深刻化する宇宙ごみ問題!スペースデブリ対策はどこまで進んでる?現状と今後の課題

6.2018年6月 サリー宇宙センター(英国)が宇宙空間でのデブリ除去実験実施。

2018年4月、スペースX社の ファルコン9がケープカナベラル基地から発射され、高度約480キロに到達した後、無人宇宙船ドラゴンを打ち上げました。ドラゴンはその後ISSに到達しました。ドラゴンは、大量の物資を運んでいました。HPのインクジェットプリンターや船外活動用機器などでしたが、最大の積荷は、90K以上の重さの発泡材でできた箱でした。その箱は、ISS内に運び込まれ、2ヶ月間保管されていました。NASAでは全ての荷物にラベルが貼られていますが、それにはありませんでした。太いサインペンで、「NanoRacks Remove Satt P / N:NR-MS-06」と書いてありました。ISSに搭乗していた宇宙飛行士たちにとって、箱の中身は謎でした。当時そこで勤務していたアメリカ人リッキー・アーノルドは、ヒューストンのジョンソン宇宙センターにその箱を作業台として使用して良いか尋ねました。すぐにダメだと返答されました。アーノルドは当時のことを思い出して私に言いました、「まるでクリスマスツリーの下に置いてあるプレゼントの箱のようでした。誰も中身が何かというのを知らなかったんです。」と。
 6月の第1週に、ジョンソン宇宙センターはISSの乗組員に、箱の中身を知らせました。それは無人の人工衛星でした。6月の後半にISSから打ち上げる予定となっていました。軌道に乗せた後、デブリを取り除く作業を試行する予定です。これまでデブリを除去するための多くの方法が提案されてきました。粘着質の素材を使う方法や気体を吹き付けて飛ばす方法等がありました。しかし、実際に宇宙空間で試して成功したものはありませんでした。
 NASAの宇宙飛行士ドリュー・フューステルは当時ISSにいましたが、デブリによる破損を実際に目にしていました。ISSの丸いユニットの窓に凹みがありましたし、太陽光パネルにも穴が空いていました。また、船外の手すりにもいくつかデブリが当たった跡が見られました。そのような手すりに出来た痕跡は非常に危険なものです。なぜなら、ギザギザしているので、船外活動時に宇宙服が引っ掛かって破れる可能性があるからです。そうした危険があったものの、フューステルはISSが周回している低高度においてはデブリと衝突する可能性は比較的低いことを認識していました。2009年、フューステルはハッブル宇宙望遠鏡を修理するスペースシャトルのミッションに参加していました。ハッブル宇宙望遠鏡はISSの約160キロ上空を周回していました。彼は、スペースシャトルからハッブル宇宙望遠鏡まで空中遊泳していきました。そこでハッブル宇宙望遠鏡の外装は月の表面のようにボコボコであることに気づきました。デブリが当たった痕跡によるものでした。中にはデブリが貫通して穴が開いているところもありました。彼は、宇宙船の部品を貫通するようなデブリは、宇宙服を着た人間も簡単に貫通するだろうと思いました。そうしたデブリの悩ましいところは、全く予想が出来ないということです。いつ、どこから飛んでくるのか、全く分かりません。
 発泡剤でできた箱はISSの中でも一番広い居住スぺースである日本の実験棟(略してJEM:Jpapanese Experiment Module)「きぼう」内で保管されていました。きぼうでは船外でも船内でもさまざまな実験をしていました。きぼうの円筒形のエア・ロック(気密式出入口)の近くで、2人の宇宙飛行士が箱を開梱しました。開梱はNanoracks社の指示に従って行われました。その会社は、宇宙空間におけるFedEx社のような存在で、荷物の運搬を全面的に担っていました。2人は、浮き上がらないように足を床に固定し、作業中は頑丈な手袋を着用しました。箱の中には、光沢のあるソーラーパネルで覆われた立方体の装置がありました。立方体の各辺には半透明の金色のテープが貼られていました。立方体の1つの面は開いていて、中に収まっている機器類が見えていました。
 2人は、それをスライドテーブルと呼ばれる台座に設置しました。その台座は、大きな荷物をエア・ロック(気密式出入口)から搬出入する時に使うものでレール上を動きます。その立方体が少しでもサイズが大きくなるとISSの出入口からは出せなくなります。サイズはISSにピッタリ合うように作られていました。フューステルは台座を動かし、箱に中にあった装置をエア・ロック(気密式出入口)から外に出しました。6月20日、2人はその装置を宇宙空間に放ちました。ISSに取り付けられている18メートルのロボットアームがそれを掴み、安全な距離のところで放しました。
 フューステルはヒューストンのジョンソン宇宙センターに、「小さな人工衛星を無事宇宙空間に放しました。この人工衛星の中からは何かアンテナとかが展開されるんでしょうか?」と尋ねました。
 ジョンソン宇宙センターからは、「OK。何も展開されません。しばらくそのままにしておいてください。」との返答がありました。
 非常にゆっくりと、小さな人工衛星はロボットアームから離れ始め、地球周回軌道を独自に周回し始めました。遠くに地球が遥か遠く青白い真珠のように輝いていました。アーノルドは居住モジュールに急いで戻ってそれが漂流するのを撮影しました。人工衛星が宇宙空間から撮影されることは結構珍しいことです。彼は撮影しながら、映画「スター・トレック」に出てくる四角い宇宙船のことを思い出しました。それはボーグと呼ばれるサイボーグの集団が乗っていたものでした。ボーグは「抵抗は無駄だ!」という有名なセリフを言ったので、覚えている人も少なくないでしょう。彼は、Instagramに撮った動画を投稿したいと思いました。しかし、ジョンソン宇宙センターから、著作権の関係で投稿は許可出来ないと言われました。