A Strong Jobs Report Gives Biden and the Democrats a Reason to Hope
雇用統計の数値が良かったことで、バイデン政権と民主党は来年の中間選挙に向けて希望が持てたのではないか?
Polling suggests that concerns about the economy helped Republicans in this week’s elections.
世論調査は、景気後退懸念が州知事選では共和党に有利に働いたことを示している
By John Cassidy November 5, 2021
ジョー・バイデン大統領と民主党にとって先週は悪夢のような1週間(11月2日に南部バージニア州等の知事選で民主党候補が野党共和党候補に敗北)でしたが、金曜日(11月5日)に発表のあった雇用統計の数値は切望していたとおりの良いものでした。党内には少しだけ安堵感が拡がりました。米労働省が発表した先月の雇用統計によりますと、10月の新規雇用者数は50万人以上(訳者注:53万1千人、市場予想は40万人台だった)でした。また、失業率は0.2ポイント低下して4.6%となりました。業種別では、レストランやバーなど飲食業で特に新規雇用者数の増が大きかった(12万人弱)ようです。10月は新規雇用者数の増が大きかったとはいえ、9月まではずっと低調でした。しかし、他の直近の統計資料の数値も加味して考慮すると、米国経済は第3四半期のデルタ変異株の感染拡大による失速から力強く回復を続けているようです。
第2四半期から第3四半期にかけて、米国のGDP成長率は6.7%から2.0%まで低下し、8月と9月には新規雇用者数も急激に落ち込みました。そうした数値が影響したのか、火曜日にバージニア州、ニュージャージー州、およびその他の州の知事選挙で民主党は苦杯を喫していました。地方選挙で苦戦した要因は沢山あります。バイデン政権は支持率が低いこと、地方選前に党内対立によりインフラ投資法案を棚上げせざるを得なかったこと、新型コロナによる景気停滞などです。また、文化戦争(Culture War:政治や経済の次元だけでなく、より深い文化の次元の断層)も影響しました。ところで、景気の良し悪しは選挙結果に大きな影響を及ぼします。今回の知事選でもそうでした。バージニア州の有権者の投票所の出口調査結果では、回答者の3分の1は関心事は景気だと答えていました。それが1位で2位は教育(24%)、3位は同率で新型コロナ対策と税金(ともに15%)でした。
バージニア州知事選で勝利した共和党候補グレン・ヨンキンは、民主党等との違いを強調すべく教育を一番の争点とした選挙戦を仕掛けましたが、景気についても争点として挙げていました。バージニア州は新型コロナによる景気の落ち込みからの回復で他州に遅れをとっていて、民主党支配が新規雇用者が増えるのを妨げていると主張しました。(信じられないことですが、ヨンキンの主張の多くはかなり誇張されたものでした。)ニュージャージー州では共和党の州知事候補ジャック・チャッタレリが楽勝する予想されていた民主党候補に僅か2ポイント差まで迫る惜敗でした。チャッタレリは景気と税金を最大の争点として選挙戦を戦いました。チャッタレリは、再選を果たした対立候補の民主党フィル・マーフィーの施策を批判し、同州の固定資産税の高さを問題にし、民主党支配のままでは同州から企業が撤退すると主張していました。
地方選だけでなく国政レベルでも国民の経済への関心は強く、現時点ではバイデン政権および民主党に対する支持が拡がりにくい状況です。先週末に発表されたNBCニュースが実施した調査の結果によると、バイデン大統領の経済政策に関する支持率は4月の52%から40%に低下していました。また、経済政策に関して共和党と民主党のどちらの能力が高いと思うかという設問では、共和党が民主党を18ポイント上回りました。それは、この調査が行われた30年間で最大の差でした。
その数値はバイデン政権にとってショッキングなもので、支持率が低くなったのは、インフレ率の上昇、ガソリン価格の上昇、新型コロナからの景気回復の遅れなどが影響したと分析していました。しかし、世論調査は注意深く分析する必要があるようです。というのは、景気が悪いから支持率が低いと考えるのは拙速すぎる可能性があるからです。2週間前に、AP通信・公共問題調査センターが世論調査を実施し有権者に景況感を聞きました。それによれば、約3分の2が景気が悪いと答え、約3分の1が良いと答えていました。しかし、その世論調査の別の設問で家計の状況について聞いたところ、結果は真逆でした。約3分の2が家計は良好で、3分の1は厳しいと答えていました。
家計の状況に関するその設問への回答は、政府が発表した数値と矛盾しません。驚くべきことに、個人可処分所得(≒米国の家計が費やすことができる所得の合計)はパンデミックの間も増えていたのです。2020年2月には15.1兆ドルでしたが、今年(2021年)の9月は15.3兆ドル(インフレ調整済み)と増えています。確かに、個人可処分所得が増えているとはいえ、それは米国経済全体のことですから、業種によっては悲惨な状況であるというのは事実です。しかし、やはり個人可処分所得が増えているということは、実施された2つの巨額の新型コロナ景気対策法案(2020年3月と2021年3月に可決された)が期待通りの成果を挙げていることを示しています。法案が可決されたことで、新型コロナ給付金をばら撒いたり、雇用を維持する企業に支援金を配ったり、失業給付金の上乗せ等が為され、消費支出の腰折れを防げました。消費支出が弱くなれば、おそらく不況に突入していたでしょう。
直近の地方選で有権者はバイデン政権や民主党に否定的だったわけですが、かといって共和党の経済運営能力が勝っていると思っているわけではありません。有権者はどうしても近視眼的なりがちで、直近で食料品が値上がりし、ガソリンも値上がりし、他のあらゆるものが値上がりしている状況(一時的なものかもしれないのですが)から、バイデン政権に鉄槌を食らわさずにはいられなかったのでしょう。バイデンが1月に大統領に就任した時、消費者物価指数は年率1.4%の上昇でした。それが9月には5.4%の上昇でした。物によってはもっと大幅な上昇をしていました。バイデンが大統領に就任した日のガソリン1ガロンの価格は約2.50ドルでしたが、現在では約3.50ドルと40%上昇しています。連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、インフレ加速は新型コロナの混乱によるもので一時的なものだと繰り返し説明しています。しかし、多くの米国人は彼の説明を信じていないようです。直近のロイター/イプソスが実施した世論調査によると、回答者の3分の2が「インフレに非常に大きな懸念を持っているか?」という問いに対して「はい」と答えていました。
金曜日(11月5日)の雇用統計の数値が思ったより良かったといって一息つく暇はありません。バイデン政権は来年11月の中間選挙までに支持率を上げるために政治的および経済的に何をすべきなのかということを真剣に検討しなければなりません。まず最優先で取り組むべきなのは、バイデン大統領自身が掲げた経済施策を実施するための法案を議会で可決させることです。それが出来れば、2022年の中間選挙の際に民主党の候補者は、家計を助けるべく、就学前教育の無償化、育児助成金、児童手当の拡充などを行ったとして実績をアピールすることが出来るでしょう。各種調査によって、そうした施策は非常に人気が高いことが判明しています。ですので、民主党は中間選挙で勝ちたいと思うならば、そうした施策を推し進めなければならないことは自明の理です。でも、ここ数カ月の動きを見ていると、狂っているとしか思えないのですが、民主党はそうしたことを理解していないのかもしれません。過去数カ月に渡って、バイデンは悲しいかな与党内で2つの大きな支出法案(総額1兆ドル規模の超党派インフラ投資法案と気候変動・社会保障対策を盛り込んだ1兆75百億ドル規模の大型歳出法案)の採決に反対する議員の説得にかなりの時間をさかなければなりませんでした。
金曜日(11月5日)に、ナンシー・ペロシと他の民主党上層部が2つの法案を下院で可決すべく奔走しました。最終的に2法案が可決されれば、中間選挙では民主党に追い風が吹くでしょうし、バイデン大統領の再選も見えてきます。同時に経済的な側面から見ても、2022年以降の景気回復の足取りをより確かなものにするでしょう。2020年と2021年の新型コロナ関連経済救済策は終わりを迎えるものもあるので、追加の施策が何も無ければ景気回復の足取りは重くなるでしょう。実際、ブルッキングス研究所ハッチンス財政金融政策センターの分析によれば、既にそうし兆候が現れているとのことで、「米国の財政政策は、2021年第3四半期の米国のGDP成長率を年率2.4%押し下げた」というレポートを先日発表していました。どうやら、連邦準備制度理事会はまもなくテーパリング(景気を下支えしている債券購入プログラムを段階的に縮小する)を開始するつもりのようですので、連邦政府によるインフラ投資と民間セクターのグリーンエネルギーや省エネへの投資に対する税制上の優遇措置を開始すべきだと思われます(そうしないと景気が腰折れする可能性が高まる)。
ところで、インフレ懸念への対応はどうなっているのでしょうか?バイデン大統領は数週間前にガソリン価格の上昇に対して短期的には何も出来ることは無いと言及しました。理由として、原油価格はOPECが加盟国で協調して決めている生産調整計画に大きく依存していることを挙げていました。今週初めに発表されたバンク・オブ・アメリカの見通しによれば、原油価格は現在1バレル80ドル近辺ですが、2022年には1バレル120ドルまで上昇する可能性があるとのことです。とはいえ、それは1つの推測でしかなく、どうなるかは見通しが立ちません。バイデン政権が密かに望んでいるのは、OPEC加盟国の中から協調減産カルテルを破り増産に踏み切る国が出てくることです。原油価格が高止まりしている内にもっと沢山汲み上げようとする国が必ず出てくると予測していて、そうした国が1つでも出れば協調減産の枠組みは崩壊すると思われます。そうなれば、原油価格は下落するでしょう。そうならなかった場合でも、景気が減速するのでいずれ原油価格は下落するでしょう。
インフレを引き起こす可能性のある要因がもう1つあります。それは、サプライチェーンの混乱です。現状ではなかなか見通しが立たないのですが、巷ではいろいろなことが言われています。半導体等の部品が不足しているとか、トラックの運転手が足りていないとか、港で積荷が滞っているとか、クリスマスプレゼントはイースター(復活祭:4月)まで届かない等々です。バイデン政権はこの問題に対処しようと努めています。ロングビーチ港とロサンゼルス港に24時間稼働するよう圧力をかけています。しかしながら、そうした介入にどの位の効果があるかは不明です。というのはこの問題は複雑で米国だけで解決できるものではないからです。連邦準備制度理事会(FRB)議長のパウエルは今週行われた記者会見で言いました、「サプライチェーンの混乱が何時まで続くのかということと、それがインフレ率にどう影響するかということを予測するのは非常に難しい。サプライチェーンは世界中で繋がっており、とても複雑です。いずれ正常に機能する状態に戻るでしょうが、それがいつになるかは誰にも予測できません。」と。
このまま新型コロナの感染者数が減り続ければ、新規雇用者数は10月のような良い数値がしばらく続くでしょう。また、サプライチェーンの混乱も徐々に正常化していくでしょう。そうして来年の夏までには、経済的側面、政治的側面のいずれから見ても、民主党にとっては好ましい状況が訪れることになると推測されます。来年の夏と言えば中間選挙があありますが、バイデン政権と民主党は景気回復と先例のない規模で行った家計支援の実績をアピールして選挙戦を有利に戦うことが出来ます。しかし、逆の目が出る可能性が無いわけではありません。新型コロナの感染者数が減らずに景気の足枷となり、インフレがさらに加速し、連邦準備制度理事会が利上げを前倒しして株式市場で大暴落が起き、新規雇用者数も落ち込み、景気が回復しないという最悪のシナリオにならないという保証は無いのです。雇用統計で良い数値が発表された日(11月5日)に、民主党にとってもっと喜ぶべきことがありました。それは、インフラ投資法案が上院に続いて下院で可決されたということです。民主党が直ぐにやるべきことがあります。それは、党内の対立を解消して気候変動・社会保障対策を盛り込んだ歳出法案を可決させることです。このことは明白で誰も異論は無いでしょう。
以上
なお、経済用語等で翻訳が未熟な点があると思いますので、参考までに以下に英文全文を掲載しておきます。上の日本語訳がおかしいと思われた際には、下の英文全文をご参照下さい。