Bing A.I. and the Dawn of the Post-Search Internet
Bing AI とポスト検索体験の夜明け
So much of the current Web was designed around aggregation. What value will legacy sites have when bots can do the aggregation for us?
ウェブ上で見られる情報の多くは、さまざまな情報を集約して閲覧してもらいやすくしたものです。ボットが私たちの代わりに情報の集約を行うようになったら、それらのサイトの価値はどのように変わるのでしょうか?
By Kyle Chayka March 21, 2023
1年ほど前、私はGoogle検索に対するユーザーの不満が高まっていることをコラムで紹介しました。Googleで検索をすると、本来表示されるはずの有用な検索結果が示される代わりに、自動的に作成されるまとめサイトやスポンサード・コンテンツ(広告主の費用負担によって製作されるが、ウェブサイトなどの運営者が編集権をもつコンテンツ)やSEOスパム(検索エンジン最適化による上位に表示されることを狙ったコンテンツ)が表示されることがますます増えていました。Googleの検索アルゴリズムは、私たちが見つけたい情報に私たちを導くのではなく、コンテンツ・ミル(content mill:多数のフリーランスライターを雇用し、SEO対策をした大量のコンテンツを生成する企業)が中途半端に推奨する情報を私たちに浴びせるばかりといった状況になっていました。これまでGoogle検索がその優位性を保ってきたのは、多く人が習慣的に使っていて慣れていたからであり、競合するサービスがこれまで有効な代替手段を提供してこなかったからでもあります。マイクロソフトは、2月7日に検索エンジンBingの新たなベータ版の提供を開始しました。それは、OpenAI社の大規模言語モデルChatGPTの最新版であるGPT-4を搭載したAIチャットボットです。新しいバージョンのBingは、ユーザーを外部サイトに誘導する代わりに、任意のクエリに対して独自の回答を簡単に生成します。Googleは、このBingの新バージョンを自社のコアビジネスを脅かす存在であるとみなしていますが、それには理由があります。昨年末、タイムズ(Times)紙は、Googleが社内に向けてコードレッド (code red:緊急事態宣言のこと)を宣言したと報じました。先日、Bing AIのインターフェース開発に携わったマイクロソフトの設計担当副社長リズ・ダンジコ(Liz Danzico)が私に言いました、「私たちはポスト検索体験の中にいる。」と。
Bing AIは、ここ数週間で私は試用する機会を得たわけですが、基本的にはマイクロソフトの検索ディレクトリにChatGPTを接続したものです。それを使うことは、インターネット全体を視野に入れた超有能な司書と会話しているようなものです。これまでインターネットを使ってきた人にとって、検索するということは何も考えずにできる簡単なこと(いわゆるsecond nature:自然ではないが、何も考えずに出来るようになること)でした。Google検索で、関連するキーワードを入力し、エンターキーを押し、検索結果ページに表示されるリンクのリストをふるいにかけます。それから、探している情報を見つけるためにクリックします。もし欲していた情報が見つからなかったら、Googleの検索ページに戻って、キーワードを少し変えて再検索することもできます。Bing AIでは、検索した結果として示されるのはウェブサイトではありません。多くのウェブサイトを参照し、検索した結果として示されるのは、ユーザーとボットの間の “共創プロセス(co-creation process)” とリズ・ダンジコが呼ぶものを通じて生成されたものです。Bing AI は、多くの誰かが要約した情報を更に要約して、多くの誰かが集約した情報を更に集約して、オンライン上の膨大な情報をふるいにかけて選別した結果を示してくれます。私は、Bing AIに、Wirecutter(ワイヤカッター:The New York Times Companyが運営する製品レビューサイト)が推奨するトースターの内でどれが一番良いかを尋ねてみました。すると、クイジナート(Cuisinart:調理家電ブランド)のCPT-122 2スライスコンパクトプラスチックトースターを教えてくれました。それから、他に推奨するトースターの一覧表を作成するように指示したところ、”The Kitchn(レシピサイト:調理用品等も販売している)”、”Forbes(キッチン用品を販売しているサイト)”、”The Spruce Eats(レシピサイト:調理用品等も販売している)” などが売り出している商品の情報を収集しだしました。数秒後には、私がBing AIのページを離れる間もなく、評判の良いトースターを簡潔に一覧にした表を手に入れることができました。Bing Aiのチャットボットは、どれを買うべきかを教えてくれるわけではありません。チャットボットは、「私は人間ではないので、あなたのために結論を下すことはできません。」と言いました。
ある意味、Bing AIのユーザーはGoogle Searchのユーザーよりも多くのエージェンシー(agency)を持っていると言えます。Bing AIのチャットボットとのコミュニケーションは、マイクロソフトの製品開発シニアネージャーのセアラ・モディ(Sarah Mody)が言っていたのですが、20 年前の検索の仕組みとは全くことなっているそうです。Bing AIの検索では、単にキーワードのみを羅列するのではなく、わかりやすい文章でコミュニケーションをとって、さらにAIに追加で質問を投げかけることで検索結果を絞り込んでいきながら、洗練させていくことができます。例えば、アイスランド旅行の旅程表をリクエストした後、「”そこ(there)”の日の入りは何時ですか?」と尋ねれば、Bing AIのボットは”そこ(there)”がどこを指しているのかを理解します。しかしながら、Bing AIで検索をするユーザーは、制限されていることが多く、より受動的であると感じることもあります。自分自身で検索しているというよりは、何だか強要されてAIが価値のある情報を決定できるようにしなければならない感じです。「Bingは旅行ガイドであり、銀行であり、親友であり、手引なのです」とリサ・ダンジコは言います。”会話モード(conversation mode)”のインターフェイスは、穏やかな色のグラデーションの上にチャットボックスが1つだけ置かれており、ワンストップショップ(この1つで全ての用が足せること)が目的です。Google検索を使う際には、問題を解決するための正しい方程式を考えるような気分になることがありますが、Bing AIを使うのは、何度もテキストメッセージをやり取りして会話するのと似ています。笑顔で顔を赤らめた絵文字(emoji)を付けて答えが返ってくることもあります。例えば、「あなたとチャットできてうれしいです😊。」と返ってくることもあります。チャットボックスの左側には、”新しいトピック(new topic)”と書かれたボタンがあり、埃を払っている箒が描かれています。このボタンをクリックすると、現在のチャットが消去されます。一からやり直しとなります。このモジュールは、AI自身の協力を得て開発されたものだとリサ・ダンジコは教えてくれました。
Bing AIのようなツールは、ユーザーにとっては想像を絶する利便性を約束するわけですが、コンテンツを制作するクリエイターたちにとってはとても厄介なものです。過去10年間にわたってデジタル広告費用の大半を吸い上げてきた検索サービスやソーシャルメディアプラットフォームを提供してきた企業よりも厄介です。Bing AIは、ウェブサイトのURLへのリンクを脚注の形で表示して、ウェブサイトを紹介します。ウェブサイトのURLを目立たなくしているのは意図的なものです。あるマイクロソフト社のスタッフが私に語ったところによると、リンクをクリックしてスクロールしなければならない「認知的負荷(cognitive load)」を最小限に抑えることが目的だそうです。先日、セアラ・モディがビデオチャットで、Bing AIに夕食用のベジタリアンレシピを探させる方法を実演していました。Bing AIのボットは雑誌ボナペティ(Bon Appétit)のウェブサイトにあったベジタリアン向けのラザニアのレシピを表示し、チャット内にその全文が転載されました。ちなみにボナペティはThe New Yorker誌と同じくコンデナスト(Condé Nast)が刊行しています。その後、セアラ・モディはBing AIにすべての材料をリストアップして食料品店の通路ごとに並べるよう依頼しました。これは、どんな料理レシピサイトでも実現できない要求でした。
それよりも後のことですが、私は自分でも試しにBing AIを使ってみました。ファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank)と、さらに拡大しつつあった銀行危機に関する最新ニュースを教えてくれるように頼んでみました。すると、NBC、CNN、ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal:有料)の記事を引用しながら、ニュース速報の要約を作成してくれました。(ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナルは、自社の資料を参照するすべての AI は、適切なライセンス契約に則って料金を支払うべきだと主張しています。しかし、AI検索はGoogleと同様にウェブ全体をクロールするため、誰でもアクセス可能な記事に対してそれをするのは難しいかもしれません。)次に、私がBing AIに指示したのは、新興ネットメディアのアクシオス(Axios:バージニア州アーリントンに本拠を置くニュースWebサイト。スマホに合わせた短い文章の記事スタイルが特徴。スマートな簡潔さ(Brevity)をモットーに掲げている)と同様のスタイルでニュースを箇条書きにして表示することでした。その結果として示されたものは、いくぶんそっけない感じがするものの、かなり精巧にアクシオスを模倣できていました。また、別の機会にシャワーのあるバスルームに適した壁紙の選択肢をBing AIに尋ねてみたところ、多くの壁紙メーカーを一覧にしたリストが表示されました。それは、Googleで検索して表示されたリスティクル(listicle=list+article:複数の項目を箇条書きにしてまとめた形式の記事・コンテンツ)ではありません。私がボットと共創(co-created)したものです。
現在、ウェブ上で見られる情報の多くは、さまざまな情報を集約して閲覧してもらいやすくしたものです。たとえば、推奨する製品をリスト化したザ・ストラテジスト(The Strategist:New York Magagineが運営する新製品等レビューサイト)、多くの映画の要約を載せたロッテン・トマト(Rotten Tomatoes:アメリカの映画批評サイト)、レストランレビューを載せているのイェルプ(Yelp:ローカルビジネスレビューサイト)などです。AIボットが私たちの代わりに情報の集約を行うようになったら、それらのサイトの価値はどのように変わるのでしょうか?さて、Google検索を必要な資料がどこに記されているかを教えてくれる不完全な本の目次のようなものだとすると、Bing AIは元の資料を全く参考にしなくても済むような情報を提供してくれるスパークノーツと言えるでしょう。(訳者注:スパークノーツ”SparkNotes”は、アメリカの中学や高校で学習する内容をすべてカバーするサイト。ウィキペディアより詳細で、概要、主題、要点などが解説されている。)Bing AIのユーザーは、AIがチャットで返してくる概要を出版物のように読むだけで良いのです。執事の代役をこなす機械が新聞の見出しを大声で朗読しているのを聞いているかのように何もしなくて良いのです。Bing AIの様なAIが普及することは非常にメリットが大きいように思えるわけですが、しかし、逆説的にデメリットもあるのです。いや、デメリットの方が大きいかもしれません。そもそも、AIはウェブ上の膨大な情報に依存しています。それらを元にして求められた情報を生成して返しています。ウェブ上の膨大な情報は、元を辿れば、1個1個の各ウェブサイトが作り出したものが膨大に積み上がったものです。そのため、Bing AIのようなツールが普及すると、ある種の悪循環に陥ることが容易に想像できます。インターネットのユーザーが各ウェブサイトを直接見る必要がなくなれば、広告やサブスクリプションで利益を出すウェブサイトのビジネスモデルは崩壊します。しかし、そうしたウェブサイトがコンテンツを作らなくなってしまうと、AIツールは新鮮で信頼できる情報や素材を手に入れられなくなってしまいます。そうすると、AIは自動的に情報を取り込んで噛み砕いて記事を吐き出すわけですが、吐き出されたものは新鮮ではなく、正確でもなくなってしまいます。
新鮮で信頼できる情報や素材がAIには必要であると指摘したわけですが、オンライン上で見つかる情報や素材の多くが人工知能(artificial intelligence)によって生成されるようになったらどうなるのでしょうか?先週、Googleとマイクロソフトは、一般企業向けの一連のAIツールを発表した。それらを使えば、自動的に新しい電子メールを作成して送信し、新しいレポートを作成し、新しいプレゼン資料を作成したり、既存のものを要約したりできるようになります。同様のツールが、ほぼ間違いなく近いうちに、もっと広い範囲で普及するでしょう。ニューヨークマガジン(New York Magazine)で、ジョン・ハーマンが、起こりうる影響を ”テキストのハイパーインフレ(textual hyperinflation) “と表現していました。これまで誰かが手と頭を使って作成していた情報や素材をAIボットが生成するようになると、収集したコンテンツの中でどれが重要であるかを判断することが難しくなります。受け取った電子メールやレポート等は、どこかで誰かが作ったものとAIが作ったものが混ざる状況になるわけですが、それらは識別できません。私たちは既にスパムメールにさんざん困惑しているわけですが、ほとんどは人手をかけて誰かが作って送信したものです。しかし、今後AIがスパムメールを生成するようになれば、前例のない規模で送られてくるようになるでしょう。その多くは人間が作ったのかAIが作ったのかを識別することは難しいでしょう。私たちが予想しているよりも早く、コンテンツミル(content mill:多数のフリーランスライターを雇用し、SEO対策をした大量のコンテンツを生成する企業)がAIを使って記事を生成するようになるかもしれません。また、広報担当者がAIを使ってプレスリリースを作成するようになり、料理サイトがAIを使ってレシピを考案するようになるかもしれません。情報が氾濫して供給過多になり、誰もがそれに対処するために手助けが必要な状況になるでしょうが、メディア企業等は手助けしたくてもできないでしょう。収入が増えるわけでもなく、リソースが不足するからです。そのようなことが現実となれば、AIが何かの回答を探す際に、AIが生成した回答を参考にするようになります。つまり、Bing AIのようなツールが普及することによってネット上から人手をかけて作成したオリジナルのコンテンツが枯渇するようにり、ネット上に残るのは自己言及型のボット(self-referential bot)が生成した素材だけになり、それで、AIが最初に生成した一般的な回答が何度も使い回されることとなるのです。
一方、ネット上でAIが生成したものでないテキストは、職人芸の産物となり、純粋に品質が求められるようなものとなるでしょう。自然派ワインが重宝されているように、自然な言語(AI生成でない言語)も重宝されるようになるわけです。火曜日(3月21日)に、Googleは独自のAIチャットボットをリリースすると発表しました。マイクロソフトのAIの”コパイロット”(copilot:副操縦士の意)という控えめな名前と比較すると、GoogleのAIはより刺激的でより高尚な”バード”(Bard:吟遊詩人の意)という名前を冠せられました。バードは、ビッグ・テック(tech giants)企業間のAI分野の競争において錦の御旗となるものです。しかし、Googleは、バードを自社の代表的な製品(検索エンジン)とは明確に切り離しています。「バードはGoogle検索を補完するものと考えています。」と、同社のある幹部はタイムズ紙に語っています。これは、同社が現行の検索エンジンに対してAIが脅威になりうることを暗黙のうちに認めているようなものです。Googleは、AI開発競争でマイクロソフトに追いつこうとしているわけですが、自社の検索エンジンの価値を毀損しないように注意しなければなりません。私たちは、Bingが検索エンジンの次の明るい未来へ導いてくれるのを期待しています。♦
以上
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