驚くほどのビッグビジネス!になった図書館へのe-book(電子書籍)のライセンス供与事業

Annals of Communications

The Surprisingly Big Business of Library E-books
驚くほどのビッグビジネスになった図書館へのe-book(電子書籍)のライセンス供与事業

Increasingly, books are something that libraries do not own but borrow from the corporations that do.
図書館のe-book(電子書籍)のライセンス購入は増え続けています。これまでとは異なり、図書館は本を所有しないで、所有している企業から借りる形です。

By Daniel A. Gross September 2, 2021

1.図書館の電子書籍サービスは拡大中!

 OverDrive(以下、オーバードライブ社)の社長兼CEOであるスティーブ・ポタシュは、2020年3月の第2週に1週間ニューヨーク市に出張しました。オーバードライブ社は、デジタルコンテンツを提供する企業で、e-books(電子書籍サービス)やaudiobooks(オーディオブック)等を提供しています。ポタシュは、ニューヨーク市で2つの商談先を回りました。1つはニューヨーク公共図書館で、もう1つはホートン・ミフリン・ハーコート社(教科書などの出版社)でした。その時点で、ポタシュは、中国の駐在員から現地ではコロナウイルスの感染が拡がっており都市部ではロックダウンの措置が取られているということを聞いて認識していました。3月13日にニューヨーク公共図書館は閉鎖され、その際に、「利用者の利益を最優先に考慮するに、新型コロナの蔓延を最小限に抑えることが最大の責務であルト認識します。それ故、閉鎖するという決定をいたしました。しかし、利用者の利益を守るため、引き続きe-books(電子書籍)の利用は可能です。」との声明を出していました。ポタシュは、自社に追い風が吹いていることを確信しました。

 図書館が閉鎖されe-books(電子書籍)だけが使える状況になったわけですが、それはオーバードライブ社に大きな影響を及ぼしましたが、全国の公共図書館にも影響を及ぼしました。本の貸出業務で実務的に大きな変化がもたらされましたし、経済的にも多大な影響がありました。図書館は、取次会社等から書籍をまとめて購入します。そして、ファーストセールドクトリン(消尽理論:合法的に入手したものは著作権者の許諾なく販売・貸出できる)が適用されるので、図書館は購入した本を無料で貸し出す権利があります。しかし、ファーストセールドクトリンはデジタルコンテンツには適用されません。ほとんどの場合、出版社はe-books(電子書籍)やオーディオブックを図書館に販売はしません。出版社はdigital distribution right(デジタル頒布権)をオーバードライブ社等のベンダーに販売し、一部のベンダーが図書館にdigital distribution right(デジタル頒布権)を販売しています。そうした権利には有効期限が設けられています。また、一般的に図書館がe-books(電子書籍)を購入する際には、紙の書籍よりも高額を払うことになります。デンバーの公共図書館を監督しているミシェル・ジェスケは私に言いましたが、デジタルコンテンツが販売される際には、図書館は一般の購入者と区別して扱われるので、出版社はより高い価格を設定してきます。昨年、デンバー公共図書館はe-books(電子書籍)等の利用回数が60%以上増えて230万件になりました。蔵書等購入予算の約3分の1がデジタルコンテンツの購入等に費やされました。実に前年から20%もの増加でした。

 e-books(電子書籍)を扱うベンダーはいくつもあります。有名なものだけでもBibliotheca(以下、ビブリオテーケー社)、Hoopla(以下、フープラ社)、Axis 360(以下、アクシス360社)、非営利のDigital Public Library of America(以下、デジタル・パブリック・ライブラリ・オブ・アメリカ社)などがあります。その中でもオーバードライブ社は最大のベンダーです。オーバードライブ社は人気のアプリLibby(リビー)を運営しています。App StoreでLibby(リビー)の説明文を見ると「地元の図書館にログインして、電子書籍、オーディオブック、雑誌などに無料でアクセスすることができます」と記されています。オーバードライブ社の収益の大部分は、図書館や学校等にデジタルコンテンツを提供した際の利ザヤによるものです。つまり、オーバードライブ社の収益は、元を辿ればほとんどが税金だということになります。図書館や学校等で紙の書籍から電子書籍への移行が進むにつれて、同社の株価は急騰しました。楽天(電子書籍リーダーのKoboを提供している)は、2015年に4億ドルほどでオーバードライブ社を買収しましたが、昨年、投資会社のKKR(1989年に出版された”Barbarians at the Gate.”(邦題:野蛮な来訪者―RJRナビスコの陥落)で有名な投資ファンド)に売却されました。売却の詳細は非公表でしたが、楽天の報告書によれば、約3億6,560万ドルの利益が出たとのことです。

 ロックダウンが始まって数日後から、ニューヨーク公共図書館ではe-books(電子書籍)のダウンロード数が急増しました。人気のある本の待ち時間は長くなりました。対応策として、利用者は一度にe-books(電子書籍)をダウンロード出来るのは3冊までで、予約も3冊までに制限されました。また、数百万ドルの書籍等購入予算のほぼすべてがデジタルコンテンツ用に振り向けられました。3月末には、全米の図書館の74%が、新型コロナ対策による閉鎖に対応して、デジタルのサービスを拡充したという報道がありました。先日、私はポタシュとズーム(これもパンデミックで急激に拡大したデジタルサービスですが)を介して話し合いました。ポタシュは、昨年の3月頃にはオーバードライブ社の約100人の従業員を、それまでは見本市などで製品説明等をしていた者を、デジタルコンテンツの需要の増加への対応を強化するために、迅速に配置転換したこと言っていました。当時、オーバードライブ社の役員の1人は言ったそうです、「当社はe-books(電子書籍)を扱っているというのは正確ではない。当社はe-books(電子書籍)しか扱っていないといった方が正確です。」と。

 パンデミックが発生する前、私はe-books(電子書籍)を読んだことがなく、特に読みたくもありませんでした。しかし、ロックダウン中は、私はほぼ毎日、ヘッドホンを着けてオーディオブックを聴きながら、マスク姿で近所をブラブラしていました。なぜか、人間の声が聴きながら、時間を潰したかったのです。リビー(アプリ)が手放せなくなりました。私はブルックリン公立図書館とニューヨーク公共図書館の両館で利用者登録をしていますので、両館でどちらが順番待ちが少ないかを見比べて、両館の利用者カードをフル活用しました。以前ならKoboでお金を使うなどということは全く考えられなかったのですが、Koboで180ドル使いました。2020年には沢山の本を読みました。過去数年の合計よりも多かったでしょう。本を沢山読んだのは私だけではありません。昨年、100以上の図書館でオーバードライブ社の提供するe-books(電子書籍)等のダウンロード回数が100万回を越えました。オーバードライブ社によれば、4億3000万回のダウンロードが為され、それは前年比33%増と驚異的に伸びたとのことです(伝えられるところによれば、全米一の店舗数を誇る書店のBarnes&Noble社の同年の書籍販売数は約1億5500万冊でした)。図書館でe-books(電子書籍)等のダウンロードができるということで恩恵を受けた人は多いでしょう。しかし、一方で紙の書籍の販売が減るなどの影響も出始めています。紙の書籍や音楽CDや映画のDVD等を個人や図書館が購入して所有するという概念自体が廃れつつあります。購入しなくても保有している企業等から必要な時だけ借りるという形が定着しつつあります。