FRB議長ジェローム・パウエルは利上げをするのか?グリーンスパンはそれをして見事に景気を後退させた・・・

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As Omicron Spreads, Jerome Powell Is in the Hot Seat
オミクロン株の感染が拡がりつつある中、FRB議長ジェローム・パウエルの舵取りは増々難しいものになりつつあります。

With inflation and the new coronavirus variant buffeting the economy, the Federal Reserve chair is attempting a feat that Alan Greenspan and Ben Bernanke failed spectacularly to pull off.
インフレ率上昇とオミクロン株によって経済の舵取りが困難になる中、FRBは、アラン・グリーンスパンやベン・バーナンキがこなせなかったタスクに取り組んでいます。

By John Cassidy  December 6, 2021

 昨年6月、米連邦準備制度理事会(FRB)の議長を務めるジェローム・パウエルは、2日間にわたって他の理事たちと政策決定会合を開きました。当時は新型コロナの第一波が終息しつつある頃で、さまざまな制限措置が解除されて、経済活動が再び活発になり始めた頃でした。しかし、失業率は13.3%と依然として高止まりしており、直前の3ヵ月間で約2,000万の労働者が失業か一時帰休を余儀なくされていました。パウエルをはじめとするFRBの理事たちは、景気回復の道のりは長く、ゆっくりとしたものになるだろうと予測しました。FRBの予測の中央値では、2021年第4四半期の失業率は6.5%、2022年第4四半期の失業率は5.5%となっていました。

 そうした予測はどうなったでしょうか?金曜日(12月3日)に米国労働省は、11月の失業率は4.2%に低下したと発表しました。その数値はパウエル議長らの予測を大幅に下回っただけでなく、1年先の失業率予測さえも既に大きく下回っていました。また、さまざまな指標をみると引き続き企業の求人意欲が旺盛であることが窺えました。労働省が発表した最新の数値である9月末時点の全米の求人数は1,040万人と過去最高に近い水準となっていました。求人数が非常に多いので、新規失業保険申請者数も大幅に減少していました。失業者数は、2週間前に1969年以降で最低のレベルの19万9千人になりました。先週の数字はそれよりは若干高くなりましたが、決して悪い数字ではありませんでした。

 それはアメリカの労働者にとって朗報で、企業等にとっては賃上げをせざるを得ない状況になりつつあります。パンデミックの初期にFRBは短期金利をゼロにし、毎月1,000億ドル以上の紙幣を刷りまくって債券市場に投入するという決定をしました。それが奏功し、経済が苦境に陥るのを回避することに成功したようです。しかし、パンデミックの間に景気が回復したことによって、パウエル議長は厄介な問題に対処しなくてはならなくなりました。2020年6月の政策決定会合では、パウエル議長らFRBの理事たちはインフレ率は2.0%以下になると予測していました。しかし、実際には、今年の10月までの12ヶ月間で消費者物価指数は6.2%上昇しました。それは、1990年以降で最も高い数値でした。

 数ヶ月前から、ローレンス・サマーズ元財務長官をはじめとする一部の経済学者が、FRBがインフレ率の上昇に対して積極的に行動していないと非難して、このままでは賃金価格スパイラルによってインフレが誘発させかねないと警告していました。一方、共和党は、政策によって物価の上昇を制御することなど不可能であるにもかかわらず、物価上昇の責任はバイデン政権にあるとして非難していました。

 パウエル議長は、これまでずっとインフレ率の急上昇は一部の産業で供給が滞ったことに起因する「一過性」のものだと主張することで批判をかわしてきました。しかし、先週になって急にトーンが変わりました。パウエルは、オミクロン株が雇用と支出を下押しするリスクがあることに留意する必要があるとした上で、上院銀行委員会の場で「経済は非常に強く、インフレ圧力も高い。」と述べました。また、これまで散々使っていた「一過性」という言葉を「使用禁止にすべき時期が来た」と述べました。FRBのパウエル議長と理事たちは、2021年最後の政策決定会合を来週に行う予定です。パウエル議長は、これまで続けてきた景気刺激策(量的緩和)の規模縮小に向けて踏み込んだ議論をすると語っていました。いわゆる「テーパリング加速」をすべきか否かが議論の中心になると見られています。このような動きからすると、2022年に利上げする準備を着々と進めているようです。

 皮肉な見方をすると、パウエル議長はバイデン大統領に自分が再び議長に指名されるのを待っていたように見えます。バイデン大統領がパウエル議長を再任するということは感謝祭の前日に明らかにされました。パウエル議長は再任が決まった後、インフレ懸念が高まっており、FRBが金融引き締め策をとる可能性があると強調し始めました。インフレになるか否かは全く予測できないわけですが、68歳のプライベート・エクイティ(PE)の元幹部であったパウエル議長は、現在、これまでの歴代のFRB議長が経験したことがないような困難なタスクを抱えています。金融政策の方向性を転換し、財政破綻や景気後退を引き起こさずに景気をソフトランディングさせなければならないのです。彼の前任者3人の内、アラン・グリーンスパンとベン・バーナンキの2人は、このタスクを成し遂げることが出来ずに完全に失敗しました。月曜日(12月6日)の朝、ダウ平均は600ドルも上昇しました。どうやら、投資家の多くが、パウエル議長が引き締め策を行っても前任者2人の在任時のような悲惨な状況には陥らないだろう予測しているようです。しかし、現在、株式市場は史上最高値圏付近で推移していますが、一旦下げだすと下げが下げを呼び大混乱に陥る可能性が無いわけではありません。また、パウエル議長にとってはオミクロン株も懸念材料です。

 現在、少なくとも17州でオミクロン株の感染が確認されていますが、それは景気の先行きに大きな影を投げ掛けています。今年の夏、デルタ変異株が出現し感染が拡がった後、雇用者数の伸びもGDPの伸びも一時的とはいえ急激に低下しました。オミクロン株がデルタ株よりも強力(重症化させる力が強い)であると判明した場合には、経済にさらに大きな影響を与える可能性があります。しかし、現段階では広範な制限措置が復活する可能性は低いと思われます。FRBの理事の中には、オミクロン株によって世界的なサプライチェーンの混乱が悪化することを懸念する者もいます。それは、既に供給が不足している商品の価格上昇をさらに助長する恐れがあります。ニューヨーク連銀総裁で米連邦公開市場委員会(FOMC)の副議長を務めるジョン・C・ウィリアムズは先週、タイムズ紙に対し、オミクロン株によって「需要の高い商品等を中心にインフレ圧力が高まる可能性がある」と述べていました。

 これまでの経緯を踏まえると、中央銀行が選択肢をたくさん持っておくことは理にかなっているように思われます。私はFRBを長年に渡って観察している経済学者に話を聞いたのですが、パウエル議長が先週、インフレに関してタカ派的なコメントをしたり、テーパリング加速に言及したのはそれが目的だったようです。SGHマルコ・アドバイザーズ(コンサルタント企業) で米国のチーフエコノミストを務めるティム・デュイは、「早期にテーパリングを行ったことで、FRBは2022年に向けて選択肢を増やすことができた。」と述べました。また、「FRBは早ければ3月にも利上げを決定することが可能ですし、経済状況を睨みながら、利上げ時期を秋まで後ろ倒しすることも可能です。」とも語っていました。

 また、デュイは、コア・インフレ率が4.0%以上に上昇して失業率が4.2%位で低いまま推移した場合には、FRBが利上げに必要な条件は既に出揃ったと判断するだろうと語っていました。しかし、パウエル議長はデータや数値や指標に基づいて政策を決定することを信条としています。今後、オミクロン株は確実に数値や指標に悪影響を与えるでしょう。今のところはオミクロン株の影響は大きくはなっていません。ここ数週間で、原油価格は1バレルあたり10ドル以上も下落しています。ですから、今後数週間はガソリン価格は低下すると予測されます。そうしてインフレ率が落ち着けば、FRBが早期に利上げする必要はなくなります。1月の政策決定会合までじっくりと情報を集めて状況を分析することが可能となります。

 一方、今週木曜日(12月9日)には労働省が11月の消費者物価指数を発表しますが、インフレ率が一段と高くなっていることが示される可能性があります。そうなると、パウエル議長に行動を起こさせようとする圧力が高まるでしょう。パウエル議長は既にFRB議長を1期務めたわけですが、なかなか挑戦的な仕事でした。ドナルド・トランプ大統領に上手く対処しなければなりませんでしたし、世界的にパンデミックが発生した難局にも上手く対処しなければなりませんでした。彼の2期目は、さらに挑戦的なものとなるでしょう。

以上

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