2006年に、環境保護庁と協力してcafeの基準を運用している米国高速道路安全局が、その基準に関して計算方法を変更しました。従来は、自動車メーカーは全車両の平均で燃費基準を満たす必要があったのですが、その方法を変更しました。変更後は、販売する車のサイズごとに燃費基準が設けられて、自動車メーカーはサイズごとにそれを満たさなければならなくなりました。生物多様性センターで自動車産業部門を統括しているダン・ベッカーは、「非常に複雑な基準になってしまった」と指摘していました。
新たに車のサイズごとに基準を設ける方式を導入したことは、全くの逆効果になってしまいました。自動車メーカーにガソリンを大量に消費する車を製造するインセンティブを与える形になってしまいました。新たな基準では、車のサイズごとに燃費基準を満たせば良いだけなので、サイズの大きな車を多く販売する企業ほど、全車種の平均燃費は悪くなりました。ミシガン大学の2人の研究者が2011年に発表した論文によれば、新たな基準が導入されたことによって、「実質的には、毎年3〜10基の石炭火力発電所を新設するのと同じくらい二酸化炭素排出量が増えていく」と予測していました。2015年、米国ではSUVの販売台数が初めてセダンの販売台数を上回りました。2021年には、SUVとワゴン車とピックアップトラックを合わせた販売台数がセダンの2倍以上となりました。ほとんどの自動車メーカーが設定されたcafeの基準を満たすことができませんでした。2021年には、フォード、トヨタ、ジーエム、キア、BMW、フォルクスワーゲン、日産、現代、メルセデス・ベンツ、ステランティス(クライスラーの親会社)が、すべて基準を満たせませんでした。(テスラとスバルとホンダだけが基準をクリアしました。コンシューマー・レポーツ誌でシニアエネルギー政策アナリストを務めているクリス・ハートの計算によれば、2010年から2020年の間に米国では自動車の燃費は大幅に向上しています。同時に、その間に自動車の大型化も進行しました。燃費改善によってガソリンの需要を大きく減らしたのですが、同時に、その半量に該当する量の需要が自動車の大型化によって増えています。
実は、米国以外の国でもSUVの販売台数は増えています。2010年には世界の新車登録台数に占めるSUVの割合は17%未満でした。それが、2021年には46%になりました。国際エネルギー機関(IEA)は最近発表したレポートには、「2021年に全世界のSUVが排出した二酸化炭素排出量は9億トン以上で、世界第6位の国の排出量に匹敵する。」との記述がありました。国際エネルギー機関(IEA)は、各国政府に対し、SUVの販売数を減らすための施策に注力するよう促しています。そうした施策を既に実施している国もいくつかあるそうです。フランスやドイツなどでは、大型車や二酸化炭素排出量の多い車の税率を高くしているそうです。
どうやら、バイデン政権は金曜日に新しいcafeの基準を発表する予定のようです。cafeの基準は、オバマ政権が2012年に自動車業界と交渉して定めたものが有ったのですが、トランプ政権時の2020年に廃止されてそのままとなっていました。それで、今回新たな基準が設けられるようです。新たな基準は、現在の基準よりは改善されるでしょう。しかし、かつて全車両の平均燃費を基準にしていた時のような厳しい基準は設けられないでしょう。また、国際エネルギー機関(IEA)が要望していた、大型車や低燃費車の税率を高くするという条項は盛り込まれないでしょう。間違いなく、SUVの販売台数を減らすような基準は設けられないでしょう。
ガソリン価格が現在のレベルまで高騰したのは、2008年以来のことです(もっとも、インフレ率調整後の数値で見れば、今は2008年よりはガソリン価格が安い)。もし、2008年時点で、もっと良い基準が設けられて、自動車の燃費の向上が促進されていたとしたら、現在の状況もいくぶん変わっていたのではないでしょうか?正確に見積もることは不可能ですが、それ以降もっと燃費改善が進んでいたとしたら、石油の使用量を日量100万バレル削減できたことは間違いないでしょう。日量100万バレルというと、ちょうどバイデン政権が戦略的石油備蓄から放出するとした量と同じです(ちなみに、米国の石油消費量は日量2,000万バレルほどです)。先日、マイクロソフト社のオンラインマガジンであるSlate誌が指摘していたのですが、「残念ながら、ほとんどの米国人は2008年にオイルショックがあったことなど覚えていないのです。毎回毎回、直ぐに忘れ去られてしまうので、適切な対策が打たれることもない」のです。
以上
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