2.ファイザー社 新型コロナの抗ウイルス薬開発 パクスロビッド
冬が近づくにつれ、米国では再び感染が拡がりそうな気配を見せています。また、米国よりもワクチン接種率が高い国が多いのにもかかわらず、ヨーロッパの多くの国で感染者数が急増しています。米国の一部の病院では、既に感染者数増の影響で病床が逼迫し始めています。実際、現在でも米国では約5万人が新型コロナで入院しています。ですので、モルヌピラビルは今まさしく必要とされているものなのです。
新型コロナ用の抗ウイルス薬は実は他にもあります。英国がメルク社の抗ウイルス薬を承認した翌日、ファイザー社が開発中の抗ウイルス薬について言及しました。それはパクスロビッドですが、高リスクの新型コロナ感染者の症状悪化を防ぐのに驚くほど効果的であると発表しました。それを症状が現れてから3日以内に服用すると、重症化リスクが約90%減少しました。パクスロビッドを服用した約400人のうち3人だけが入院し、死亡者は出ませんでした。プラセボを投与された対照群では、27人が入院し7人が死亡しました。パクスロビッドは、別の抗ウイルス薬(リトナビル)と一緒に服用されます。リトナビルを服用することにより、パクスロビッドが体内で分解される速度を遅くします。メルク社と同様ですが、ファイザー社も現在はパクスロビッドがウイルスに曝露後の感染を防ぐ効果があるか調査中です。その調査結果は2022年初頭に明らかになる予定です。(ワクチン接種後にブレイクスルー感染した者に対してその抗ウイルス薬がどの程度の効果があるかはまだわかっていません。メルク社とファイザー社の治験は、肥満症や糖尿病などの重篤な疾患の危険因子を持つワクチン未接種者のみが被験者でした。というのは、ワクチンを既に接種した者は、重症化する可能性も死亡する確率も低いと思われたからです。)
パクスロビッドは、遺伝情報を混乱させることによってウイルスの複製を防ぐわけではありません。ウイルスがタンパク質を構築するのを混乱させることによって、ウイルスの複製を妨害します。ウイルスが人間の細胞に侵入すると、ウイルスのRNAはタンパク質に変容します。そして細胞内に悪影響を及ぼします。しかし、そのタンパク質は最初はポリペプチドと呼ばれる長い糸状の形をしています。次に、プロテアーゼという酵素が沢山の糸状のポリペプチドをスライスした後にタンパク質の塊にします。その過程において、パクスロビッドがプロテアーゼのスライスする能力を無効化することでウイルスの複製を防ぎます。パクスロビッドとモルヌピラビルがウイルスの複製を防ぐ方法は全く別のものですので、理論的には、一緒に服用することができます。さて、ウイルスの中には、HIVウイルスやC型肝炎ウイルスなどのように、慢性化するものもあります。これらの感染症では、長期に渡って単一の抗体薬を投与し続けると耐性ができてしまうことがあります。それを防ぐことを目的に抗体カクテル療法が行われ複数の抗体薬が投与されます。そうしたアプローチは呼吸器系疾患ウイルス(新型コロナ含む)ではあまり一般的ではありません。というのは、呼吸器系疾患のウイルスは一般的には長期間持続しないからです。しかし、新型コロナに対して抗ウイルス薬を併用する治療法に関して、現在さまざまな調査、研究が行われています。特に免疫不全の感染者への適用が期待されています。というのは、免疫不全の感染者がウイルスに感染すると、ウイルスが長期間体内に留まることが多く、それはウイルスの変異株が出現する機会を増やすことになるからです。