Does A.I. Lead Police to Ignore Contradictory Evidence?
AIのせいで警察は矛盾する証拠を無視するようになるのか?
Too often, a facial-recognition search represents virtually the entirety of a police investigation.
多くの捜査で、警察は顔認識システムに頼りきって、それ以外の捜査を怠りがちである。
By Eyal Press November 13, 2023
1.
2022年3月26日午前8時20分頃、ボルチモア市郊外ティモニアム(Timonium)のショッピングセンターの近くで、水色のナイキのスウェットパンツをはいた男がバスに乗り込んだ。女性運転手は、マスクの着用が義務づけられていることを説明し、それを守るよう命じた。すると、男は運賃箱のところまで来て、口論を始めた。「クソ女!ぶっ飛ばすぞ」と男は言い、運転手を保護するプラスチック板に詰め寄った。彼女は警察を呼ぼうとiPhoneを取り出した。男はプラスチック板の横から手を回し、iPhoneを奪い、走り去った。彼女は男の後を追ってバスの外に出たが、男に顔を何度も殴られた。鼻血が出た。それを拭っているのを、男は笑いながら縁石のそばから見ていた
警察が到着して付近を捜索した時には、既に男は逃走していた。が、一部始終が監視カメラ(surveillance cameras)に記録されていた。メリーランド州交通局は、その映像から静止画像を抽出し、容疑者情報を作成し、近隣の捜査機関に共有した。そこには、容疑者とされる細身の黒人男性の写真がいくつか載っていた。いずれも野球帽とパーカーのフードで顔の一部が隠れていた。容疑者情報は、近くのハーフォード郡にある州検事局にも送られた。そこの分析官が顔認識システムを使用して分析することになった。彼女は犯人の顔写真を、膨大な写真のデータベースから似た特徴を持つ顔を特定するアルゴリズムを使うソフトウェアに送り込んだ。その顔写真に一致する可能性のある人物の一覧が作成された(このシステムでは、個人毎の特徴が表れる顔の80カ所を突き合わせているという)。分析官の目に留まったのは、メリーランド州に住む50代半ばのアロンゾ・コーネリアス・ソーヤー(Alonzo Cornelius Sawyer)だった。
3月28日、ソーヤーはこの事件の重要参考人となり、彼の名前は犯罪捜査班に転送された。そこで刑事が警察のデータベースで彼に関する情報を調べた。交通違反で執行猶予中であることがわかった。無免許運転で捕まっていて、3日後にハーフォード郡裁判所に出頭するよう命じられていた。裁判所に現れた彼は上機嫌だった。入り口にいた守衛と笑い合った。彼は、裁判が延期されたことを知らされた。裁判所から出ようとすると、連邦保安官代理に後ろから手をかけられ、身体を壁に叩きつけられた。アロンゾ・ソーヤーか、と尋ねられたので、そうだと答えた。保安官代理は逮捕状が出ていると告げた。「どういうことか教えてくれ。」と、ソーヤーは懇願した。保安官代理は、すぐにわかると言った。
ソーヤーは手錠をかけられ、ボルチモアにある警察本部に連行された。捜査員2人から3月26日にどこにいたかを尋問された。ソーヤーはいろいろと説明した。彼と妻は新しいアパートに引っ越す計画をしていたこと、当日はボルチモアから北東へ40分のハーフォード郡アビンドン(Abingdon)に住む妻の姉の家にいたことなどだ。しかし、そこで一日中何をして過ごしたかは覚えていなかった。最後にボルチモア付近に行ったのはいつかと言うことも聞かれた。ソーヤーは思い出せないと答えた。事件のあったティモニアムのバスには乗ったことはないし、その日に諍いを起こしたことはないと主張した。すると捜査員たちは、例の容疑者情報を彼に見せた。捜査員の1人が、「ここにお前が映っているんだよ!」と言った。ソーヤーは、容疑者情報に載っている写真をしげしげと見た。「俺じゃない。誰の写真だよ。」と言った。写真の男は、ソーヤーと共通点がある。瘦せてあごひげを生やしている。しかし、35歳以上には見えない。ソーヤーは、自分の子どもと同じくらいの年齢だと思った。たしかに肌の色は似ている。が、服の色は全く見たことのないものだった。写真の男のスウェットパンツを指差しながら、彼は言った、「俺は水色のスエットパンツは穿かない。あんな色のは持っていない」。
捜査員たちは納得しなかった。ソーヤーはボルチモア郡拘置所(the Baltimore County Detention Center) に移送され、第2級暴行罪(second-degree assault)2件、携帯電話の窃盗罪(数件)で起訴された。犯行の悪質さを理由に、保釈は拒否された。懲役25年を科される可能性があった。