犯罪捜査での顔認識システムの使用は危険! 他のAIツールと同様、メリットもあるがデメリットが大きい!

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 透明性の欠如は、他の形態の人工知能と同様に、顔認識システムへの期待がそれを規制する意欲を上回っているという事実に起因している。メリーランド州上院議員チャールズ・シドナー3世(Charles Sydnor III)は言った、「多くの議員が、自分たちが理解していないテクノロジーに制約を加えることを嫌っている。しかし、顔認識システムは犯罪を抑止することができると信じている。」と。シドナーは2016年、ジョージタウン大学ロー・センターのプライバシー・テクノロジー・センターが発表したレポート”The Perpetual Line-Up(永遠の面通し)”を目にし、初めて顔認証に関心を持った。そのレポートには「捜査当局の顔認識システム利用を包括的に規制する法律を可決した州はない」との指摘があったのだが、当時、少なくとも州や地方自治体の警察の4分の1が既にこのテクノロジーにアクセスしていた。翌年(2017年)、シドナーはその潜在的な弊害がよりよく理解されるまで、顔認識システムの一時利用停止を提案した。しかし、彼によれば、その法案は支持を得られなかったという。結局、シドナーは、法執行機関が顔認識システムを使用することを許可するだけでなく、誤用を防ぐためのガイドラインを設ける法案を推進することにした。逮捕する前に捜査当局が顔認識システム以外の証拠を示すことを義務付けることなどを盛り込んだ。、(昨年、メリーランド州上院はその法案を可決した。しかし、下院では廃案となった。理由は、停車中のスクールバスを追い越した際の罰則を軽減するという不評な修正案が追加されたからである。)

 もし、各地の警察が誤用を防ぐための規制を設ければ、それは有意義な一歩となるだろう。しかし、ACLUのネイサン・ウェスラー(Nathan Wessler)が私に言ったのだが、警察が顔認識システムの規制として考えているのは、顔認識システムの検出した結果に頼るだけでなく、それに加えていくつもの顔写真が並んだリストを目撃者に見てもらうことである。恐ろしいことで、全く意味がない。目撃者が何か示唆的なことを言われたり、顔認識システムが選んだ犯人に似た人物しかいないような顔写真リストを見せられたりすれば、それらに引き摺られて目撃者は誤った判断を下す可能性が高い。ACLUは顔認識システム利用の禁止を提唱している。「すくなくとも議会がこの問題を解決するまで、利用を停止するべきだ。」と、ウェスラーは言った。既に20以上の都市で利用禁止令が制定されている。その多くは、極めてリベラルな(そして白人が多い)都市である。マサチューセッツ州ノーサンプトン(Northampton)やウィスコンシン州マディソン(Madison)などだ。先日、バーモント州が、児童の性的虐待事件を除くすべての犯罪捜査において顔認識システムの使用を禁止した。

 しかし、連邦議会では、民主党も共和党も公民権(civil rights)やプライバシー(privacy)への影響について懸念を表明しているにもかかわらず、顔認識システムの使用を制限する議論は停滞している。2019年の議会公聴会で、オハイオ州選出で強硬右派のジム・ジョーダン(Jim Jordan)下院議員は言った、「政治的な立場は関係なく、これは私たち全てが懸念すべきことだ。」と。しかし、議会では、顔認識システムを規制する法案はいまだに1つも可決されていない。その公聴会で証言したアメリカン大学ワシントン・カレッジ・オブ・ロー(the American University Washington College of Law)のアンドリュー・ガスリー・ファーガソン教授(Andrew Guthrie Ferguson)によれば、このテクノロジーに反対する人々は一時利用停止を何とか推し進めようと奮闘しているが、あまり支持は得られていないという。顔認識システムを提供している多くの企業は、利用停止を訴えている人たちの活動をむしろ歓迎している。皮肉なことであるが、彼らの活動がむしろ規制の成立を阻んでいる側面がある。「議会には、熟議の末に生み出された妥協案がいくつも提出されていたのです。なのに、このようなオール・オア・ナッシングのアプローチをする者がいたせいで、まったく議論が前に進まなかったのです。」と、ファーガソンは言った。

 アメリカには、法執行機関が顔認識システムを濫用する懸念より、犯罪に対する懸念の方が強いエリアもある。だから、顔認識システムの使用を特定の重罪に限定するものの、厳しく規制しつつ使用しているエリアもある。モンタナ州では、民主、共和両党が協力して顔認識システムの使用を特定の重大犯罪(serious crimes)に限定する法案を可決した。レイプや殺人などである(行方不明者や身元不明の死者の捜索時にも使用可)。顔認識システムで捜索を行うには、法執行機関は正当な理由を示し承認を得る必要がある。許可なくソーシャルメディアのアカウントから写真を収集しているクリアビューAIのような外部の企業に顔認識システムでの捜査を依頼する場合には、特別な許可が必要である。不適切な捜査に対する懸念を和らげるため、モンタナ州警察は公共の建物に監視カメラを設置することを禁じられている。

 人工知能の急速な進歩に詳しいソフトウェア開発者は、そのテクノロジーが向上し、アルゴリズムの精度が上がれば、このような規制は不要になると感じているかもしれない。ニューラル・ネットワーク研究者のジョナサン・フランクル(Jonathan Frankle)は、これに同意しない。「ChatGPTは、人々の生命と自由に関する決定を下すために訓練されているわけではない。」と、彼は言う。「顔認識システムがもたらすリスクははるかに大きい」。多くの研究によって、現在では、その危険性は特定のコミュニティのメンバーにとって特に顕著であることが判明している。サンディエゴの顔認識プログラムを調べたところ、警察が「現場で」犯罪容疑者の写真を撮り、それを顔認識システムのデータベースに入れて照合することを許可していたのだが、この方法では有色人種の顔がこのシステムに登録される可能性が1.5〜2.5倍高いことが判明した(2020年にこのプログラムは一時停止となったが、その後一時停止期限が切れた。議会は延長するか否かの岐路に立たされている) 。「既に疎外されているコミュニティのメンバーが標的になるだろう。」と、デトロイトで社会正義を追求している市民活動家タワナ・ペティ(Tawana Petty)は言う。2016年、デトロイト市警は、都心部のガソリンスタンドに監視カメラを設置する犯罪抑制活動「プロジェクト・グリーンライト(Project Green Light)」を開始した。この活動の謳い文句は、より安全になるということであった。しかし、設置されて以降、同市では少なくとも3人の黒人が不当に逮捕されている。その内の1つは直近のことで、妊娠8カ月のポーチャ・ウッドラフ(Porcha Woodruff)という女性だった。