頑張れっ ユニクロ! 世界制覇の日は遠くない?

4.ユニクロの強さと課題

 有明のユニクロ店舗はまさに王者の宮殿である。「当社では、本社を「店舗サポートセンター( store-support centers )」と呼んでいる」と、東京・浅草にある改装されたばかりのユニクロ店舗を見学した際にコンウェイは語った。日本には年間 16 日の祝日がある。しかし、ユニクロの幹部は、それらの祝日も休まず働く。それは、店舗スタッフが休めないのに自分たちが休むわけにはいかないと考えているからである。上級幹部も中には、店舗のフロアからキャリアをスタートさせた者も少なくない。店舗では、棚の補充方法やジーンズの特殊なユニクロ式の畳み方(ジーンズを縦に 2 つに折り、お尻の出っ張った部分を内側に折り込んで長方形にし、裾を折り返してラベルが見えるようにする)を学ぶことから始める。ユニクロの「全員経営( Uniqlo’s zen’in keiei )」哲学によれば、「誰もが経営者である( Everybody is a manager )」という。

 私がコンウェイと視察した浅草のユニクロ店舗では、ユニクロのロゴが入った大きな赤い提灯が天井からつり下がっていた。近くの有名な寺院である浅草寺の入口の雷門にかかっているものを彷彿とさせる。裾上げ等を受け付けるカウンターには、バッグやカーディガンに刺繍できる図柄見本を束ねたバインダーが置かれていた。何人かの顧客がそれをめくっていた。ペンギン、寿司、桜などに加えて、奉納札を思わせる浅草店オリジナルと思われるロゴもある。「私たちはチェーン店になりたくない」とコンウェイは地元密着型に拘っていることについて語った。その日は買い物客が多かった。店内に飾ってある伝統的な酒樽をじっくりと眺める者もいた。この店独自だと思われるが、近隣の職人(紙漉き職人など)やメロンパン専門店(表面がサクサクしたメロン味の甘いパン)を称える T シャツを購入する者もいた。店内の BGM は、浅草の例大祭の太鼓と笛の音が流れていた。

 浅草店でのみ販売されるシャツがいくつかある。ユニクロが UT と呼ぶプログラムの一環である。膨大な数のライセンス契約を巻くことによって可能になった数々のグラフィック T シャツを販売している。スタジオジブリ( Studio Ghibli )、ピカソ( Picasso )、ディズニー( Disney )、ピーナッツ( Peanuts ) 、シルバニアファミリー( Sylvanian Families )、コカコーラ( Coca-Cola ) 、ハローキティ( Hello Kitty )、アンディ・ウォーホル( Andy Warhol )、漫画のヒーロー( manga heroes )、食べたくなるほど可愛らしい子猫などの図柄がある。私はこれまで UT についてなかなか理解できていなかった。なぜなら、ウォーホルがユニクロとどう関係しているのか全くわからなかったからである。また、ユニクロの世界以外では、「 UT 」の文字の次には「 I 」が続くことがほとんどだからでもある。しかし、この商品ラインは大人気である。ストリートアーティストの KAWS とのコラボレーションの開始は、2019 年に中国で熱狂を巻き起こした。かの地の聡明な消費者は、その T シャツを売り切れる前に手に入れるため、シャッターの下を掻い潜ったり、マネキンが着ているシャツを引っ剥がしたり、お互いにヘッドロックをかけ合ったりした。

 通常であれば、ユニクロの買い物客は店に入ると、商品の豊富さに圧倒されるはずである。商品で顧客を圧倒するというのが、ウィリー・ウォンカ( Willy Wonka:映画「チャーリーとチョコレート工場」に登場するウォンカチョコ工場の経営者 )のエレベーターのように天井を突き破ってしまいそうなほど高い棚に何千枚ものセーターが並ぶユニクロのパワーウォールの背後にある論理である。ディスプレイには厳密なルールがある。床から天井に向かってサイズが大きくなり、左から右へ、そして店の入り口から奥へ向かって色が濃くなっていく。

 各商品の山は、5 段階の評価システムを用いて、1 日に複数回、整理整頓状況が評価される。「 B 」評価は、緑のブラウスが青い在庫に紛れ込んでいるような状態を指し、「 D 」評価は、在庫が完全に無かったり、商品が地面に落ちていたりといった深刻な状況を指す。意図的に大量の在庫を抱えジャンブル陳列を多様するイケア ( IKEA )と同様に、ユニクロは商品の豊富さこそが消費者の購買意欲を刺激すると考えている。コンウェイは、「常にすべての商品が十分に在庫されているように見せたい」と説明した。

 ユニクロの接客サービスは、控えめである。おもてなしの精神からなのか、省力化を図っているのか、いずれかか、もしくは両方なのだろう。私の住んでいる場所の近くにあるパリのフラッグシップ店舗では、いたるところに説明的な店内表示があるが、質問に答えてくれる店員を見つけるのはいつ行っても至難の業である。「お客様に迷惑をかけないようにしている」とコンウェイは語る。「お客様に服を見て、触って、感じて、邪魔されることなく店を楽しんでいただくスペースを与えるようにしている」。どうやら、柳井がこの店員が干渉しないスタイルの接客を思いついたきっかけの 1 つは、学生時代のアメリカ旅行中に訪れた大学の生協だったようである。現在、ユニクロは、従業員に対し、本を売るように服を売るよう教育している。お客様が自由に商品を見て回れるようにすることを重視している。

浅草店に、1 人のお客様が通りかかった。

「買い物カゴはご必要ですか?」と 1 人の店員が声をかけた。

 コンウェイによると、「この接客スタイルは顧客に『買い物カゴは必要ないけど、セーターのことで困っている』と伝える機会を与える」とのことである。「これは間接的なコミュニケーションのきっかけになる。『何かお探しですか?( Can I help you? )』と尋ねるよりも、顧客が具体的な質問を返してくれることが多いので、店員のプレッシャーがより少ない」。

 以前、ユニクロのレジ係に関する噂話があった。どんな顧客でも会計処理を 1 分以内に完了しなければならないというルールが存在するというものである。現在では多くのユニクロ店舗で RFID ( R.F.I.D. )タグを採用しており、顧客は商品をレジに放り込むだけで数秒で支払いができる。スキャンする必要さえない。顧客にとってもスムーズでストレスが少ない。良くも悪くも、まるで支払いをしていないかのような錯覚に陥るほどである。タグの送信データをユニクロは収集している。ウォール・ストリート・ジャーナル( the Wall Street Journal )によると、ユニクロはこのデータを「店舗の在庫精度の向上、需要に基づいた生産調整、サプライチェーンの可視性向上」に活用しているという。

 新型コロナ・パンデミック以降、ユニクロは実店舗への投資を増やしている。昨年、同社の e コマースの売上高はわずか 15% である。同社は Instagram や TikTok など、マルチチャネルでのリーチ強化に一定の努力を払ってきたが、サラ・シャピロ( Sarah Shapiro )が先日アメリカの雑誌パック( Puck )に書いたように、「同社のデジタル店舗の軽視」は「年間売上高 200 億ドルを超える企業にとって、依然として受け入れがたい汚点」となっている。

 ユニクロのウェブサイトは操作が難しいと顧客から多くの苦情が寄せられている。雑然としている。永遠とスクロールしなければならない。人気のコラボレーション商品を見つけるのは至難の業である。こうした問題が、特にアメリカの顧客に不快感を与えている可能性が大きい。彼らは、自らの文化的な嗜好に合わせたシームレスなオンライン体験を期待しているからである。「まるで出会い系アプリに登録しているようであった」と、私の知人の 1 人は話している。彼女は靴下を買うためだけにアカウントを作成しなければならなかったという。

 シャピロは、「レイジクリック( rage clicks )」と呼ばれる業界用語について説明してくれた。「それは、顧客が同じボタンを何度もクリックしなければならず、非常にイライラする状況を指す」と彼女は言う。「通常のサイトでは、『今週のレイジクリックの状況はどうだったか?』と自問する。しかし、ユニクロはそうしていないはずである。なぜなら、ユニクロのサイト全体でレイジクリックが起きており、手を付けられないレベルだからである」。それでも彼女は、「ユニクロが自社製品を販売するためにオンラインショッピングを更新して最適化できれば、これまでずっと追い求めてきたアメリカの消費者を獲得できるだろう」と指摘する。