本日翻訳して紹介するのは、the New Yorker のWeb版にのみ掲載された記事です。米国の図書館でe-book(電子書籍)の導入の拡大に関する記事です。図書館が紙の書籍を買う際には、一般の人が買うのとほぼ同額でしたが、電子書籍のライセンス購入時には、一般の人とは区別され図書館は高額を請求されるそうです。
Daniel A. Grossによる寄稿記事です。題名は、”The Surprisingly Big Business of Library E-books”(驚くほどのビッグビジネスになった図書館へのe-book(電子書籍)のライセンス供与事業)です。サブタイトルは、”Increasingly, books are something that libraries do not own but borrow from the corporations that do.(図書館のe-book(電子書籍)のライセンス購入は増え続けています。これまでとは異なり、図書館は本を所有しないで、所有している企業から借りる形です)です。
米国では、日本と異なり電子書籍やオーディオブックの利用が拡大しているようです。私は、雑誌はスマホで読みます(楽天マガジン)が、電子書籍ってあまり使わないです。kindleを持っていますが、電子書籍は10冊ほどしか購入したことがありません。通勤の電車などでは電子書籍を読んでいる人をボチボチ見かけますが、そんなに普及しているようには見えません。この記事を読んだら、米国では電子書籍の利用が拡大していて、紙の書籍は駆逐されつつあるように思えました。
さて、米国でも日本でも最近では、図書館の利用者が電子書籍を利用できるサービスが提供されています。米国では、昨年3月の新型コロナ感染拡大以降、図書館が閉鎖されたのですが、その際に利用者の利益を担保すべく電子書籍の利用サービスが拡充されたようです。
しかし、図書館利用者の電子書籍利用が拡大するにつれて、明らかになった問題がありました。それは、コストの問題です。図書館が旧来の紙の書籍を購入する際には、ほぼほぼ一般の消費者が買うのと同じ価格で購入していました(ボリューム・ディスカウントがあったとは思いますが)。しかし、電子書籍のライセンスを購入する際には、図書館は一般の人とは区別され高額で購入しなくてはならないのです。それで、図書館がこのまま紙の書籍の購入を減らし、電子書籍のライセンス購入を拡大していくといずれ収支が合わなくなってしまうと思われます。
紙の書籍は著作物再販適用除外制度の対象でしたから、勝手に値引きして販売したり出来ませんでしたし、逆に高く売ることも出来ませんでした。しかし、電子書籍は著作物再販適用除外制度の対象外なのです。著作物再販適用除外制度の対象となるのは物だけで、電子書籍は物ではなく”情報”と見なされているのです。ですので、図書館にだけ、高く売りつけても法律的な問題は全くないのです。しかも、電子書籍のライセンスを提供するベンダーは5社ほどしかなく寡占状態ですので、図書館に対して優越的地位にあります。それでも、ベンダーも図書館に対して様々な形のライセンス契約形態を提案して、より多くの電子書籍をより安価に図書館に届ける努力はしているようです。
さて、私がこの記事で知ったのは、ファーストセール・ドクトリン(消尽理論:合法的に入手したものは著作権者の許諾なく販売・貸出できる)という言葉です。恥ずかしながら今までこの言葉は知らかなったのです。図書館が購入した蔵書は、ファーストセール・ドクトリンの対象で、一旦購入したわけですから自由に貸出しすることが出来ました。しかし、電子書籍のライセンスはファーストセール・ドクトリンの対象外なのです。ですから、電子書籍のライセンスを一般の人と同じ価格で購入して、好き勝手に図書館利用者にダウンロード(貸し出しが終了したら削除するが)させることは出来なくて、ベンダーから貸出し可能な契約で高額で買うしかないのです。
話がそれてしまいましたが、以下に和訳全文を掲載します。