フォード社の復活は近い!アメリカで一番売れているピックアップトラックF-150のEV版に予約殺到中!

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 市場に投入されているEVピックアップトラックはF-150ライトニングだけではありません。それよりも先に投入されたものもあります。カリフォルニア州アーバインに本社を置くスタートアップ企業Rivian(以下、リビアン社)は、既に”R1T”というEVピックアップトラックの出荷を開始しています。また、SUVタイプのEVの”R1S”も間もなく出荷開始予定です。今後3年以内に、ゼネラルモーターズ社は、売れ筋のピックアップトラックのシボレー・シルバラードのEV版、高機動多用途装輪車両のハマーのEV版を市場に投入する予定です。また、テスラ社が”Cybertruck”(サイバートラック)と名付けた非常に陰鬱な外観をしたEVピックアップトラックもまもなく発売されるのですが、伝えられるところによると、事前予約が100万件以上あるそうです。ステランティス社(旧のフィアット・クライスラー社)もEVピックアップトラックとEV版SUVの市場投入を検討しているようです。メルセデス・ベンツ社、ポルシェ社、ルーシッド社、アウディ社などはEVセダンを発売済み、もしくは発売予定です。

 ピックアップトラックをEV化する目的は、私のようにガソリンを大量に消費する車に乗ることに後ろめたさを感じているドライバーにアピールすることです。また、EV版の品揃えが無いピックアップトラックの購入を、環境問題を考慮して控えていた消費者にアピールすることも意図しています(20万人がフォードディーラーでF-150ライトニングを予約していますが、そのほとんどはピックアップトラックのオーナーではありませんし、フォード車のオーナーでもありません)。しかし、F-150ライトニングを買うだけで、環境破壊に手を貸しているという罪から逃れられるのでしょうか?EVピックアップトラックの製造にかかるすべての再生不可能なエネルギーの量を積算すると、膨大であることが分かります。リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の電池用の金属類の採掘と精錬の段階や、それらの物資や部品の長距離輸送段階でも大量のエネルギーが消費されます。また、EVの充電に使われる電力の何割かは化石燃料に由来するものです。つまり、EVピックアップトラックは、大きく自然エネルギーを消費しているのです。ちなみに、2020年に米国で発電された電力の内、再生可能エネルギーで賄われたのは20%以下でしかないのです。F-150ライトニングと私が現在乗っているガソリン車のF-150を、運転する際の環境コストの面で比較すると、少なくとも再生可能エネルギーによって充電ステーションの電力がすべてまかなわれるようになるまでは、ガソリン車のF-150を維持する方が良い選択かもしれません。

 現在、カナダ政府の天然資源部に勤務するバッテリー研究者のラフール・マリクによると、再生可能エネルギーの割合が高い電力を充電するEVであったとしても、ライフサイクルCO2排出量(採掘や製造時に使われるエネルギーを含んで計算)がガソリンエンジンの自動車よりも少なくなるのは、2万5千マイル(4万キロ)以上走行した場合のみです。また、MITの化学工学部教授のウィリアム・グリーンは、「中古車を売ってEVを買ったとしても、その中古車がなくなるわけではなく、新しいオーナーの手に渡って、CO2を排出し続けます。」と指摘します。結局のところ、初めて車を購入する人がEVを選択しない限り、大きくCO2排出量が減ることはないのです。

 さらにピックアップトラックには大きな問題があります。ピックアップトラックは、ガソリンエンジンであれ、EVであれ、サイズが大きいということが問題なのです。オークリッジ国立研究所によると、1990年以降で、ピックアップトラックの平均重量は実に32%も増加しており、1,256ポンド(約570キロ)も重くなっているのです。最近、雑誌”Vice”誌に投稿された記事によると、現在最も大きいピックアップトラックとSUVの重量は、第二次世界大戦時の戦車に匹敵するそうです。そして、ピックアップトラックは、今後も重くなり続けるでしょう。F-150ライトニングは、リチウムイオン電池を搭載しているため、車両重量はおよそ6,500ポンド(2,948キロ)で、場合によっては、ガソリン車よりも2,000ポンド(907キロ)以上重くなることもあるそうです。ちょっと牛乳を買いに行くためだけに、昔の戦車よりも重い車両をくり出すわけですから、環境に良いはずがありません。

 大型EVは、小型EVに比べると環境負荷が大きいのですが、他にも問題があります。それは、事故を起こした際の死亡率が高いということです。米国道路交通安全局の分析によると、ピックアップトラックやSUVにはねられた歩行者の死亡率は、通常より2〜3倍も高いことが分かっています。実際、自動車事故で死亡する歩行者の数は、2010年から2019年の間で46%も増加しています。知事高速道路安全協会が実施した調査によると、走行距離に対する死亡者数を算出したところ、2020年には全国的な調査が始まった1975年以降で最も歩行者の死亡者数が増加していました(21%増)。パンデミックが始まった初期の頃で道路を走る車の数が少なかった時でも、死亡者数は増えていました。

 ペンシルバニア大学法学部の学生であるジョン・セイラーは、同大学の法科大学院が発行する法学雑誌に「交通死亡事故の撲滅に向けた提言。車両大型化時代に対応した交通安全対策の再構築」という論文を掲載する予定です。彼の論文の主旨は、車両が大型化しているので、それに合わせて交通安全対策も見直しが必要であるということです。また、車内の乗員だけではなく、車外の人間や周囲を走る車や道路にも注意を払うべきであると論じています。自動車メーカーは、自動車にたくさんのカメラやセンサーを搭載することで、ドライバーに衝突の可能性を知らせて危険を回避できるようにしていると主張しています。また、今後さらに自律走行機能が搭載されるようになれば、人間が運転するよりも素早く危険回避措置をとることができるかもしれないと主張しています。しかし、自律走行車がすべての問題を解決してくれるわけではありません。自律走行車は別の危険性をもたらします。

 それでも、2022年にはピックアップトラックの販売台数が大きく伸びると予想されています。フォード社は、EV化を推し進めて環境に優しい自動車を作ることで、利益を増やし、株価を上昇させようと躍起になっています。フォード社は、自社の取組みは気候変動への正しい対処法であると主張しています。米国中で環境問題に関する関心が高まっていますので、自動車メーカーもそれに対応して、環境に優しい車を作らなければならなくなっています。フォード社には、個人が自由に移動できるという利便性だけでなく、友人や隣人のために荷物を運ぶという私がF-150から得ている喜びも維持して欲しいと思います。フォード社は、革新的に排気ガスを減らし、交通死亡事故の危険性も極限まで減らそうとしていて、EV化を推し進めることでそれが可能であると信じているようです。多くの自動車メーカーがそうした楽観的な見通しを立てています。その結果、EV化したピックアップトラックやSUV等の販売台数が大幅に増えると予測されています。