驚くほどのビッグビジネス!になった図書館へのe-book(電子書籍)のライセンス供与事業

3.増え続ける図書館の電子書籍ライセンス購入費用

 e-books(電子書籍)等が図書館で貸出しされる際の費用等について、ニューヨーク公共図書館は2021年1月に参考となる資料を送ってくれました。バラク・オバマ元大統領が記したA Promised Land(邦題:約束の地 大統領回顧録 )に関する数値でした。その本は、ペンギン・ランダムハウス社によって2ヶ月前に出版されていました。その時点で、ニューヨーク公共図書館は、オーディオブックの無期限のライセンスを単価95ドルで310個購入し(総額29,450ドル)、e-books(電子書籍)については639個のライセンス(1年間有効と2年間有効の2種)を購入し、総額は22,512ドルでした。両方を足した、デジタルコンテンツの為にかかった費用総額は、一般消費者向けe-books(電子書籍)を約3,000回購入分と同等の費用となります(一般消費者向けには1回約18ドルで販売されている)。2021年8月時点では、ニューヨーク公共図書館はハードカバー版も226部購入していますが、費用は1万ドル未満でした。ハードカバー版の定価は45ドルですが、アマゾンでは1冊23.23ドルで販売されています。この本が出版されてから最初の3か月間で3千人がe-books(電子書籍)かオーディオブックをダウンロードしました。また、順番待ちしている人も数千人いました。ニューヨーク公共図書館の司書の方々が言っていましたが、司書は利用者が書く購入希望リクエストをチェックしていているそうです。そして、それを参考にして、出版前の著作物に関してe-books(電子書籍)のライセンスをいくつ購入するか決めているそうです。

 e-books(電子書籍)のライセンス費用が高額になると、長期的に見ると図書館の運営は厳しくなっていくでしょう。私が話をした多くの図書館員もそう言っていました。また、e-books(電子書籍)のベンダーや出版社や図書館は持続可能な運営を目指すべく、話し合って解決策を見い出さなければなりません。イノウエは言いました、「現在の仕組みは最善のものではありません。紙の書籍の貸出の際と同様の利便性が確保されるべく、何らかの法律の変更が必要だと思われます。」と。マライア・バスティージョ(BrickHouseという出版社の創業者)が、先日、ネーション誌に記していましたが、図書館がe-books(電子書籍)のライセンス費用を払う際には1ライセンスに付き1回分の費用だけを支払う形にすべきであると主張していました(現在は、貸出した回数に応じて支払う契約形態が多い)。バスティージョは書いていました、「図書館の目的は重要な蔵書を保存することであり、そのためには、図書館は所有する必要があります。」と。私がポタシュに図書館でデジタルコンテンツ購入費用が急増している件について意見を求めたところ、彼は「デジタルコンテンツは、非常に優れています。しかし、現在のような状況が続けば、全ての図書館が破綻してしまうでしょう。改善すべきですね。」と言いました。

 今後ますます読書愛好家は、多くのデジタルコンテンツを欲するようになるでしょう。しかし、現在と同じ形ではないかもしれません。アマゾンが運営しているオーディオブックのAudible(オーディブル)は、すでにストリーミングするように本を聴くことを可能にしています。そのサービスのサブスクライバー(契約者)は、個々に作品を購入する必要はなく、常時変わり続けるカタログから好きなものを聴くことができます。ミレラ・ロンセビッチは「コンテンツを所有する時代は終わりました。これからはコンテンツにアクセスする時代です。」と言いました。彼女は、長年に渡って出版社や図書館に対してコンサル業務を提供してきました。将来、おそらく本を読む人は、Webサイトを見るように本を読みたいと思うようになるでしょう。ページを手でめくるのではなく、無限に好きなだけ画面をスクロールするようになるでしょう。既に、スマホやタブレットで雑誌をそのようにして読んでいる人も多いのではないでしょうか。おそらく将来本を読む人は、文字の中に必要に応じて画像や動画が差し込まれている方が便利だと思うはずで、紙の書籍ではない、全く新しいデジタルのフォーマットが有れば良いのにと思っているでしょう。ロンセビッチは、現在のe-books(電子書籍)の形は長くは続か無いだろうと言います。かつて、図書館が蔵書を貸出したということは、非常に革新的な出来事でした。それによって、人々のリテラシーが向上し、読書が盛んになり、多くのベストセラーも生まれました。ロンセビッチは、図書館は常に革新的であって欲しいと言います。たとえば、独立した出版社や国際的な出版社と協力して新しいデジタルコンテンツのフォーマットを開発したり、新しいライセンス契約形態を考えたりすべきです。

 現在ニューヨーク公共図書館館長を務めているアンドリュー・メドラーは、図書館は革新的である必要があるという意見に同意してます。それには、オーバードライブ社等のベンダーや出版社と協力する必要があると考えています。彼は私に言いました、「私たちは協力して革新を起こさなければなりません。」と。彼は、図書館利用者の利便性が担保されるならば、少数の企業が利益を上げても問題ではないと言います。図書館が革新的になれば、多くの人がもっと沢山本を読むようになるでしょう。e-books(電子書籍)の費用等数字に関することを教えてもらったので、私自身が図書館にとって費用の掛かる利用者になってしまったのではないかと少し心配になりました。私は図書館に碌に読めもしないような本の購入希望リクエストを出したりするのですが、図書館からすると費用が掛かる厄介な利用者なのではないかと、私はメドラーに尋ねました。メドラーは言いました、「心配しなくても良いですよ。図書館の利用者にそんな心配はしてもらいたくないですね。本が読みたくて要望するということは、本を読む人の本能みたいなものなのですから。」と。

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