A Linguistic Look at Omicron
オミクロンの言語学的考察
What is this penchant for using Greek to designate disasters?
災害や疫病などを識別するための名前でギリシャ語が使われるのは何故なのでしょうか?
By Mary Norris
December 26, 2021
新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、新聞の見出しにギリシャ語のアルファベットが頻繁に登場するようになりました。感染力の強いオミクロン変異株は、それまでの変異株よりもブレークスルー感染する力が非常に強くなっています。そのギリシャ語のアルファベット(オミクロン)は、ここのところ頻繁に新聞や雑誌を賑わせています。
ところで、災害や疫病などを識別するための名前でギリシャ語が使われるのは何故なのでしょうか?ハリケーンシーズンになると、気象学者はハリケーンのそれぞれに名前を付けます。命名する際には規則があります。毎年、発生した順に、名前の1文字目はA、B、C・・・とアルファベット順に割り当てられます(ただし、Q、U、X、Y、Zの5文字は使われない)。アルファベットを使い切った場合は、ギリシャ文字を使うことになっています。それで、昨年(2020年)には、ギリシャ文字の9番目の文字ι(iota:イオタ)まで使われました。新型コロナのパンデミックが始まった頃、世界保健機関(WHO)の科学者たちは、新型コロナウイルスの変異株を命名する際に、ギリシャ語のアルファベットを順に名付けるという方法を採用しました。そうした理由は、2つありました。1つは、一旦そう決めてしまえば、次々に変異株が発生しても命名で頭を悩ます必要が無くなるということです。もう1つは、旧来のように、その変異株が発生した場所にちなんだものにすることを避けたかったということです。新しい命名規則にしたがって、例えば、インドで最初に発見されてB.1.617.2と分類された変異株は、デルタ変異株と命名され、その名前が一般的に定着しています。さて、地球温暖化の影響で毎年発生するハリケーンの数は増えています。とはいえ、1シーズンのハリケーンの数が多くなったとしても、英語のアルファベット21(5文字は使わないので)とギリシャ語のアルファベット24を足した45を超えてしまって足りなくなることはないでしょう。しかし、新型コロナの変異株がどれくらい発生するかは現時点では予想できていません。ギリシャ語のアルファベットは24個しかありません。既に使われたο(omicron:オミクロン)は15番目に該当しますので、今後も変異株が発生し続ければ、いずれ残りのギリシャ語のアルファベットが枯渇する可能性もあります。
ギリシャ語のアルファベットの枯渇が早まりそうな気がします。その理由は一部は、世界保健機関(WHO)の科学者がアルファベット2つを飛ばしたことにあります。同様に今後も飛ばす可能性があると思われます。新型コロナの変異株の命名では、既に、ちょうど真ん中(12番め)に当たるμ(mu:ミュー)まで使われていた際に、本当は、命名規則に従えば、次はν(nu:二ュー)変異株と命名されるはずでした。しかし、それは発音が”new”(新しい)と同じであることから、”new”と”ν”の混同を避けたいとして飛ばされました。その次は、順番通りであれば、ξ(xi:クサイ)だったのですが、これも飛ばされました。”ξ”は”N”と”O”の間にあり、英語のアルファベットには相当する文字がありません。しかし、そうした人々に馴染みがないという理由で飛ばされたわけではありません。”ξ”の発音の「シィ」が中国でよく使われる名字であり、中国を統括している人物(習近平)の名前を連想させるという政治的理由で飛ばされたのです。
先日、ラジオのクイズ番組”Wait Wait … … Don’t Tell Me!”を聴いていたら、ゲスト回答者の1人が、「米国人はあまりにもギリシャ語のアルファベットに関して無頓着すぎる。それは愚かなことだ!」と言及していました。私は、その意見は一理あると思いました。その人が指摘していたのは、ギリシャ語のアルファベットは数学だけでなく、様々な科学分野で使われているということでした。また、SF小説なんかでも良く使われています。さて、ギリシャ語のアルファベットでο(オミクロン)の次はπ(pi:パイ)です。πと言えば、誰もが中学校の時の数学の時間に目にしたことを思い出すでしょう。世界保健機関(WHO)の科学者連中のことですから、π(パイ)はカフェで出てくるデザートのpie(パイ)と発音が同じで混乱する可能性があるからと言って飛ばす可能性があります。しかし、そうすると残りのアルファベットは非常に少なくなり、心もとなくなります。まあ、残っているものを見るとどれも難癖をつけられて飛ばされるようなものは多くはなさそうです。π(パイ)の次には、ρ(rho:ロー)、ς(sigma:シグマ)、τ(tau:タウ)と続いて、その次はυ(upsilon:ウプシロン)となります。そこまでいくと、いよいろ残りも僅かという感じが高まります。
英語のアルファベットでは、「X」「Y」「Z」の3つのちょっと異質な文字が最後にまとめられているように、ギリシャ語のアルファベットでも非常に異質な文字は最後にまとめられています。υ(upsilon:ウプシロン)の後には、φ(phi:ファイ)、χ(chi:カイ)、ψ(psi:プサイ)が続きます。この3つは誰にとっても馴染みの薄いものですから、正しい順番で言える米国人は少ないのではないでしょうか?χ(chi:カイ)、ψ(psi:プサイ)、φ(phi:ファイ)と順番を間違って覚えている人も多いと思います。残念ながらφ(phi:ファイ)は”fie”(「チェッ」という意味の間投詞)を彷彿とさせるので飛ばされる可能性が高いでしょう。その次のχ(chi:カイ)もトラブルを引き起こしそうなので飛ばされるでしょう。というのは、これは”Christ”(キリスト)の最初の文字だからです。それが使われてχ(カイ)変異株なんて命名した際には、狂信者たちがキリストの再臨と解釈して騒ぎ出す可能性がるからです。ψ(psi:プサイ)も飛ばされるでしょう。というのは、ψ(プサイ)の発音は”sigh”(嘆息)と発音が似ていて混同される可能性があるからです。”sigh”(嘆息)という語はDSM(米国精神医学会が発行する精神疾患の分類と診断の手引き書)にも載っている語ですから、世界保健機関の精神科医たちが紛らわしいから使うなと言うに決まっています。
そこまで行くと、残るアルファベットは最後のω(omega:オメガ)だけになります。これは誰でも知っていますね。現在、新型コロナの変異株の名前はο(omicron:オミクロン)まで使われて、残りは半分よりも少なくなったところです。さて、多くの人は気付いていると思うのですが、ギリシャ語のアルファベットには英語の”o”に該当するものが2つあります。ω(オメガ)はが「大きな”O”」という意味で、ο(オミクロン)が「小さな”O”」という意味で、英語と違って2つあるわけです(“Omega”は”O”+”mega”で、”Omicron”は”O”+”micron”が語源です)。ギリシャ語が語源とされるmicro(マイクロ)は「小さい」という意味で、”microbes”(微生物)、”microscopes”(顕微鏡)、”microminis”(超ミニスカート)などの英単語で接頭語として使われています。一方、Mega(メガ)はギリシャ語で「大きい」を意味し、”Mega Millions”(メガ・ミリオンズ:米国で販売されている宝くじ)、”mega-threat”(メガ脅威?)、”megalopolis”(メガロポリス)などの英単語に含まれています。現在感染が拡がっているオミクロン株の影響力は非常に大きいわけですが、小さい”o”を意味するο(オミクロン)株が猛威を奮っているのに、いずれ出現するであろう変異株に大きい”O”を意味するΩ(オメガ)変異株と命名したらどんな反響があるでしょうか?誰もが壊滅的な影響が出ると予測してしまいますよね?ですので、Ω(オメガ)は命名で使われることは無く、飛ばされるでしょう。
話が少し脱線しますが、ω(omega:オメガ)とο(omicron:オミクロン)については、大小の違いがあると記しましたが、他にも注目すべきことがあります。ω(オメガ)の大文字の”Ω”という文字の形は、ο(オミクロン)の大文字”Ο”の下部に2本の脚を足して大きいということを現したものです。また、もっと重要なことなのですが、2つは発音が違うという点も注意が必要です。ω(omega:オメガ)は長母音で、ο(omicron:オミクロン)は短母音です。例外もあるのですが、英語では、ο(オミクロン)に由来して”o”が使われている単語、”mom”や”Tom”などでは”o”は短母音で発音されます。一方、ω(オメガ)に由来して”o”が使われている”O’Mega”(アイルランド系に多い名字)のような単語では長母音で発音されます。
今後も新型コロナウイルスの新たな変異株が出現し続けるとなると、命名に使うギリシャ語のアルファベット24文字は枯渇してしまうでしょう。そうなった場合には、命名規則はどうなるのでしょうか?世界保健機関(WHO)の科学者たちは、再びアルファベットの一番最初のα(アルファ)に戻ると同時に、その後ろに数字の接尾辞を付ける形を取ると推測されています。アルファベットの一番最後のω(オメガ)の次に続くのは、Alpha-2、Beta-2、Gamma-2、kαι ta λοιπάとなるのではないでしょうか。”kαι ta λοιπά”というのはギリシャ語で「等」という意味です。先程申しあげましたが、ギリシャ語は非常に重要ですので、これくらいの語は普通に覚えておいてほしいと思います。しかし、良く考えてみると、世界保健機関(WHO)の科学者たちは、極端に混同することを避けようとしています。ですから、ギリシャ語のアルファベットの後ろに接尾辞を付ける形は採用しない可能性があります。というのは、既に栄養学等で、”omega-3 fatty acids”(オメガ3脂肪酸)という語があり、その形が使われているからです。そうなると、ギリシャ語のアルファベットのω(オメガ)まで使い切った後には、アラビア語のアルファベットが使われる可能性があります。
以上
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