Elements
How Safe Are Nuclear Power Plants?
原子力発電所って安全なの?
A new history reveals that federal regulators consistently assured Americans that the risks of a massive accident were “vanishingly small”—even when they knew they had insufficient evidence to prove it.
連邦政府の規制当局は、一貫して、原子力発電所の重大な事故のリスクは「限りなく小さい」という主張を続けてきました。しかし、規制当局は、それを裏付ける十分な証拠が無いことを認識していました。
By Daniel Ford August 13, 2022
1.
記録を正しく残すということは、官僚制度の基本的なルールです。また、政府機関では日常的に丸秘事項は秘匿され、恥部は徹底的に隠蔽されます。そうしたことが当たり前のように行われているのではないでしょうか。アメリカでは、そうした政府機関の部外者であっても、情報公開法という法的な手段を行使して事実をほじくり出そうとすることができます。とはいえ、それができるのは、実際には活動家やジャーナリストのような資力と根気のある者だけです。しかし、政府の秘密を調べたり、自由に閲覧したりするもっと簡単な方法が存在しています。それは、政府公式歴史家(official government historian)に任命されることです。アメリカの連邦政府機関には、それなりの給与と待遇を受けて働いている公式歴史家が何十人もいます。彼らの仕事は、ある機関がその使命をいかに上手く、あるいは拙く遂行したかを判断するために、学術的な視点から生の証拠書類を徹底的にふるいにかけて調べ上げることです。そうして公式歴史家がふるいにかけた書類は、通常、書類に記述された出来事が起こったずっと後に、分割して公表されるため、政府機関はそれほど公式歴史家のする仕事を気にかけていません。政府機関は、準独立の立場である公式歴史家に書類等を自由に覗き見することを許可し、書類がタイムリーに公表されるようにするべきだと思います。そうすれば、各政府機関は都合の悪い情報を自ら公開するようになるのではないでしょうか。
セントラルワシントン大学の教授だったトーマス・ウェロックは、10年以上前にアメリカ原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)の公式歴史家に就任しました。彼は、工学を学んだこともあり、原子炉のテストに携わった経験もあり、バークレーで歴史学の博士号を取得していました。ですので、その任務に適任の人物でした。2021年3月に、同委員会とその前身であるアメリカ原子力委員会(AEC:US Atomic Energy Commission)が民間の原子力発電をいかに規制してきたかについて本を出しました。その件に関する本はそれまでも出されていて、6番目のものでした。その本の背表紙には「安全は揺るぎないものか?原子力発電と根底にあるリスクの評価」と記されていました。1940年代以降、連邦政府が原子力発電の安全性にどのように向き合ってきたかが、率直に綴られていました。原子力委員会(AEC)の内部関係者で技術的に詳しい者の多くは、「壊滅的な事故(catastrophic accidents)」が起こりうる可能性があることを認識していました。その上で、「その発生頻度はどの程度か」ということが重要だと認識していました。ウェロックの本によれば、多くの関係者が重大な事故の可能性は非常に低いと考えていたのですが、誰もその低さを明確に示せる者はいなかったし、科学的に証明することもできなかったそうです。彼が記していたのですが、当時はたくさんの原発が建設中でしたが、事故が起こる可能性を示すために関係者が使った数字は、「専門家の当て推量か辻褄の合わない適当な計算」によるものだったそうです。原発の危険性をはじき出す際に、そのような「当て推量」を元に計算することは、原子力規制委員会(NRC)の承認委員会は認めていませんでした。そこは、アメリカの個々の原発が運転の承認を受けるに足る安全性を備えているかどうかを判断する法的責任を負っていました。一般市民も、そんな適当な計算をしていると知ったら許さないでしょう。
米国の原子力発電所建設計画は数十年前に破綻しました。その原因の 1 つは慢性的なコスト超過が原因の 1 つです。しかし、米国ではまだ 92 基の老朽化した原子炉が稼働しており、多くの公益事業会社は元々 40 年間だったライセンスをさらに 20 年間延長したいと考えています。世界中で400基以上の原子炉が稼働していますが、そのほとんどは1960年代や70年代に米国で設計されたもの、あるいはそれに類似したものです。それらは、容易に修正できない欠陥があることが分かっています。例えば、2011年にメルトダウンを起こした日本の福島第一原発の原子炉は、ゼネラル・エレクトリック社(以下GEと表記)によって設計されたものです。米国では現在、同じGE社の基本設計による原子炉が31基運転しています。ウェロックは、主要な人口密集地の風下で稼働している多くの原子力発電所に関する潜在的な危険性を説明をしている内部資料を開示していました。GE等のアメリカ企業が設計した原子炉を稼働させている海外の発電事業者の中には、彼の本を読んで、憤っているところも多いのではないでしょうか。きっと、ふざけるな、GEは返金に応じるべきだと思っているのではないでしょうか。
近年、気候変動の緩和が重要視されるようになりました。それで、エネルギー政策の専門家の中には、原子力発電所を再び建設していくべきだという意見も出ています。あるいは、少なくとも連邦政府が安全性と性能に優れた新しいタイプの原子炉の開発を支援すべきだという意見も出ています。放射性廃棄物の長期処分の問題が解決されれば、原理的には、原子力発電は非常に魅力的な技術です。私は、原子炉の安全性についてかなり調べました。MITの物理学者でノーベル賞も受賞した故ヘンリー・ケンドールの共著論文やたくさんの論文を読みました。私が気付いたのは、原子力発電がクリーンエネルギーとして貢献できる可能性が損なわれたのは、原子力発電事業者自体に原因があったということです。事業者が安全を担保しなければならないのに、コスト削減を優先し妥協をしてしまったことが問題だったのです。また、原発の日々の稼働に対する連邦政府の緩い規制も問題でした。実は、私の名前は、ウェロックの本にも出てきます。というのは、私は1972年から1979年まで「憂慮する科学者同盟(the Union of Concerned Scientists)」の事務局長を務めたことがあるからです。ウェルロックは、その団体は原子力発電に対して最も効果的な批判をした団体であると指摘していました。ウェロックの本を読むと、連邦政府が原子力政策に関して何を間違えたかが見えてきます。非常に示唆に富んでいます。バイデン政権が原子力発電所建設に舵を切ろうとしているのであれば、過去の原子力政策のどういった部分を正す必要があるのかを考えるべきで、その際に役に立つでしょう。また、ウェルロックは本の中で、原子力発電を復活させることが本当に望ましいことか熟慮すべきだと論じています。というのは、太陽や風を利用する技術が存在しているからです。しかも、それらにはそもそも解決が困難な安全性の問題を引き起こさないのです。