A Reporter at Large February 7, 2022 Issue
Can Germany Show Us How to Leave Coal Behind?
ドイツは脱石炭の成功事例を他国に示すことができるか?
The country embarked on an ambitious plan to transition to clean energy, aiming to lead the fight against climate change. It has not been easy.
ドイツは、世界に先駆けて気候変動を防ぐ取り組みに着手し、クリーンエネルギーに完全に移行するという野心的な計画に着手しました。しかし、それは容易なことではありません。
By Alec MacGillis January 31, 2022
1.ドイツの脱石炭の取り組みに、全世界が注目している
ドイツ連邦議会選挙を目前に控えた昨年9月下旬のことでしたが、極右派政党の「ドイツのための選択肢」(略称:AfD=アーエフディー)」が、ナイセ川を隔ててポーランドと接する人口約5万6千人の風光明媚なゲルリッツで大規模な選挙集会を開催していました。私は集会の会場へ向かう細い道を歩いていたのですが、1930年頃のベルリンをイメージして作られた広場に出くわしました。そこには、木製のカートが置かれており、浮浪児が居て、ヒトラーの大きなポスターも飾られていました。
ゲルリッツは、第二次世界大戦でほとんど被害を受けなかったので、映画やテレビ番組で、ヨーロッパの戦前のシーンの撮影で良く使われます。「バビロン・ベルリン(2017年独のTVドラマ)」や「イングロリアス・バスターズ(2009年封切リの映画)」などのロケ地でした。数百メートル先で、ドイツのための選択肢(AfD)が、ドイツを侵略しているとして外国人移民の排斥を扇情的に訴えていたのですが、異様な光景でした。ドイツでは、極右の復活に対する警戒感が高まっているのですが、AfDの集会にはかなりの支持者が参加しており、盛り上がりを見せていました。
実際、その集会ではAfDの代表候補のティノ・クロパラが演説をしていましたが、外国人排斥に関する発言は比較的穏やかなものでした。ドイツには2015年以降で100万人を超える難民や移民が流入してきたのですが、概ね大きな混乱はありませんでした。それによって、AfDが移民排斥を訴えても民衆にはそれほど響かなくなってしまいました。ですので、クロパラは、民衆に訴える争点を別のものに差し替えなければならなくなっていました。それで、新型コロナ用ワクチンの学童への接種義務化の危険性、中小企業の苦境、石炭火力発電所の即時停止などを争点として訴えかけていました。ドイツでは、電力の4分の1以上は石炭に依存しており、米国よりも依存度が高いのです。
ゲルリッツ周辺は、ドイツ国内に残る2大石炭産出地の1つで、石炭産業の衰退に合わせて経済の地盤沈下の激しい地域です。2020年に可決されたドイツの脱石炭化計画では、石炭産出地域に対して数十億ユーロの補償金を支出するという施策が含まれていて、そうした地域の産業構造転換のために使われる予定でした。しかし、その補償金のほとんどは、最も石炭に依存している町から遠く離れた地域の全く関係ない軽薄な響きのプロジェクトに割り当てられていることが判明しています。この地域の出身であるクロパラは、そのような事実を列挙し猛烈に批判していました。また、集会では、ドイツ再統一後に旧東ドイツで何百万人もの人々が職を失い、多くの人たちが故郷を捨てて西ドイツに移住した事実に言及し、この地域の人たちは、再びドイツ政府に裏切られたのだと主張しました。彼は言いました、「私たちは、政府に見捨てられたのだ。1990年と全く同じだ!」と。
その主張と全く同じようなことを、私は米国で聞いたことがありました。私は長年、アメリカの炭鉱地帯を取材してきました。数十年にわたって石炭産業は衰退し続けていて、地域経済が衰退し政治的不満も高まっています。ウエスト・バージニア州では、1950年代には炭鉱労働者は10万人以上いたのですが、今では1万5千人以下になってしまいました。米国の人口が現在の半分以下だった70年前よりも居住者が少なっている州はウエスト・バージニア州だけです。そうした統計の数値を聞いても、ローガンやオセアナやパインビルなどの半ば廃墟と化した町を訪れたことのある人なら特に驚くようなこともないでしょう。石炭産業が斜陽になるに連れて、ウェストバージニア州では政治面で劇的な変化が起きていました。1988年には、同州はマイケル・デューカキス(民主党大統領候補)に投票した10州の内の1つでした。それが、2020年の大統領選では、ワイオミング州に次ぐ大差でドナルド・トランプが同州で勝利しました。ちなみに、ワイオミング州も石炭の生産が盛んな州でした。
ゲルリッツの北、ポーランドとの国境沿いのブランデンブルク州とザクセン州にまたがるルザティアという炭鉱地帯は、ウエスト・バージニア州と非常に似た状況でした。ルサディアは、ベルリンの南東約90マイルに位置していますが、1990年以降で、炭鉱や石炭火力発電所での雇用は8万人から8千人以下に激減し、人口も激減していました。その地域の中心に位置していたホイエルスヴェルダの人口は7万人から半分以下になり、東ドイツ時代に建てられた高層アパート群は廃墟と化しました。また、その地域最大の都市コトブスは、ベルリンの人口は壁崩壊直前には約13万人だったのですが、10万人以下まで減少しました。そして、ウエストバージニア州で見られた右傾化が、ここでも顕著になっています。ザクセン州東部の他の地域と同様に、ルザティア州ではAfDが影響力を拡大しつつあります。また、石炭採掘企業や石炭関連事業従事者や石炭産業の盛んな地域ではAfDの得票率が3分の1を超えています。
しかし、ドイツと米国では決定的な違いが1つあります。ドイツは、”Energiewende”(エネルギー革命)政策を掲げており、石炭の使用を止めるということを正式に決定していて補償金が配分されています。その額は数十億ユーロにもなります。一方、米国では、石炭からの脱却は、成り行き任せとなっています。ドナルド・トランプ政権時に、連邦政府の石炭からの脱却の取り組みは頓挫してしまいました。また、ジョー・バイデン政権でも、ウエストバージニア州選出で身内の民主党上院議員ジョー・マンチン(実家が石炭業を営んでいる)の反対に遭って、脱石炭の取り組みで進展が見られない状況が続いています。米国の石炭使用量は年々減っています。しかし、それは何かの施策で減ったわけではありません。安価な天然ガスの産出が増えたことによって、減っただけなのです。石炭産業が盛んな地域が抱える社会的・経済的な問題を解決するための取り組みが行われていますが、ドイツのように大々的なものではありません。昨年、この件に関してバイデン大統領が作業部会を立ち上げましたが、支援をしなければならない地域の選定と、どのような支援をすべきかを検討している段階のようです。
米国とドイツではあまりにも差があります。私は、それが気になったので、ルザティア地方まで行ってみました。ドイツが石炭からの脱却を図っていることは、炭素排出量を削減する必要がある世界にとって非常に象徴的なことで、意義のあることです。気候変動に関する政府間パネルは、気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、2050年までに二酸化炭素の排出をゼロにする必要があるとしています。2018年には、石炭火力発電はエネルギー関連の炭素排出量の約3分の1を排出しており、最大の排出源でした。また、国際エネルギー機関(IEA)によれば、昨年の世界の石炭火力発電量は過去最高に達したようです。石炭からの脱却という取り組みで、米国がリーダーシップを発揮しないので、ドイツが代わりになろうとしているのです。それで、いかにして景気への悪影響や政治的な反発を招くこと無く、石炭使用量を減らすことができるか試行錯誤しているのです。ドイツがそれを成し遂げられるかどうか、大きな注目が集まっているのです。