Microsoft Wordって使い難くない?もっと良いライティングソフトが有れば、書き物もはかどる?

Dept. of Technology December 20, 2021 Issue

Can “Distraction-Free” Devices Change the Way We Write?

「気を散らさない」ワープロが開発されたら、もっと上手く書けるようになるのか?

The digital age enabled productivity but invited procrastination. Now writers are rebelling against their word processors.
ITテクノロジーによって生産性は上がったが、書き物の能力は高まっていません。現在、書き物をする者は、ワープロに全然満足していません。

By Julian Lucas

1.書き物をする時、誰もが集中できずに困っている

 私は長い間、プロの作家になるには完璧なツールを見つけるしかないと思っていました。書評家としてキャリアをスタートさせた数ヶ月後の時点で、私の生産性はとても低かったので仕事が上手く回らない状況に陥りました。他の多くの人たちと同様ですが、私は生産性が低いのはマイクロソフトのWordの使い勝手の悪さが原因だと信じていました。原稿を書こうとしてワードを開くたびに、原稿のどの部分を書いているのかが分からなくなり、上へ下へとスクロールをし、遠く離れた文章の間を何度も行ったり来たりしなければならないような状態に陥ります。書いたものを読み返しては、言葉を置き換えたり、書いては修正を繰り返し続けることになります。Wordというプログラムは、文章をいじくり回すのには最適なツールだと思うのですが、これで原稿を仕上げるのは不可能なんじゃないかと思うこともしばしばあります。

 私は、すっかりお手上げといった状態でした。1990年代後半に有名な哲学者のジャック・デリダもインタビューで同じような状況に陥っていることを吐露していました。デリダは記していました、「コンピュータを使えば、すべてを迅速かつ簡単に行うことができる。しかし、無限に修正を繰り返すことになり、際限なく推敲を続ける状態に陥るだろう。」と。それでも、デリダはパソコンやスマホ等の機器を使わなくなるようなことはありませんでした。それで、彼は作家の友人たちに、パソコンをオフラインで使うことや、スマホを決められた時間以外には取り出せなくなる保管庫を使用することなどを勧めていました。また、ゼイディ・スミス(著名な作家)は、先延ばし主義者が先延ばしするのを防ぐツールとして、定額制のサービス”Freedom”が有効であると宣伝していました。

 集中力を増して気が散らないようにするために、物書き養成Webツールの”Write or Die”というアプリを執筆時に使ったこともありました。そのアプリを使うと、バックスペースキーが使えなくなったり、極端な設定をするとキーボードから手を離すと書いたものが全て削除されてしまいます。その後、私は自分でプログラムをコーディングしてライティングツールを作ることを試みてみました。趣味として取り組むという意味では楽しかったのですが、残念ながら効果の高いツールを作ることはできませんでした。コーディングしていると、何かとても使い物にならないようなプログラムになりました。いわゆる”ルーブ・ゴールドバーグ・マシン”(アメリカ合衆国の漫画家ルーブ・ゴールドバーグが発案した、普通にすれば簡単にできることをあえて手の込んだからくりを多数用い、それらが次々と連鎖していくことで実行する機械・装置)」のようなプログラムしかできませんでした。どうしても書くことに集中できるようになるようなプログラムは生み出せませんでした。誰かを雇って手書きさせるというような芸当は経済的な理由で私にはできません。ウェンデル・ベリー(著名な小説家)はハーパーズ誌にて、妻に書かせているので自分にはパソコンは必要ないと自慢していました。残念ながら、私は都会に住む一介のフリーランサーに過ぎず、ボーイフレンドは仕事があるので手伝ってくれることもありません。ですので、私は、エクスカリバー(ワープロソフト)を使い続けて、集中力を保って推敲を続けています。

 それからしばらくして、2010代後半になると、集中して文章を書くためのツールがあちこちで登場しました。アップルストアで生産性向上に資する製品を探してみると、気を散らさず集中することができる編集ツールが沢山あって、いくつかは人気を博していました。タイムズ紙では、National Novel Writing Month (略してNaNoWriMo:全米小説執筆月間)に合わせて、トム・ハンクスを起用してタイプライターアプリの宣伝をしていました。デトロイトのある会社は、スマートタイプライター(キーが入力しやすく、クラウドサービスにより便利な機能が山盛りのタイプライター)を市場に投入しました。価格は500ドル以上と非常に強気な設定でした。それは、新型コロナ感染が始まった頃の数カ月でかなり売れました。それが売れた理由は、在宅で配偶者やルームメイトと過ごす時間が増えた書き物をする人の多くが、集中できないことに絶望して改善策を探し求めたからだと推測されます。あるいは、自分自身の集中力の無さを改めて認識した者たちが買い求めたのだと推測されます。実は、私もその広告にはかなり興味を持ちました。そのタブレット(広告では「世界で最も薄いタブレット」と記されていた)は、ペンと紙の代わりになるだけではありません。広告には「脳の機能を改善する」と記されていました。その会社のネット上の宣伝動画は、300万回も再生されました。ちょっと地獄絵図のような雰囲気でしたが、最初にiPadにしがみつく悪魔の子が登場し、おどろおどろしい景色の中を行き来していました。脳の中のようにも見えましたが、宣伝文が画面中を漂っていました。そして、「テクノロジーが進化した。それに伴って人間の能力も進化する!」というナレーションが入ります。