実録! バイオミルク(Biomilq)社の人工母乳開発への挑戦 ー 結局、母乳と同じものは作れない?

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 バイオミルク(Biomilq)社の本社を訪れた時、私は妊娠31週目に入っていました。行く前までに、何人かの友人たちが母乳を出すのに四苦八苦しているという話を聞いていました。私は、もうすぐ子供が生まれる予定だったので様々な準備をしていたのですが、母乳による育児は、読み聞かせ、禁煙と並ぶ3大推奨事項でした。アメリカでは、多くの母親が短期的には母乳育児を実践しています。 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の資料によると、2019 年に生まれた乳児の83.2%は、少なくとも短期間は母乳で育てられていました。しかし、生後6カ月間の実態を調べたところ、全期間にわたって、母乳のみを摂取していた乳児の割合は24.9%で、母乳を全く与えられていない乳児が44.2%もいました。ちなみに、アメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics:略号はAAP)は生後6カ月間は母乳のみでの育児することを推奨しています。マンハッタンのレノックス・ヒル病院(Lenox Hill Hospital)で母乳育児プログラムを監督している看護師兼授乳コンサルタントのオレナ・ドブザンスキー(Olena Dobczansky)は言いました、「母乳が赤ちゃんにとって最適な栄養であるとされていますが、それについては議論の余地はありません。」と。しかし、彼女のように医療関係に勤めている者以外には、生後6カ月は母乳育児を推奨するというAAPのガイドラインは絵空事のように聞こえるような現実があります。「アメリカの母親の4分の1は、出産後2週間で仕事に復帰しています。」と、ドブザンスキーは指摘していました。産後2週間後といえば、まだ出血が止まっていない状態です。実は、有給の産後休暇の付与を雇用主に法律で義務付けていないのは、高所得国の中ではアメリカだけです。もし、それが義務付けられたら、母乳育児の割合はもっと高くなるはずです。

 まともに有給の産後休暇を取得できる幸運な親であっても、乳児が乳首に吸い付いて母乳を摂取できるようになるには、慣れや訓練が必要で、経験者の助けが必要な場合もあります。乳児が無事に母乳を摂取できるようになった後も長い長い茨の道が待っています。乳児が十分に栄養素を摂れているかが分からないので不安に襲われますし、身体的な不快感 も待っています。乳首の痛みや乳腺炎などです。乳児が生まれてしばらくの間は、絶え間なく母乳を与えているような感じになります。本当に重労働が続く感じです。授乳する方法は千差万別で、乳児ごとにコツがあるようです。私の知り合いにも、いろんな道具を使っている人がたくさんいます。可愛らしいネーミングの授乳を楽にするグッズが巷に溢れています。マイ・ベスト・フレンド授乳クッション(My Brest Friend nursing pillow)とか、シンプル・ウイッシズ・ハンズフリー授乳ブラ(Simple Wishes hands-free pumping bra)などです。専用の保冷庫や保冷バッグを準備して、搾乳した母乳を最適な温度で保管できるようにしている人もいます。そこまで準備しても嵐の時などには停電で悩まされることもあります。自分だけの冷凍庫を所有している人もいました。私は、母親の乳腺細胞から出る母乳というは、バイオテクノロジーの最先端技術によって生み出されたものではないわけですが、非常に貴重なものだと思いました。そのことは、経験的に誰もが知っているのではないでしょうか。