景気の息切れが鮮明になった中国!どうして、中国政府は景気刺激策を打たないのか?このまま立ち直れないのか?

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China’s Economic Miracle Is Turning Into a Long Slog
奇跡を起こした中国経済は、長い闘いに直面している

As consumer prices fall and other signs of weakness emerge, fears are growing that the world’s second-largest economy could be heading toward an extended slump.
消費者物価の下落やその他の景気低迷の兆候が現れるにつれ、世界第2位の経済大国が長期にわたる不況に向かうのではないかとの懸念が高まっています。

By John Cassidy August 12, 2023

 アメリカでは物価上昇が続いています。しかし、中国では物価が下落しています。中国国家統計局(National Bureau of Statistics)が今週発表したところによると、7月までの12カ月間で中国の消費者物価指数(China’s Consumer Price Index)は0.3%下落しました(ちなみに、同期間、アメリカの消費者物価指数3.2%上昇しています)。表面的な見方をすれば、物価の下落は中国の消費者にとって好材料です。しかし、現在の中国のデフレは、景気低迷を示すいくつもの兆候が付随しています。GDP成長率の急激な鈍化、小売売上高の低迷、輸出の減少、不動産価格の再下落などです。こうした状況から、長年奇跡のような成長を続けてきた世界第2位の経済大国が、長期的なスランプに陥るのではないかという懸念が高まっています。コーネル大学(Cornell University)のエコノミストで中国経済に詳しいエスワール・プラサド(Eswar Prasad)が次のように指摘しています。「中国では、成長の鈍化、信用の収縮、物価の下落が同時に発生しています。それらが合わさって下降スパイラルに陥り、それぞれがさらに強化される可能性があります。」

 中国のGDPは、政府が厳格なゼロコロナ政策を終了したことを受けて、年初には力強い成長を見せましたが、4〜6月までの3カ月間の成長率はわずか0.8%にとどまりました。これは中国政府が発表している政策目標の実質GDP成長率5%を大きく下回っています。奇跡のような経済成長を遂げた頃の2桁の成長率をはるかに下回っています。中国政府は、バイデン大統領が就任後すぐに導入したような大規模な財政刺激策(big fiscal stimulus)の実施を求める声に抵抗しています。ですので、中国経済が直ちに回復する可能性はほぼ無さそうです。

 多くのアナリストが、中央政府の経済運営に対する国民の懸念が現在の中国経済の弱さの一因だと分析しています。昨年末に習近平(Xi Jinping)率いる共産党は唐突にゼロコロナ政策を終了したわけですが、同時に、大手インターネット企業を含む、中国で最も成功している企業のいくつかを抑制するための積極的なキャンペーンを展開し始めました。中国視察を終えて帰国したばかりのプラサドが言っていたのですが、現地で会ったビジネスリーダーや学者の何人かは、中国政府に経済を立て直す能力がないと懸念しているようです。

 中国でもっと懸念しなければならないのは、全国的な不動産不況です。多くの中国の金融機関が不良債権を抱えています。多くの住宅所有者が資産価値の低下に直面しています。不動産市場と金融システムに対する圧力を緩和するため、中国政府は借入制限を一部緩和し、金融機関の預金準備率を引き下げ、僅かとはいえ金利も引き下げました。今年初めには、これらの措置が不動産市場を安定させているように見えました。しかし、足元では住宅価格は再び下落に転じています。それが莫大な債務を抱えるデベロッパー(不動産開発業者)をさらに圧迫しています。今週初めには、国内最大の民間デベロッパーである碧桂園(Country Garden)がドル建て債(dollar-denominated bond)2本(総額2,250万ドル)の利払いを履行できませんでした。より広範な経済破綻(meltdown)の懸念が高まっています。

 中国で負債が増大するのは、今に始まったことではありません。2007〜2014年には民間債務のGDP比が顕著に上昇しました。その間に約100%から約180%に上昇しています。当時、この急激な上昇によって、債務者が一斉に債務を放棄し、資産価格が暴落し、経済が崩壊する債務危機が発生するのではないかという懸念が広がりました。いわゆるミンスキー・モーメント(Minsky moment)が訪れるのではないかと懸念されていました。それは、金融不安と債務危機について幅広く研究したアメリカの経済学者ハイマン・ミンスキー(Hyman Minsky)の名にちなんだ用語で、信用循環または景気循環において、投資家が投機によって生じた債務スパイラルによりキャッシュフロー問題を抱えるポイントを意味します。このポイントにおいて、どのカウンターパーティー(金融取引参加者)も事前につけられた高い提示額に対して値をつけることができず、大きな株の投げ売りが始まり、その結果、市場決済資産価格の突然かつ急激な崩壊、市場流動性における急激な落ち込みが発生します。当時、中国共産党は、財政刺激策(fiscal stimulus packages)、低金利(low interest rates)、通貨切り下げ(currency devaluation)などの政策を総動員しました。それで、大災害を回避しました。しかし、中国ではここ数年、特に不動産関連と家計の債務が大きく増え続けていて、金融危機(financial crash)の懸念が再燃しています。

 プラサドは、かつて国際通貨基金(International Monetary Fund:略号IMF)で中国部門の責任者を務めていました。そのプラサドも指摘していたのですが、おそらく中国では今後もデベロッパーが倒産したり、銀行が苦境に陥るケースは減らないでしょう。しかし、プラサドは、金融システム自体が崩壊する可能性は低いと推測しています。彼は言いました、「たしかにリスクはあります。しかし、私は20数年も中国について研究してきましたが、中国が非常に困難な状況から何とかして抜け出したのを何度も目にしてきました。ほんとに、何度も驚かされました。」と。しかしながら、彼は、中国の経済成長がこれまでよりもはるかにゆっくりであるという現実に、中国も他国も慣れることが必要である、と付け加えました。

 中国経済の強みが無くなってしまったわけではありません。強力な科学的基盤が備わっており、外貨準備も豊富です。何といっても、国内市場も巨大です。しかし、中国の国内市場は巨大になりすぎたのかもしれません。国際通貨基金(IMF)によれば、中国のGDPは19兆ドルに迫る規模です。この規模になると、安価な労働力と輸出増に頼るだけでは、経済成長を続けるのは難しいのです。そうしたことを認識しているので、中国共産党は消費者主導の成長への転換を図っているのです。同時に、不平等を是正し、習近平政権が打ち出した共同富裕(common prosperity)を実現しようとしています。中国と西側諸国との政治的緊張が高まり、貿易が脅かされている最中にそれを実現しようとしているのです。(今週初め、バイデン大統領は半導体や人工知能(AI)などの先端技術を開発する中国企業への投資規制を導入すると発表しました。)

 中国の国内総生産(GDP)は、世界の国内総生産(GDP)のほぼ5分の1を占めています。ですので、中国の景気動向は他国にとって重要な意味を持ちます。アメリカにとっても重要な意味を持ちます。中国経済が強ければ、一般的に原油や銅などの商品価格や、中国が大量に輸入しているモノの価格を押し上げます。例えば、機械類、電気機器、医療機器などです。中国経済が弱くなれば、ガソリンやその他の品目の価格を押し下げるでしょう。しかし、その場合には、他の多くの国々の需要が減って、生産も押し下げられ、予測困難な結果がもたらされる可能性があります。

 過去30年間、世界は中国の急速な経済成長と折り合いをつけながら歩んできました。そのおかげで何億人もの人々が極度の貧困から抜け出すことができ、世界規模でサプライチェーンの変革が進み、世界のパワー・バランスも様変わりしました。今後、世界はこれまでとはまったく異なる状況に適応しなければならないのかもしれません。つまり、経済的な苦境からゆっくり立ち直ろうとする中国に適応していかなければならないのです。ムーディーズ・アナリティックス(Moody’s Analytics)のアジア太平洋地域チーフ・エコノミストのスティーブ・コクラン(Steve Cochrane)がウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)紙に語ったように、かつて奇跡を起こした中国経済は、”long slog(長い闘い)”に直面しているのです。♦

以上