2.デルタ株がオミクロン株と置き換わっても、脆弱性の高いとされる者が変わるわけではない
脆弱性がどういった人たちにあるのかを判断するのは、もっぱら医療関係者の仕事です。医療関係者は、脆弱性があるのはどういった人たちで、どのように対処すべきかを簡潔に言い現わさなければなりません。脆弱性がある人を簡潔に言うと、高齢者で既往症がある人ということになります。誰に脆弱性があるかを明確にする本当の目的は、リスクがある者をリスク度別にカテゴリー分けする、つまりリスク層別化することです。例えば、35歳で既往症の無い健康な男性が胸痛で来院した場合はどうでしょうか?普通の医師であれば心臓発作ではなく、筋肉痛だと思うでしょう。では、最近心臓にステントを2本入れた65歳の女性が同じように胸痛で来院したら?当然、心臓発作が疑われるでしょう。しかし、診察してさまざまな事実が判明し、そうした推定が役に立たなくなることもあります。35歳の男性は心臓病の家系であるかもしれないし、65歳の女性はハーフマラソンを完走したばかりであったりします。そうした例外は確かに起こりえます。それでも、総体的に、確率論的に言うと、やはり高齢者や既往症のある者には脆弱性があるということはあながち間違いではないのです。
オミクロン株はデルタ株(オリジナルのウイルスの2倍の感染力と推測される)の少なくとも2倍の感染力があると考えられています。また、既に新型コロナに感染した人を再感染させる能力が3倍以上と推測されています。しかし、ウイルスの感染力が変わろうと、先述のリスクの層別化が変わるわけではありません。アルファ株やデルタ株に対して最も脆弱だった人たちは、新しい変異株に対しても変わらず最も脆弱であることに変わりはないのです。もちろん例外もあるでしょう。脆弱性が無いと思われる若くてワクチン接種済みの者がI.C.U.に入ることもありますし、高齢の喫煙者が感染しても鼻づまり以外の症状が出ないことだってあります。しかし、現在巷に流布している、高齢者や既往症のある者は新型コロナに対して脆弱性が高いという通説は、それなりに信頼のおけるものなのです。
デルタ株がオミクロン株に取って代わられても、脆弱性が高い人が変わるわけではありません。脆弱性が高い1つめの集団は、ワクチン非接種者です。彼らはワクチンを摂取することで脆弱性を確実に排除することができます。直近の分析によれば、デルタ株が感染拡大してからオミクロン株感染が始まる前に該当する6月〜9月の間の新型コロナ感染者が入院した率を分析したのですが、結果として分かったのは、入院患者の85%はワクチン未接種であるということでした。オミクロン株の感染では、この状況はどう変わるのでしょうか?確定的なことを言うのは時期尚早ですが、オミクロン株がデルタに取って代わり始めたことで、状況が大きく変わりつつあります。現時点での推定ですが、オミクロン株に対して以前と同様の防御力を保持するためには、以前より1回多くワクチン接種をする必要があるようです。デルタ株の感染から身を守るためにはmRNAワクチンを2回接種すれば十分でしたが、オミクロン株の場合は3回接種が必要なようです。ワクチン接種を2回した人がオミクロン株にブレークスルー感染した場合、重症化することはほぼ無くなりますが、ワクチンを3回接種すれば重症化するリスクはかなり下がるでしょう。NFLやメトロポリタンオペラや多くの大学など、ワクチン接種を義務付ける組織や団体がたくさん出てきました。多くの他の団体もそれに追随するでしょう。しかし、全体としてみれば、米国のワクチン接種率は十分と言えるほどには高くないのです。全米で、2回接種を済ませている人は10人に6人しかいません。また、3回目の接種(ブースター・ショット)を済ませている人に至っては10人に3人しかいないのです。
脆弱性が高い2めの集団は、慢性的な疾患を患っている人が該当します。一般的に、新型コロナウイルスに感染して重症化する確率は、患っている疾患の数の多さと症状の重さに比例します。入院した新型コロナ感染者を調べて明らかになったのは、95%が少なくとも1つの基礎的疾患を抱えているということでした。米国の成人の約60%は慢性的な疾患を抱えています。しかし、すべての慢性的疾患が入院するリスクを高くするわけではありません。米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)は、新型コロナに感染して重篤化するリスクが高い疾患を10以上列挙しています。呼吸器系や免疫系に影響を及ぼす疾患(肺気腫、心臓病、癌、免疫抑制剤を必要とする自己免疫疾患など)がある人は、ワクチン接種を受けても、残念ながら脆弱性が高いままであることが分かっています。
脆弱性を議論する上で、どうしても年齢の話は避けて通ることが出来ません。脆弱性が高い3つめの集団は、高齢者が該当します。高齢者はリスクが高まるのですが、思っているよりも若い年齢からリスクは高まり始めます。65歳以上の米国人の新型コロナによる死亡率は、10代後半から20代の80倍以上で、米国の新型コロナによる死者の4分の3は60歳以上の者が占めています。老人ホームや長期介護施設に住む高齢者の脆弱性が最も高く、新型コロナのパンデミックの最初の年(2021年)には、そうした場所で暮らす人たちが米国全体の人口に占める割合は1%未満だったのですが、新型コロナによる死者の35%を占めました。だからと言って、高齢でない者たちは新型コロナを恐れなくて良いということではありません。実際、この9月には、米国の中年層の死因のトップは新型コロナでした。しかし、やはり感染して重症化するリスクが最も高いのは60代や70代やそれ以上の高齢者なのです。今後もそれは変わらないでしょう。そうしたことは、オミクロン株が出現後も変わらないのです。