トランプ関税はアメリカ経済を奈落の底に突き落とす!日本経済も大打撃?被害を受けない国は無い!!

The Financial Page

The Truth About Donald Trump’s “Liberation Day
ドナルド・トランプの「解放の日」の真実

The President’s one-man trade war was already hurting the economy. His expansive new tariffs will make things worse.
大統領の独断的な貿易戦争はすでにアメリカ経済に大打撃を与えている。彼の広範な新たな関税は事態をさらに悪化させるだろう。

By John Cassidy April 2, 2025

 金融市場とアメリカの主要貿易相手国の政府は何週間も前から 4 月 2 日(水)をヤキモキしながら待っていた。ドナルド・トランプはその日がアメリカにとって「解放の日( Liberation Day )」になると息巻いていた。大規模な関税が発表されると予想されていたが、おそらく彼の基準から見ても、関税率は衝撃的なほど高い。範囲も広い。「何十年もの間、アメリカは近い国からも遠い国からも略奪され、収奪され、凌辱され、強奪されてきた」と、トランプは水曜日( 4 月 2 日)にホワイトハウスで聴衆に向かって語りかけた。多くの全米自動車労働組合( United Auto Workers )の組合員や共和党選出議員が集まっていた。彼は、過去のアメリカ経済の変遷を簡潔に説明した。その際に、高関税が導入されていれば大恐慌( the Great Depression )は避けられただろうという頓珍漢な主張を繰り広げた。その後、中国からの輸入品に 34% 、日本に 24% 、欧州連合に 20% の「相互関税( reciprocal tariffs )」を課すと述べた。4 月 9 日に発効する。輸出主導型の経済成長を目指しているアジアの発展途上国には最も高い税率が設定される。ベトナム( Vietnam )は 46% 、ラオス( Laos )は 48% 、カンボジア( Cambodia )は 49% である。

 発表までの過程では混乱が見られた。トランプは以前から関税を課すことに強いこだわりを見せてきた。ところが、直近では矛盾するようなメッセージも発していた。新たな関税は「やや保守的( somewhat conservative )」なものになると示唆したこともあった。2 週間前には、中国や日本など対米貿易で大きな黒字を出している国だけが対象となると予測する報道も少なくなかった。関税の対象が比較的狭い範囲に落ち着くという予測が支配的であった。しかし、先週末には大統領選時に主張したような一律関税を再び検討していることが明らかになった。「何が起こっているのか誰にも分からない」とトランプの側近の 1 人は匿名を条件にポリティコ誌( Politico:アメリカの政治に特化したニュースメディア)に語っている。「何が関税の対象になるのか?どの国が対象で、関税率がいくらになるのか?誰も何も分からない。おそらく、基本的な項目さえ何も決まっていないのだろう」。

 最終的に、トランプは一律( all of the above )関税という選択肢を選んだ。新たな関税は、事実上すべての輸入品に 10% の関税を課し、各国の関税や非関税障壁を考慮し、国・地域別に税率が上乗せされる。彼の主張によれば、関税率はこれらの国がアメリカ製品に課す関税のおよそ半分の水準であるという。この算出方法の詳細はすぐには明らかにされなかった。確かにアメリカよりも高い関税を課している国は多いが、その差は彼が主張するほど大きくはない。特に彼が標的にしている同盟国の一部に関しては完全に認識を誤っている。「アメリカの貿易加重平均関税率は 2.2% である」とワシントン・ポスト紙( the Washington Post )のジェフ・スタイン( Jeff Stein )とデビッド・J・リンチ( David J. Lynch )は指摘する。「世界貿易機関( WTO )によれば、日本は 1.9% である。EU はアメリカよりわずかに高い 2.7% である」。

 トランプが水曜日( 4 月 2 日)に発表した関税は、すでに鉄鋼、アルミニウム、外国製の自動車と部品に課しているものとは別のものである。トランプは大統領 1 期目にも新たな関税を課した。関税率も上昇した。とはいえ、関税の対象範囲はかなり絞られていた。その一部はバイデン政権でも維持された。それが今回は劇的に拡大している。2016 年以前に支配的であった開放的な貿易環境は完全にとどめを刺された形である。格付機関のフィッチ・レーティングス( Fitch Ratings )のエコノミストのオル・ソノラ( Olu Sonola )によれば、アメリカの貿易加重平均関税率は約 22% となり、1910 年頃以来の水準であるという。「これはアメリカ経済だけでなく、世界経済にとってもゲームチェンジャー( game changer )である」とソノラは言う。「多くの国が景気後退局面入りするだろう」。

 トランプは、貿易政策に関して第 25 代大統領のウィリアム・マッキンリー( William McKinley )からインスピレーションを受けているという説がある。そう報じるメディアは少なくないし、私も以前に指摘している。閉鎖経済( autarky )、つまり自給自足型( self-sufficiency )の経済政策を追求したヒトラーのドイツこそが、トランプの真のロールモデルではないかという意見もある。関税と保護主義への愛着がどこで生まれたにせよ、彼のアプローチのパイオニアは 16 〜17 世紀のイギリスの重商主義思想家である。トランプと同じで、彼らも貿易を一方が勝ち、他方が負けるゼロサムゲームとみなしていた。「常に、他国に売る以上に他国から買うことがないように注意しなければならない。それは、自国を貧しくし、他国を豊かにすることと同義である」と 1550 年代に匿名のイギリス人作家が書いている。エリザベス 1 世( Queen Elizabeth I )の重臣であった貴族ウィリアム・セシル( William Cecil )はトランプとほとんど同じことを言っている。「イングランド王国が略奪されるのは、王国から出る商品よりも多くの商品が入る時だけである」と彼は断言した。

 貿易の決済に主として金や銀が使われていた時代には、多くの重商主義者が貿易を富( wealth )、つまり「財宝( treasure )」の蓄積という観点から考えていた。トランプは金ではなくドルで考えているが、その区別はほとんどない。水曜日( 4 月 2 日)に、カナダとの貿易に関して彼は根拠のない主張を繰り返した。アメリカはカナダに実質的に年間 2 千億ドル以上の補助金を出しているというものである。しかし、そもそも貿易支出は補助金ではないし、昨年のアメリカの物品およびサービスの対カナダ貿易赤字は 1 千億ドルを大きく下回っている。

 2001 年に中国が世界貿易機関( WTO )に加盟して以降、安価な中国製品がアメリカに流入し続けている。明らかになったのは、労働コストがはるかに低い国々との自由貿易が一部のコミュニティや産業に壊滅的な打撃を与えるということである。長い間、アメリカでは多くのエコノミストが、アダム・スミス( Adam Smith )の理論を信奉してきた。それは、貿易によってどの国も自国の天然資源や技術の有効活用が可能となるので、貿易は互恵的であるということである。しかしながら、そのデメリットは控えめに見積もれてきた。ちなみにスミスの後継者とされるデヴィッド・リカード( David Ricardo )が挙げた有名な例がある。イギリスがポルトガルに布地を輸出し、ポルトガルからワインを輸入したという。残念なことに、ここのところワシントンでは自由貿易は重視されていないようである。その対極にあるような政策がしばしば正当化され、実施されている。例えばバイデン政権は、中国の電気自動車に対する関税を 4 倍に引き上げた。また、アメリカ国内で電気自動車製造に投資する自動車メーカーに多額の補助金を支給した。

 トランプの関税は非常に幅広く、アメリカの長年の同盟国の多くに影響を与えるだろう。必然的に、このことが彼の最終目的についての憶測を生んでいる。ハーバード大学出身のエコノミストで、当時はヘッジファンドに勤務し、現在は大統領経済諮問委員会( CEA )の委員長を務めるスティーブン・ミラン( Stephen Miran )は、昨年の選挙直後に論文を発表している。その中で、トランプの関税政策とアメリカ第一外交ポリシーは対をなすものであると示唆している。アメリカの貿易赤字を削減することが目的であり、同時に、アメリカの軍事力の傘の下に入って応分の労力と費用を費やしていない多くの同盟国にツケを払わせることも目的であるという。

 ミランの予測によれば、トランプ関税は主に交渉の切り札として機能するという。トランプがしたいのは、関税をちらつかせて他国を脅迫し、ドルの切り下げを受け入れさせ、アメリカの輸出競争力を高めることである。その上、米国債の借り換えも行いたいようである。一部の海外の債権者(多数存在する)に保有する米国債を新しいタイプの長期国債、つまり非常に低利のクーポンが付いた 100 年債との交換を強制する可能性があると伝えられている。目的は、アメリカ政府がより安価に資金調達できるようにすることである。しかし、海外の債権者はこのような不利な取引を受け入れるだろうか。その部分をミランは詳細には説明していない。そのため推測でしかないのだが、多くの同盟国はアメリカ市場へのアクセスと軍事支援を維持したいわけで、選択の余地はないのかもしれない。ミランは、この新たな多国間通貨合意の枠組みを「マールアラーゴ合意( Mar-a-Lago Accord )」と呼んでいる。これは、1985 年にアメリカ、日本、ドイツ、フランス、イギリスが自発的なドル切り下げに合意した「プラザ合意( Plaza Accord )」に倣って名付けられたものである。フィナンシャル・タイムズ紙( the Financial Times )のマーティン・ウルフ( Martin Wolf )が指摘しているのは、トランプの提案が実現するか否かは現時点では見通せないわけだが、ヤクザのみかじめ料ビジネスと何ら変わらないということである。

 トランプは水曜日( 4 月 2 日)にはこのことには一切触れなかった。その代わりに、関税によって製造業が国内回帰し、雇用が創出され、新たな収入として巨額の資金がもたらされると主張した。しかし、関税を恒久的な収入源として当てにすることは、関税を貿易協定の交渉の際の切り札にする考えと矛盾する。もう 1 つ懸念することがある。マールアラーゴ合意に関してなのだが、連邦政府が個人投資家に保有している米国債の借り換えを真剣に提案したら、どうなるだろうか。25 兆ドルもあるのに。おそらく、米国債は暴落し、大規模な金融危機が引き起こされる可能性が高いであろう。

 トランプにとっての当面の政治的課題は、掲げた政策が長期的にアメリカ製造業を成長させる見込みがあるかどうかにかかわらず、短期的には共和党の 2 大構成要素に痛みがもたらされる可能性が高いことである。MAGA スローガンに共感している労働者階級と、共和党が伝統的に寄り添ってきた大企業である。

 トランプ支持者の中には、自分たちが働く産業やコミュティを守ろうとしている姿を見て引き続き彼を応援したいと考えている者が多いであろう。しかし、今後、彼らはアジアから輸入される衣類や電子機器からフランス産ワイン、アイリッシュ ウイスキー、米国内外で生産される自動車まで、あらゆるものに高い価格を支払うことになる。先週発表された外国製自動車と部品に対する 25% の関税は、木曜日( 4 月 3 日)から実施される。資産運用会社バーンスタイン( Bernstein )でアナリストを務めるダニエル・ロスカ( Daniel Roeska )の試算によれば、アメリカの自動車メーカーは海外製部品に依存しているため、関税の影響をモロに受けるという。販売台数 1 台当たり 6,700 ドルもコストが増える。

 「解放の日」までの数週間で S&P500 種株価指数は約 8% 下落していたのだが、水曜日( 4 月 3 日)の夕方にトランプが演説した後、ウォール街では先物価格が暴落した。彼が新たな関税を発表する前から、彼の独断的な関税施策がアメリカ経済や企業収益に及ぼす影響について懸念が高まっていた。消費者心理は急激に落ち込み、多くのレストランやバーでは客足が遠のいている。航空会社の予約も低迷している。今週初め、ゴールドマン・サックス( Goldman Sachs )は 2025 年の GDP 予想成長率を 1.0% に引き下げ、今後 12 カ月以内に景気後退局面入りする可能性を 33% とした。

 直近の景気動向を見て、各国が報復関税の準備を進めている兆候が見られることも考慮すると、多くのコノミストが間違いなく再び予測を下方修正するであろう。確かに、こうした景気予測は当てにならないことで有名であるが、大統領選でトランプ勝利が判明した時に歓喜したウォール街が信頼を失いつつあるのも事実である。解放の日に発表された関税政策は、多くの投資家や企業経営者を不安から解放することはなさそうである。その日にそれ以外の者たちが受け取ったメッセージは「財布の紐を締めろ」というものである。トランプは物価を下げるという公約を掲げて当選した。しかし、ついに物価を上げる措置を講じ始めたのである。♦

以上