5.まだまだ人間の頭の中の研究は進んでいない
人間の思考方法は、とても神秘的です。分からないことだらけです。私は、私の母が父に聞いていたように、しばしば妻に「何を考えているの?」と聞くことがあります。その問いに答えるのは、一見、簡単に思えます。というのは、私と妻はいつも一緒に家にいて一日中喋ったりしていて、お互いが考えていることを共有できているからです。しかし、それは表面的なことにすぎないのかもしれません。頭の中の奥の方で考えていることを説明するのは簡単なことではありません。なぜならば、自分の頭の中で考えていることを説明しようとすると、それ自体が変わってしまうからです。頭の中で思考していることを表現するためには、まだまだ脳や精神や神経の機能の研究が不十分です。だからこそ、他者とのコミュニケーションは難しくもあり、興味深いのかもしれません。また、人間の頭の中の思考の仕方を知ることも非常に難しいのです。それができるようになるまでには、まだまだ気の遠くなるような作業が必要でしょう。
現時点では頭の中でどのように考えているかを正確に説明できないわけですが、どこまで頭の中で思考する仕組みの解明は進んでいるのでしょうか。”The Self as a Center of Narrative Gravity(未邦訳:「物語的重力の中心しての意識」の意?)”というタイトルの論文で、哲学者のダニエル・デネット(Daniel Dennett)は、人間の脳の中には想像する能力が埋め込まれていると主張しました。ある意味で、想像することには欠陥があります。それは真実や事実では無いということです。しかし、小説を読む時、それは事実ではなく、すべてでっち上げでありナンセンスだと言って、嫌悪感を持ってそれを地面に投げ捨てることはありません。誰もが、小説は想像で作り上げたものであるが、意義の有るものだと理解しています。デネットが主張したのは、想像には事実や現実とは違って、曖昧な部分が残るということでした。人間が頭の中で考えていることも想像なわけで、曖昧な部分が残っています。人間が頭の中で思考する際には、さまざまな仕方で思考しているわけです。時と場合によって、異なる仕方で思考しているのです。それで、夢についてお互いに話したり、考えていることを思い出したりするわけです。さてさて、人間が頭の中で思い浮かべたり思考していることは、想像したものなのでしょうか?それとも、事実なのでしょうか?それらは、とても難問で、まだ完全には解明されていません。頭の中の思考の仕方については、まだほんの一部しか解明されていないのです。
頭の中で思考するということは、想像でしかないわけですが、それでも非常に重要なことです。頭の中でどのように思考しているかを尋ねると、様々な答えが返ってきます。おそらく、思考の仕方は、いくつもあるのでしょう。自分が頭の中でどのように思考するかを知ることは、とても有益なことです。それは、自分の思考が不安定になった時にも、自分の心を把握することになるので役立ちます。先日、私はある問題に苦しめられ行き詰まりました。そこで、じっくり考えようと思い、泳ぎに行きました。水が冷たかったので、ウェットスーツを着て泳ぎました。最初は冷たさを感じるばかりでしたが、次第に呼吸を整えることに集中しました。でも、そのうち体が温まってきて、リラックスしてきました。岸から少し離れたところで波をかぶりながら、苦しみの元である問題を考える準備をし、それから、近くに浮かんでいる1羽の海鳥を眺めながら、問題に意識を向けてみました。しばらくは特に何も起こりませんでした。私の視界に入るのは、先ほどの海鳥、たなびく雲、波打つ海面だけでした。その時、私は自分の頭の中に問題の対処法が思い浮かんだような気がしました。問題の解決策は元々私の頭の中にあったのかもしれません。私が咳払いをすると、海鳥は飛び去りました。♦
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