How Will the COVID Pills Change the Pandemic?
抗ウイルス薬の登場で新型コロナの感染収束する?
New antiviral drugs are startlingly effective against the coronavirus—if they’re taken in time.
新開発の抗ウイルス薬は、新型コロナウイルスに対して驚くほど効果的です。しかし、早期に服用する必要があります。
By Dhruv Khullar November 21, 2021
1.メルク社 新型コロナの抗ウイルス薬開発 モルヌピラビル
2020年3月、エモリー大学の研究チームは、NHC / EIDD-2801と呼ばれる分子に関する論文を発表しました。当時、新型コロナウイルスに関する治療薬は皆無でした。しかし、その論文には、NHC / EIDD-2801はさまざまなコロナウイルスに対して抗ウイルス薬として有効であり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対しても有効性があると記されていました。論文を発表した数日後には、エモリー大学は、マイアミを拠点とするバイオテック企業のリッジバック・バイオセラピューティクス社に対してその分子に関するライセンスを供与しました。リジバック社は、以前にエボラ出血熱用のモノクローナル抗体薬を開発した実績があります。リジバック社は、製薬大手のメルク社と提携してNHC / EIDD-2801の開発・製品化を加速させました。
エモリー大学の研究チームは、その創製した抗ウイルス薬をモルヌピラビルと名付けました。その名はミョルニル(北欧神話に登場する神トールが持つ鎚。思う存分に打ちつけても壊れることなく、投げても的を外さず再び手に戻る、自在に大きさを変え携行できるといった性質を持っていた)にちなんだものです。後に、その抗ウイルス薬は名前にたがわぬほど有能であることが判明します。先月(10月)、メルク社とリッジバック社は、モルヌピラビルの投与によって新型コロナウイルスに感染した人の入院する可能性を半減することができると発表しました。この抗ウイルス薬の治験は第III相試験まで進んでいた。しかし、あまりにも効果が高かったため、外部の独立したモニタリング機関の推めに従って、途中で第III相試験を中止しました。というのは、薬の有効性を測るために治験対象の半数(対照群)にプラセボ(偽薬)を投与し続けることが非常に非倫理的であると思われたからです。治験では、本物のモルヌピラビルを投与された者は約400人いましたが、重大な副反応は1件も発生しませんでした。当然、死亡者も出ませんでした。11月4日には英国が世界に先駆けてモルヌピラビルを承認しました。業界関係者の多くは、12月にはFDA(米国食品医薬品局)から緊急使用許可が下りると予想しています。
モルヌピラビルのような経口の抗ウイルス薬は、新型コロナの治療に大きな変化をもたらすでしょう。現在、新型コロナの治療では、モノクローナル抗体(単クローン抗体)を使った医薬品やレムデシビルなどの抗ウイルス薬が主として用いられています。が、それらは通常は診療所や病院で点滴や注射で注入されています。ですので、新型コロナを発症してそうした薬を注入したいという場合には、病院等まで行かなければなりません。それが出来ずに薬の恩恵にあずかれない人が沢山いるのが現状です。しかし、対照的ですがモルヌピラビルは小さなオレンジ色の錠剤で、経口摂取できるのです。ですので、今後は、目を覚まして気分が悪かったら即座に新型コロナの陽性検査を受けて、近所の薬局に行って薬を受け取れば良いという形に変わるのです。それで、その薬を40錠服用するだけで治療は全て終わるのです(薬の接種は発症から5日以以内に始める必要がある。)。5日間、1日2回、4錠づつ飲むだけで良いのです。現在、メルク社はモルヌピラビルが感染者の重症化を防ぐだけでなく、ウイルスに曝露後の感染を防げるか否かを臨床試験で確認中です。もし、曝露後の感染を防げるのであれば、モルヌピラビルを予防的に服用できる可能性があります。予防的に服用できるのであれば、家族の誰かが陽性と判明した際などには、モルヌピラビルを処方してもらって感染しないようにすることができます。
モルヌピラビルは、さまざまな新型コロナの変異株に対しても有効のようです。また、今後発生する変異体についても効果があるだろうと推測されます。実際、少なくとも研究チームが実験した限りでは、モルヌピラビルは、新型コロナウイルス以外にもエボラ出血熱、C型肝炎、RSV(ラウス肉腫ウイルス)を含むRNAウイルス(ゲノムとしてリボ核酸 (RNA)をもつウイルス)に対して有効であることが判明しています。ワクチンを接種すると抗体が生成されて、その抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を標的にしますが、モルヌピラビルはウイルスが持つ基本的な複製機能を攻撃して無効化します。スパイクタンパク質は時間の経過とともに変化しますので、抗体が有効でなくなることがあります。しかし、複製機能はほとんど不変ですので、ウイルスが抗ウイルス薬に耐性を持つ可能性はほとんどありません。モルヌピラビルは人体内に入ると、NHCと呼ばれる分子に分解されます。昨年4月に当誌に掲載されたマシュー・ハトスンの抗ウイルス薬に関する記事に載っていたとおり、NHCは、ウイルスのRNAを構成する4つの塩基の1つであるシトシンに似ています。(RNAは、リボース(五炭糖)、リン酸、塩基の3つで出来た核酸です。塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシル の4種類あります。)新型コロナウイルスのRNAが増殖のために複製をしようとすると、NHCがシトシンがあった場所に入り込み、シトシンと入れ替わります。ウイルスにはRNA内の異常を察知して補修する機能もあるのですが、NHCはその機能を回避し、他の3つの塩基と結び付きます。それで、RNAの複製の過程でエラーが発生するようになるので、ウイルスは増殖できなくなります。
抗ウイルス薬はウイルスのRNAの増殖を防ぐという点で優れているということを聞くと、人間のDNAにも悪影響を及ぼすのではないかと心配する人もいます。(メルクの治験では、妊婦、授乳中の女性は除外されています。また、出産可能年齢の女性は避妊薬の服用が必須でした。)抗ウイルス薬がゲノムに悪影響を及ぼすのではないかという懸念は根強いもので昔からあるものです。最近行われたある研究によれば、モルヌピラビルを高用量で長期間服用すると、実際にDNAに突然変異が起きる可能性があることが示唆されています。しかし、生化学者のデレク・ロウがサイエンス誌で指摘していますが、その研究結果は、新型コロナでモルヌピラビルを投与される際には全く参考にならないのです。というのは、その研究は、生きている動物や人間に投与するのではなく、細胞をモルヌピラビルに1ヶ月以上浸す形で行われたのです。しかも、それほどの高濃度であったにもかかわらず、突然変異の発生頻度は紫外線への短時間の曝露が引き起こすものより少なかったのです。メルク社は治験開始前の実験や動物を使っての実験を行っていますが、モルヌピラビルが新型コロナ感染患者に処方される際の用量と期間であれば、突然変異を引き起こすという可能性はほぼ皆無でした。