暗号資産爆騰中!ブームはどこまで続く?トランプ政権下で無限に膨らむのか?どこかで破裂する?

The Financial Page

How Long Will the Trump Crypto Boom Last?
トランプ政権で暗号資産ブームはいつまで続くのか?

As a pro-crypto Administration prepares to take power and crypto investors cheer, there are some parallels with the dot-com boom of the late nineties.
暗号資産に賛成する政権が政権移行の準備を整え、暗号資産投資家が歓喜している。1990 年代後半のドットコムブームとの類似点がいくつもある。

By John Cassidy December 9, 2024

 先週、ドナルド・トランプが証券取引委員会( SEC )のトップに暗号資産擁護派のポール・アトキンス( Paul Atkins )を指名すると発表した。それを受けて、ビットコインの価格は 10 万ドルを突破し、多くの暗号資産愛好家は祝杯をあげた。暗号資産市場の雰囲気は、私が 20 年以上前に本にまとめたドットコム・ブーム( dot-com boom )とその後の崩壊を彷彿とさせるものである。当時と同じような陶酔感が広がりつつあり、価格はまだまだ上がると予測する向きが多い。私も含めて長年の市場参加者やオブザーバーの中には一抹の不安を感じている者が少なくない。

 確かに、暗号投資家、暗号資産関連起業家、そして 11 月の選挙を前に暗号資産推進派の政治家に数億ドルを寄付した暗号資産推進派の献金者にとっては、興奮する理由が十分にあった。トランプの勝利と、オハイオ州の民主党上院議員シェロッド・ブラウン( Sherrod Brown )を含む著名な暗号資産懐疑論者の敗北に投資した賭けでは既に勝利している。SEC はアメリカを代表する投資家保護機関である。ジョー・バイデン大統領が2021 年に委員長に指名したゲーリー・ゲンスラー( Gary Gensler )の指揮の下、SEC はゲンスラーが詐欺や詐欺が横行していると評する業界に対して積極的なアプローチをとっていた。SECは、暗号資産取引所のコインベースやデジタル決済ネットワークのリップルなど多数の暗号資産関連企業に対して訴訟を起こした。

 しかし、ジョージ・W・ブッシュ政権時代に SEC 委員を務め、現在は仮想通貨の基礎技術ブロックチェーンの活用を推進する組織トークン・アライアンス( Token Alliance )の共同議長を務める保守派弁護士のアトキンスの下で、SEC が現在行っている訴訟やその他の案件はおそらく保留されるだろう。そして、SEC は通貨やトークンなどの暗号資産の発行者に対して、より友好的なスタンスを採用する可能性が高い。そうした状況は暗号資産業界に批評的な立場の者たちが憂慮するものである。「暗号資産業界において何十年にもわたって投資家を守ってきた基本的なルールが大幅に緩和される。暗号資産業界はほとんど何の規制も無い状態となる。どこかの機関に監督されることもなく拡大することとなる」と、ワシントン拠点でアメリカ金融市場に厳格な規制を求めている NPO のベター・マーケット( Better Markets )代表のデニス・ケレハー( Densin Kelleher )は私に語った。「 1920 年代の ケイビット・エンプター( caveat emptor:買い手のみが売買の危険を背負う状態)のような状態になるだろう」。暗号資産業界の関係者は、アトキンスの人選を画期的なものとして歓迎した。「我々はパラダイムシフトを目の当たりにしている」と、暗号資産関連企業ギャラクシー・デジタル( Galaxy Digital )の創設者兼 CEO のマイケル・ノヴォグラッツ( Michael Novogratz )はロイター( Reuters )に語った。「ビットコインとデジタル資産エコシステム全体が金融界の主流に加わろうとしている」。

 1990年 代後半、ドットコムブームを支えた大きなパラダイムシフトは e コマース企業の台頭であった。Amazon 、eBay 、Pets.com 、Webvan など、ナスダック( Nasdaq )で株式を上場するスタートアップ企業が続出した。ビットコイン、イーロン・マスクが宣伝している暗号資産ドッジコイン( Dogecoin )、トランプ一族が興したばかりのベンチャー企業ワールド・リバティ・フィナンシャル( World Liberty Financial )が発行する暗号通貨トークンなどの投機的なデジタル資産関連企業を、1990 年代のスタートアップ企業と直接比較することはできない。当時のスタートアップ企業には、たとえその多くが価値を失ったとしても、いつかは大きな利益を生み出す可能性があったからである。ちなみにAmazon は現在、約 2 兆 4,000 億ドルの価値がある。一方、迅速な宅配を約束したオンライン食料品チェーンの Webvan は、1999 年に IPO で 3 億 7,500 万ドルを調達したが、2001 年に破産を申請した。

 投機の対象が当時と今回とは違うわけだが、私はドットコムバブルの時に認識したことがある。それは、大規模な投機ブームが発生する際には、4 つの要素が必要ということである。それは、投資家を興奮させる新しい技術、投資家がコミュニケーションに使用できる効率的な方法、金融業界の積極的な関与、支援的な財政政策環境である。(訳者注:ドットコムバブルとは、1999年から2000年にかけ、当時普及が進みつつあったインターネット関連企業の将来性を期待して、アメリカで通信や IT 関連企業の株価が急騰した。多くの企業が利益の裏付けがなく、事業展開に失敗して破綻したり、不正会計が発覚したりして株式市場崩壊のきっかけになった。インターネットバブルともいわれる。2001 年には完全に弾けた。)

 暗号資産に関しては、ビットコインとブロックチェーン(安全で分散化されたデジタル台帳)の発明、そしてソーシャルメディアの隆盛が最初の 2 つの要件を満たすが、ウォール街と政策立案者はこのセクターに対して疑念を抱いたままだった。この 2 つの要因は、暗号資産への投資を少数派の追求にとどめるのに十分だった。直近の暗号資産市場バスト( crypto bust:暗号資産市場の急激な縮小 )は 2022 年~ 23 年にかけて発生しているが、ビットコインの価格が 70% 以上下落し、サム・バンクマン・フリード( Sam Bankman-Fried )が経営する FTX を含むいくつかの大手暗号資産関連企業が倒産した。幅広い株式市場とアメリカ経済は無傷で生き残った。

 トランプ大統領の当選によって、先述の 4 つの要素がすべて整い、より多くの人々を引き込む広範なバブルの基盤が整ったように見える。ブロックチェーン技術はまだ開発途上にある。その推進者たちの主張によれば、銀行システムを根底から覆すとか、国際決済システムに革命を起こすとか、その他の変革をもたらすという。イーロン・マスクが経営する X が提供するソーシャル・プラットフォームによって、多くの暗号資産愛好家が暗号資産を宣伝したり、疑念を持つ人々を非難したりすることができる。しかし、暗号資産市場の過熱にとって最も重要な要素は、連邦政府の経済政策とウォール街が暗号資産業界と足並みを揃えるようになることである。

 アトキンスが委員長に就任したら、おそらく SEC は暗号資産が株式や債券のような有価証券であるか否かというこれまでの核心的な法的問題についての立場を変えるだろう。それらは、1933 年制定の連邦証券法の全面的な適用を受けているが、金や銀のようなコモディティ( commoditiy:商品)として扱われるようになるだろう。それらは識別や評価が容易な均一な商品とみなされることもあり、規制が非常に緩い。金の延べ棒を買う者は、何を買うかを十分に認識できるからである。ゲンスラーの在任中、SEC は多くの暗号資産が証券に該当し、その発行者は広範な登録および開示義務に直面すると主張した。また、コインベースが未登録の証券取引所を運営しているとして提訴し、リップル( Ripple )が独自の仮想通貨 XRP の販売において未登録証券を提供して資金を得ることを企てたとして提訴した。両社とも容疑を否認し争う姿勢を示した。今年初め、連邦地裁判事はコインベースに対する提訴の大部分を進めることができるとの判断を下した。これは SEC の勝利として広く認識された。しかし、リップルの提訴は、同社が電子取引所で個人投資家に XRP を販売したことは証券法に違反していないという判断で終わった。リップルはこれを重大な勝利として歓迎した。

 国際的な法律事務所であるウィルマーヘイル( WilmerHale )は、最近のクライアントアラート( client alert:各分野の最新のリーガルニュースを分かりやすくまとめ、月1回法律事務所が送る)で、第二次トランプ政権下で SEC が「暗号資産と伝統的な証券との違いを考慮したオーダーメイドのルールを提案する可能性がある 」と述べている。これこそ暗号資産業界が望んでいることである。一方、連邦議会では、共和党が予算と執行部門が SEC よりはるかに小さい商品先物取引委員会( CFTC )の範囲を拡大することによって、少なくとも部分的には多くの暗号資産発行業者( crypto issuer )が SEC の監督を免れることを可能にする法案を可決する可能性がある。今年初め、下院で共和党が提案したある法案が可決された。この法案は、デジタル資産が依拠するブロックチェーンが分散型である限り、CFTC にデジタル資産を商品として規制する権限を与えるというものである。ゲンスラーはこの法案に異議を唱え、投資家保護を弱め、暗号資産発行者が自社の製品が証券ではなくデジタル商品であることを自己証明できるようになるとの懸念を表明した。上院の主導権も共和党が握ったことから、同様の法案が上院で提案され、大統領の机に向かうかもしれない。

 まもなく暗号資産推進最高責任者( Crypto Booster-in-Chief )となる人物は、すでにアメリカを「地球上の暗号資産の首都( crypto capital of the planet ) 」にすると約束している。暗号資産愛好家たちは、トランプが「戦略的国家ビットコイン備蓄( strategic national Bitcoin stockpile )」を創設するという大統領選公約を果たすことを期待している。先週、彼らをさらに勇気づけることがあった。イーロン・マスク同様にペイパルマフィア( PayPal Mafia )の一員であるベンチャーキャピタリストのデイビッド・サックス( David Sacks )が「ホワイトハウスの AI と暗号資産の皇帝 ( White House A.I. and Crypto Czar )」に指名された。

 理論的には、連邦準備制度理事会( FRB )は財務レバレッジ( financial leverage:企業全体の資本に対する負債の割合 )を制限するか、金利を引き上げるか、あるいはその両方を行うことで、暗号資産のブームに水を差すことができる。しかし、投機熱が高まり、資産価格が高騰している時には、そのような方策をとることは不人気である。1990 年代後半に当時の FRB 議長アラン・グリーンスパン( Alan Greenspan )は、当初「根拠なき熱狂( irrational exuberance )」に警告を発した後、傍観したことでナスダック( Nasdaq )の暴騰を許した。ちなみに 1998 年 1 月から 2000 年 3 月にかけてハイテク株価指数は 3 倍上昇した。現時点では、FRB が介入して仮想通貨をデフレに陥れる可能性は低いようである。金利を上げるのではなく、下げる方向で動いている。先週、ジェローム・パウエル( Jerome Powell )議長がビットコインを投機資産とし、金に例えつつも支払い手段として使われず、非常に変動性が高いと述べた。金に例えた点は多くの仮想通貨推進者が主張してきたことである。

 結局のところ、ウォール街は暗号資産を受け入れつつある。2023 年に重要な裁判で敗訴したことを受けて、今年初めに SEC はビットコインの上場投資信託( ETF )を承認した。これは仮想通貨の価値を追跡しやすくするものであり、個人投資家は暗号資産に投資しやすくなる。ブラックロック( BlackRock )、フィデリティ( Fidelity )、フランクリン・テンプルトン( Franklin Templeton )は、すでにこれらの商品を提供している大手金融機関の一部であり、チャールズ・シュワブ( Charles Schwab )にいたっては「仮想通貨テーマ別 ETF ( Crypto Thematic ETF )」を提供している。大統領選以降、ビットコイン ETF の価値はおよそ 45% も跳ね上がった。これは、他の金融機関が同様の商品を発売する後押しとなるに違いない。

 これらのことを総合すれば、暗号資産が値上がりしているのも、規制当局が神経質になっているのも驚くことではない。コーネル大学( Cornell University )エコノミストで「 The Future of Money:The Future of Money: How the Digital Revolution Is Transforming Currencies and Finance (邦訳:ザ・フューチャー・オブ・マネー ~デジタル革命は通貨と金融をどう変えるのか? )」の著者であるエスワール・プラサド( Eswar Prasad )は、最近の動向は、暗号資産が極めて不安定で投機的な投資ではなく、安全な投資であるという印象を多くの一般アメリカ人に与えかねないと懸念している。「連邦政府はあらゆる暗号資産を承認し、暗号資産を資産クラスとして暗黙のうちに承認しようとしているようである」とプラサドは言う。「それは暗号資産バブルを大きく膨らませる可能性がある。そして、バブルを突き破るような何かが起これば、悲惨な結果になる可能性が高い」。

 どれほど悲惨な状況に陥るのか?それは、暗号資産が金融システムの他の部分とどの程度相互接続されるかにかかっている。ドットコムバブルでは何百ものスタートアップ企業と多くの大企業の株式が暴落した。2000 年にドットコムバブルが崩壊した後、多くのスタートアップ企業が倒産し、ナスダックは 70% 以上暴落した。アメリカ経済は比較的穏やかな不況に陥ったものの、それは 1 年も続かなかった。2000 年代後半の不動産バブル( real-estate bubble )の崩壊はより悲惨な影響をもたらした。銀行システムがサブプライムローン資産に大きく依存していたことが判明したためである。サブプライム・ローンの価値が霧散すると、金融システム全体がほぼ崩壊し、アメリカ経済は 1930 年代以来最悪の不況に陥った。

 これまで連邦銀行規制当局は、銀行に暗号資産業界への対応に慎重なアプローチを取るよう奨励した。何とかして暗号資産をバランスシート上に保有することを控えさせようとした。暗号資産を独自の世界に閉じ込めようと懸命だったのである。「軽減も制御もできない仮想資産セクター関連のリスクが銀行システムに波及しないようにすることが重要である」と、FRB 、連邦預金保険公社( Federal Deposit Insurance Corporation )、通貨監督庁( Office of the Comptroller of the Currency )が、昨年の共同声明で述べている。先週出したコメントで FRB 議長パウエルは、FRB の目標を改めて強調した。暗号資産と銀行のいかなる取引も銀行システムを脅かすことのないようにするという。

 しかし、デニス・ケレハーは、この数年を振り返るとまったく安心できる状況にないことを思い出させてくれた。金利の急上昇と重なった 2022 年から 2023 年にかけての暗号資産バブルの崩壊の際には、暗号資産業界と関係のある 3 行が破綻した。シルバーゲート(  Silvergate )、シリコンバレー( Silicon Valley )、シグネチャー( Signature )である。ケレハーは、トランプがより自由放任主義的なアプローチで各銀行規制当局の責任者を任命すると予測する。「暗号資産が水のように金融システムの裂け目に流れ込むのを目にすることになるだろう。…第 2 次トランプ政権の誕生により、次の金融危機の時計が動き始めた」と彼は言った。

 全面的な金融破綻は最悪のシナリオだが、私が 1990 年代に学んだことの 1 つは、大規模な投機は独り歩きする傾向があるということである。そしてプラサドが指摘したように、新たな暗号資産バブルはトランプのお墨付きを得てますます膨らむだろう。このエコノミストに私は歴史的な比喩を思いつくか尋ねてみた。中国政府が国民に不動産投資を奨励していることが似ているという。中国を研究する人なら誰でも知っているが、これも良い結果にはならなかった。♦

以上