8.ドイツの脱石炭の取り組みを見て、追随したい思う国は無い
11月にも私はルザティア地方へ行きました。私は、コトブスの喫茶店で石炭採掘会社のリーグ社の従業員ラース・カツマレクに会いました。カツマレクは29歳で、炭鉱で通信設備の管理をしています。彼は、その仕事が大好きで、炭鉱が閉鎖されるまで勤務を続けたいと言っていました。彼はAfDを支持していません。以前から忠実な社会民主党員です。気候変動を防ぐために石炭の使用を止めるべきであるということも認識しています。2019年には「未来のための金曜日」の活動家とも会ったこともあるそうです。
彼は石炭産業が盛んな地域は、他の地域のための犠牲になっていると思っていました。彼の両親は共に褐炭炭鉱で働いていました。彼の母親は1990年代に職を失い、それ以降は再び安定した仕事を見つけることができませんでした。コトブスは、旧東ドイツの中でも、西ドイツへ移住した人の割合が3番目に高く、カツマレクの高校時代の友人もほぼ全員が町を出ていったそうです。職を失って、この地域から離れていく人が沢山います。そうした人たちを見るのは、非常に辛いことです。というのは、産業構造転換の補償金で恩恵を受けることなど無いことが分かっているからです。彼は言いました、「ここを去って行く人を見るのは、とても辛いことです。」と。
カツマレクは、趣味でラップソングを作曲しています。先日、ルザティア地方の窮状を訴える曲を制作しました。動画も作られていて、ヴェスタス社の閉鎖予定の風力発電設備製造工場で歌うカツマレクの姿も映っているそうです。彼は言いました、「政治家は国民の信頼を取り戻す必要があります。そのためには言ったことを必ず実行することが重要です。脱石炭は、政治家が信頼を取り戻す大きなチャンスなのです。」と。
脱石炭によって電力価格が高騰したら、ドイツの製造業は衰退してしまうでしょう。そんな事態に陥らないようにする必要があります。彼は言いました、「ドイツが脱工業化することなどありえないのです。製造業こそがドイツに繁栄をもたらしてきたのです。製造業が衰退したら、ドイツの繁栄は失われ、とんでもないことになるでしょう。もし、他の国の人たちがドイツの状況を見たら、ドイツに追随して脱石炭に取り組もうと思うでしょうか?製造業が衰退して、繁栄が損なわれ、国民の不満が高まり、ポピュリズムが蔓延っているドイツの姿を見たら、どこの国もドイツを手本にすることなどないでしょう。」と。
私は、彼からもっと話を聞きたかったのですが、時間が無くなりました。彼は、ルザティアを離れた多くの友人の内の1人に会うために、1時間に1本しかないベルリン行きの列車に乗らなければならなかったのです。♦
以上