How a Family Toy Business Is Fighting Donald Trump’s Tariffs
家族経営のおもちゃ会社がトランプ関税に挑む闘い
Despite securing an important court victory against the Administration, the Illinois businessman Rick Woldenberg knows that his battle with the White House is far from over.
トランプ政権に対する重要な裁判で勝利を収めたにもかかわらず、イリノイ州の企業経営者リック・ウォルデンバーグは、ホワイトハウスとの戦いがまだ終わっていないことを認識している。
By John Cassidy June 9, 2025
リック・ウォルデンバーグ( Rick Woldenberg )は、シカゴのオヘア空港( O’Hare Airport )から北に約 20 マイル(約 32 キロ) のイリノイ州バーノンヒルズ( Vernon Hills )にあるオフィスと倉庫を兼ねる複合施設で、グローバル資本主義がどのように機能しているかを目の当たりにしている。いや、正確には過去にどのように機能していたかを目の当たりにしたと言うべきかもしれない。プリンストン大学で教育を受けた 65 歳のウォルデンバーグは起業家の家庭に育った。1960 年代に彼の父親は各種教材や算数キット等々の学習を支援するために設計された製品を学校に供給する会社を設立した。1980 年代には、彼の母親が関連会社を設立し、当初は同業他社にも製品を供給していた。その 2 社の現在の社名はラーニング・リソーシズ( Learning Resources )とハンド 2 マインド( Hand2mind ) であるが、500 人以上の従業員をかかえている。文字ブロックから組み立てキットまでさまざまな教材やコーディングロボットのクーパー( Cooper )を販売するまでの企業に成長した。
ウォルデンバーグは 1990 年にラーニング・リソーシズ( Learning Resources )に入社し、8 年後に最高経営責任者( CEO )に就任した。2019 年からは ハンド 2 マインド の経営も担っている。両社の製品はカリフォルニア州の 2 つの事業所で設計されている。バーノンヒルズ( Vernon Hills )とトーランス( Torrance )である。ほぼすべての製品がアジアで、主に中国( China )で製造されている。一部はオヘア空港経由で輸入されるが、大半は西海岸の港湾まで船便で輸送され、そこから鉄道でイリノイ州の倉庫に配送される。あるいは顧客に送られる。現在、両社の販売先にはスコラスティック( Scholastic )、ウォルマート( Walmart )、アマゾン( Amazan )などが名を連ねている。
創業当初、両社は玩具や学習教材の一部をアメリカ国内の工場で製造していた。しかし、1980 年代から 90 年代初頭にかけて、生産のほぼすべてを中国と台湾の工場に移した。現地の組立ラインの労働者の賃金はアメリカの労働者のほんの一部に過ぎなかった。「誰もが海外の低コストのメーカーに製品の製造を依頼していた。アメリカのメーカーはそれに太刀打ちできなかった」と、ウォルデンバーグは数週間前、オヘア・ヒルトン( O’Hare Hilton )でコーヒーを飲みながら私に語った。「当時、私たちは世界で最も競争の激しい消費者市場に身を置いていた。他に選択肢はないと思っていた」。彼によれば、生産拠点を海外に移したことで、製品デザイナー、営業、事務、倉庫作業員など、アメリカ国内でより多くの人材を雇用することができたという。「私たちが行ったことに罪悪感はなかった」と彼は言う。「私たちは 500 人以上の高給の雇用を創出し、私たちの製品は 100 カ国以上で販売されている」。ちなみに、市場調査会社サーカナ( Circana )によると、ラーニング・リソーシズはアメリカで 25 番目に大きな玩具会社である.
「解放記念日( Liberation Day )」と名付けた 4 月 2 日に、ドナルド・トランプ大統領は中国からの輸入品への関税を 145% に引き上げる一律関税( blanket tariffs )を発表した。ウォルデンバーグの会社は、他の多くの企業と同様にビジネスモデルを一変せざるを得なかった。関税は実質的に税金である。輸入業者はコストを自ら吸収するか、価格転嫁して消費者に負担させるかを選択できる。ウォルデンバーグは、新たな関税の支払いで自社の利益が吹き飛ぶことを即座に理解したという。私が彼に会う約 1 週間前のことだが、トランプ政権は両国間の交渉が行われている間、中国製品への関税を 90 日間だけ 30% に引き下げると発表した。ウォルデンバーグはこのニュースを歓迎した。しかし、商品がアメリカに到着する何カ月も前に製造オーダーを出さなければならない。彼のビジネスでは、トランプ関税政策が生み出した不確実性と混乱はほとんど緩和されなかった。「このような状況下で、どうやって事業計画を立てればよいのか」とウォルデンバーグは憤る。「費用がいくらになるのかさえ分からない。とても現実のこととは思えない。TV のリアリティショーに出ている気分だ」。
ウォルデンバーグは、トランプ関税に対する最初の対応として、新倉庫建設計画を一時停止した。次に、トランプ政権を訴えた。4 月 22 日、ラーニング・リソーシズとハンド 2 マインドの弁護代理人は、ワシントン DC の連邦裁判所に訴訟を起こした。訴訟では、トランプ政権の関税は「大統領の権限逸脱」であり、両社に「回復不能な損害( irreparably harming )」を与えていると主張した。訴状では、憲法上、大統領には議会の承認を得ずにこれらの関税を課す法的権限がないと述べ、ウォルデンバーグの事業から連邦政府が関税を徴収することを差し止めるよう裁判所に求めた。また、損害賠償も求めている。
この訴訟が提起されたのは、ハズブロ( Hasbro )やマテル( Mattel )といった大手玩具会社がホワイトハウスとの対立を恐れ、沈黙を貫いていた時期だった。だが、シカゴ大学ロースクールで法務博士号を取得し、企業法務事務所で勤務した後に家業に加わったウォルデンバーグは、以前にも同じ姿勢を貫いていた。トランプ政権の最初の任期中の 2017 年、彼は実質的な関税である「国境調整税( border-adjustment tax )」の導入提案に対する玩具業界の反対運動を主導した。共和党はトランプ政権からの圧力に屈する形で、この提案を大型減税法案に盛り込むことを検討していた(この提案は最終的には棚上げとなった)。トランプが議会を迂回し、大統領の意志で自由に関税を課す権利を主張する今、ウォルデンバーグはホワイトハウスと直に対峙している。「これまで私は両党を支持してきたし、自分には政治的主張はない」と、訴訟を決意した理由を説明した。「しかし、私たちには玩具業界の未来を守り、従業員を守る義務がある。これは伝統的な事業であり、私はそれに対する責任を感じている。トランプにそれを奪わせるつもりはない」。
諸外国が不公正な貿易慣行を行っている場合など、特定のケースにおいて大統領に関税を課す権限を与える貿易関連の法律がいくつか存在する。しかし、これらの法律は、トランプが 4 月 2 日に導入したような包括的関税は対象としていない。トランプ政権は関税の発表にあたり、1977 年の国際緊急経済権限法( the International Emergency Economic Powers Act:略号は IEEPA )という別の法律を根拠とした。この法律は、歴代大統領が国家安全保障上の危機の際に外国資産を凍結するために用いてきたものである。数週間前にワシントンで行われた法廷審問で、司法省の弁護士は、トランプ関税は国家安全保障上の問題であり、トランプ政権に不利な判決は「世界の舞台でのアメリカ大統領の立場を弱め、貿易問題での交渉能力を損ない、将来の国家緊急事態に対応する政府の能力を危険にさらす」と主張する。 また、連邦政府は、マンハッタンにある連邦国際貿易裁判所( the federal Court of International Trade:貿易関連訴訟が頻繁に扱われる)への移送も裁判所に要請した。5 月 29 日の判決で、ルドルフ・コントレラス( Rudolph Contreras )判事は政権側の主張を退け、ラーニング・リソーシズとハンド 2 マインドからの輸入関税の徴収の仮差し止め命令を出した。「本件は関税そのものを争うものではない」とコントレラス判事は記している。「争点は、 IEEPA がアメリカ大統領に、世界経済の秩序を再構築するために一方的に関税を課し、撤回、一時停止、復活、調整することを可能にするか否かである。当法廷は原告の主張に同意し、IEEPA はそのような権限を有しないと考える」。
一見すると、この判決はウォルデンバーグにとって画期的な勝利となった。ウォルデンバーグは妻と 3 人の成人した子供たちと共に公聴会に出席した。いずれも彼の会社で働いている。コントレラス判事の判決は、連邦裁判所がトランプ関税の一部を無効とした翌日に下された。5 月 28 日、国際貿易裁判所で 2 件の別々の訴訟を審理していた 3 人の判事からなる審理部は、4 月 2 日にトランプが発表した関税は「国際貿易促進法( IEEPA )によって大統領に与えられた権限を超えている」との判決を下していた。これらの訴訟は、それぞれ自由主義的主張が濃い法律家団体の支援を受けた中小企業 5 社と、民主党色の濃い州司法長官らによって提起されたものである。
両裁判所において不利な判決が出たことは、トランプ政権にとって法的に大きな痛手となった。しかし、これらの判決がトランプの関税政策に大きな変化をもたらすのかは不透明である。また、ウォルデンバーグの経営する企業や同様の苦境に立たされている他の企業に対する関税措置の永続的な救済につながるのか否かも、依然として不透明である。当初、コントレラス判事は当初、トランプ政権側に控訴期間を与えるため、執行を 14 日間延期した。先週、ワシントン DC 巡回控訴裁判所( the D.C. Circuit Court of Appeals )での控訴審手続きが進む間、差し止め命令の執行を停止した。一方、トランプ関税を差し止める国際貿易裁判所の命令は既に執行停止となっていた。判決の翌日、連邦巡回控訴裁判所は、さらなる法的論争を待つ間、この命令の執行を差し止めた。
少なくとも今のところ、トランプの解放記念日関税は依然として有効である。自動車・自動車部品への 25% 、鉄鋼・アルミニウムへの 50% の関税など、彼が課した他の関税も同様に有効である。医薬品や民間航空機など、他の製品にも高額な関税を課すという噂もある。トランプ政権は包括的関税を維持するため、様々な法的選択肢を検討していると主張している。その中には、一部の経済史家が大恐慌( the Great Depression )を悪化させた原因だと非難する悪名高い 1930 年のスムート・ホーリー関税法( Smoot-Hawley Tariff Act of 1930 )の発動も含まれる可能性がある。同法の条項の 1 つに基づくと、理論上トランプはアメリカ製品に不利な状況をもたらしていると判断した国からの品目に対し、最大 50% の関税を課すことができる。先週、ハワード・ラトニック( Howard Lutnick )商務長官は「安心してください。関税がなくなることはない」と宣言した。
ウォルデンバーグのコントレラス判事の最初の判決に対する当初の反応は歓喜に満ちていた。「こんな勝利は夢にも思っていなかった」と、先週電話で語った。しかし、彼の祝賀ムードは薄れた。彼の会社が直面している関税がトランプ政権の控訴によって保留されたままだからである。「判決によって私たちのビジネスに何の変化も無かった」と彼は言う。現在、彼は 8 月 12 日までに中国からの荷物をアメリカの税関に通させるために大わらわである。この日はトランプの解放記念日関税の 90 日間の引き下げ期限が切れる日である。その後はどうなるかは未定だとウォルデンバーグは語る。
ウォルデンバーグの事業において、関税の対象外となるものもある。それらは金額的に見ると規模はそれほど大きくないが重要な商品である。教材などである。彼は、これらの事業は通常通り続けると言う。また、関税が 145% に戻れば利益が出なくなるが、関税対象となる商品もいくつか発注するというリスクをとっている。さらに先々を見据えて、ベトナムやインドの工場への発注も検討している。これらの国がどのような関税に直面するかは現時点では正確にはわからないが、最終的には中国工場よりも低い関税が適用される可能性がある。彼に、生産の一部をアメリカに移管できないかと尋ねたが、現実的な選択肢ではないとの答えが返ってきた。彼の主張によれば、アメリカ国内の工場には、彼が求める商品を、競争力のある価格と確固たる品質で製造する能力が備わっていない。
今のところ、トランプの追加関税は依然として有効で、ウォルデンバーグの経営する 2 社のコストを押し上げており、両社とも値上げを始めている。「値上げはしたくないが、不可抗力である」と彼は述べる。「これらの税金を支払うための資金を調達する必要がある。価格転嫁は避けられない」。ウォルデンバーグの訴訟が控訴裁判所に進むにつれ、弁護士費用も膨らんでいる。ワシントンに本拠を置く多国籍法務事務所のエイキン・ガンプ・シュトラウス・ハウアー・アンド・フェルド( Akin, Gump, Strauss, Hauer & Feld )等に支払う弁護士費用は安くはない。彼は、関税撤廃を望む他の人たちからの支援を受けていることを認めたが、「資金提供者がたくさんいるわけではない」と述べる。さらに、「私はいかなる政治団体にも関わっていない。凝り固まった政治信条を持つ者からの資金は受け取っていない」と付け加えた。
ウォルデンバーグと初めて話をした際、彼は関税訴訟の少なくとも 1 件は最終的に最高裁まで持ち込まれるだろうと予測し、最高裁は重大な決断を迫られるだろうと述べた。「この訴訟ではアメリカが君主制( monarchy )であるか否かが問われている」。先週も話した際に彼が言ったのだが、数週間以内に連邦控訴裁判所が、彼の会社に対するトランプ関税が訴訟の解決まで維持されるか否かを決定する見通しである。最終判決にはさらに 6~9 カ月かかる可能性があるという。訴訟とそれをめぐるメディア報道への対応で彼は忙殺されている。ここ数週間で、彼は CBSニュース、CNN、CNBC、MSNBC に加え、シカゴのローカルテレビにも出演している。彼の知名度が上がったせいで、彼や彼の家族や彼の会社がトランプ政権支持者の非難の的となる可能性さえある。決して居心地の良い立場ではないわけだが、それでも彼は戦う気満々である。「全力で、最後までやる( All in, all the way )」と彼は言った。♦
以上
- 1
- 2