J. D. Vance and the Success Stories of Bidenomics
J・D・バンスとバイデノミクスの成功譚
Many of Donald Trump’s economic promises have come to pass, including in the home town of his running mate—they’ve just been enacted by Democrats.
ドナルド・トランプの経済公約の多くは、バンス副大統領候補の故郷を含む多くの地区で既に実現している。それは、民主党によってもたらされたものである。
By John Cassidy October 7, 2024
金曜日( 10 月 4 日)に発表された雇用統計を見ると、先月アメリカでは 25 万人以上も雇用が増加し、失業率は 4.1% まで低下している。ジョー・バイデンが大統領に就任して以降で 1,620 万人の雇用が創出された。確かにこれらの雇用創出の一部は新型コロナパンデミックの反動によるものであるが、総雇用者数は新型コロナ前の最高値に戻った 2022 年 6 月以降に限っても 680 万人も増加している。経済が好調であることを示すもう 1 つの兆候がある。就業している、または積極的に求職活動をしている人口の割合が過去 30 年で最高の水準にある。
総計的な数字は極めて印象的であるが、それは必ずしも全米の都市やあるいは個々の雇用市場で実際に起きていることを正確に示しているわけではない。例えば、J・D・バンス( J. D. Vance )上院議員の故郷であるオハイオ州ミドルタウン( Middletown )の製鉄所を例に考えてみたい。現在共和党の副大統領候補であるバンスは、2016 年の回顧録「ヒルビリー・エレジー( Hillbilly Elegy )」の中で、祖父母がケンタッキー州東部のアパラチア高原( Appalachian Uplands )の小さな町からミドルタウンに移り住んだ経緯を記している。バンスの祖父のパポー( Papaw )がアームコ( Armco )社の製鉄所で働くことになった経緯も記されている。アームコ社は 1899 年の創業である。「私の祖父母にとって、アームコ社は経済面の救世主であり、ケンタッキーの丘陵地帯からアメリカの中流階級へと彼らを導いた原動力であった」とバンスは記している。「私の祖父はこの会社を愛していて、アームコ社の鋼鉄で作られた車のメーカーやモデルをすべて知っていた」。
1980 年代、アームコ社は他のアメリカの鉄鋼メーカーと同様に、安価な外国製品との競争に巻き込まれ苦境に陥った。1989 年にアームコ社は日本の川崎製鉄( Kawasaki Steel Corporation )と提携し、ミドルタウン工場に投資した。しかし、世界的に供給過剰の状況が続き、アメリカの鉄鋼業界は財政難と統合圧力に直面し続けた。2020 年、ミドルタウン工場の親会社は別のアメリカ企業に買収された。クリーブランド・クリフス( Cleveland-Cliffs )社である。それから 4 年 経った現在も、鉄鋼業界全体に疑問符がつきまとっているが、ミドルタウン工場の将来はより確かなものになりそうである。
というのは、今年初めにエネルギー省( Department of Energy )がクリーブランド・クリフス社に対し最大 5 億ドルの資金を提供し、ミドルタウン工場を天然ガスまたは水素を燃料とする新しい炉に更新することに同意したからである。新しい炉は、現在使用されているコークス燃料の炉よりも炭素排出量がはるかに少ない。クリーブランド・クリフス社はプレスリリースの中で、このアップグレードによって「ミドルタウン工場は、世界で最も先進的で温室効果ガス排出量の少ない銑鋼一貫工場として統合される」と述べている。地元当局者はこのプロジェクトに興奮しており、雇用増と税収増ときれいな空気がもたらされると信じている。「これは市全体、そして私たちのコミュニティ全体にとって素晴らしい機会である」と、先週の副大統領候補者討論会の直前に掲載されたニューヨーク・タイムズの記事の中で、ミドルタウンの市長代理ネイサン・カホール( Nathan Cahall )は語っている。
副大統領候補討論会の司会者はミドルタウンの製鉄所を話題にしなかった。バンスも同様であった。彼は、何の証拠も示さずに、「ハリス政権」の政策が「海外製品の流入増加」につながっていると主張した。彼の対立候補のティム・ウォルツ( Tim Walz )は、実際にはバイデン政権の政策によってアメリカ中で製造業の雇用が膨大に生み出されていると反論している。その中にはバンスの出身州であるオハイオ州も含まれると指摘し、オハイオ州ジェファーソンビル( Jeffersonville )に日本のホンダと韓国の LG ソリューション( LG Energy Solution )が進出し EV 用のバッテリー製造プラントが作られたことを強調した。
バイデンの画期的な産業振興支援策による巨額の財政出動によって、ミドルタウンやジェファーソンビル、その他多くの場所への新たな製造業誘致が促進された。私は以前にも言及したが、巨額の財政支出とは、バイデンが大統領就任後 20 カ月の間に連邦議会が可決した 3 つの主要法案によるものである。具体的には、インフレ削減法( the Inflation Reduction Act )、インフラ投資・雇用法( the Infrastructure Investment and Jobs Act )、CHIPSおよび科学法( the CHIPS and Science Act )である。バイデン政権は、グリーンテック企業やハイテク製造業を促進するために数千億ドルの税控除や政府補助金を割り当てたこれらの法案の成果を繰り返し強調しているが、その恩恵の広範さと大きさはほとんど認識されていない。
ホワイトハウスがまとめた資料や、インタラクティブマップ(ユーザーが地図上で操作することで、スタイルや形式の変更、ズーム、検索、フィルター処理、ポップアップの表示などを行うことができるマップサービス)で詳細な数字を確認したのだが、オハイオ州だけでも、連邦政府はバイデン政権下でクリーンエネルギー、インフラ、先進製造業に 138 億ドルの公共投資を割り当てている。同時に、民間部門が 30 以上の新規プロジェクトに 429 億ドルを投じる計画を発表している。その最大のものが、コロンバス( Columbus )の北東、ニューオールバニ( New Albany )にある 200 億ドル規模の半導体製造施設オハイオ・ワン( Ohio One )で、インテル( Intel )が 2 つの半導体製造プラントを建設中である。ホワイトハウスのデータベースによると、全米で民間部門が 9,100 億ドルの投資計画を発表しており、その中でも半導体と電子機器、電気自動車とバッテリーが最も大きな割合を占めている。
もちろん、こうしたベンチャー的なプロジェクトへの長期的な投資が必ずしも成功するわけではない。そもそもそれらの産業は競争が激しい。先日、インテルは財政難に陥り、オハイオ・ワン工場の操業開始日を来年から 2027 年もしくは 2028 年に延期した。他のプロジェクトも遅れがちのものが多い。ミドルタウンでは、クリーブランド・クリフス社が設備改修への公的支援の更なる増額を求めているようである。数週間前、同社の最高経営責任者は、「革新的なミドルタウンの設備更新について、プロジェクトを着実に推し進めながら、更なる公的資金の提供交渉を進めている」ことを認めた。
資本主義の本質であるわけだが、たとえ政府の莫大な補助金や税額控除を得られたとしても、そのプロジェクトが永続的に繁栄するという保証はない。しかし、ここで重要なのは、バイデン政権の各種施策が意図した通り実行されており、製造業の未来のための投資が刺激されているということである。実際、アメリカ製造業全体の設備投資額は 2021 年 1 月以降、年率換算で 3 倍も増加している。
2021 年 1 月と言えば、ドナルド・トランプがホワイトハウスを去った月である。トランプは、大統領に就任する前および在任中に、たびたび製造業の製造設備と雇用をアメリカに戻すと訴えていた。とはいえ、彼は工場を海外に移転すると表明していたキャリア社( Carrier:アメリカの電気設備メーカー)などの企業の言論を封殺したり、海外製品に関税を課したりした以外、製造業の企業にアメリカ国内への投資を促すための政策は何も実施しなかった。ワシントン・ポスト紙( the Washington Post )が先日記事にした 2020 年 2 月にバンスが送信したテキスト・メッセージで、バンスは、「トランプは経済ポピュリズムの実現にはことごとく失敗している 」と認めている。トランプが公約に掲げた一連の改革案が実行に移されたのはバイデンが大統領に就任してからのことである。そのための金融優遇策を導入したのはバイデンである。それなのに、なぜバイデンの評価は低いままなのであろうか。もっと評価されて然るべきである。
その答えの 1 つは、大幅な物価上昇である。2021 年から 2023 年にかけて見られたような物価上昇はすべての人に影響を与える。それに対し、産業振興策は主に対象となる産業や関連する業界に従事する人たちに影響を与えるものの、その数は圧倒的に少ない。もう 1 つ考慮すべき点がある。それは、製造業への投資増で大きな恩恵を被った州はカリフォルニア州、ニューヨーク州、ミシガン州など民主党支持層が多い州(青い州)もあるが、その多くは共和党支持者が多い州(赤い州)に集中しているということである。それらの州では、政治家や有権者の多くは恩恵は民主党のおかげとは思わない。だから、民主党やバイデンの支持率が上がることもないのである。
ホワイトハウスが提供しているデータベースの数字を基に私は分析した。バイデン政権による民間セクターへの投資支援額を 1 人当たり額という視点で分析したのだが、多い州は、アイダホ、インディアナ、ルイジアナ、カンザス、ケンタッキー、オハイオ、サウスカロライナ、テネシー、テキサス、ユタ、ウェストバージニアなどの赤い州と、アリゾナとノースカロライナの民主党と共和党の支持が拮抗している州(紫の州)であった。ホワイトハウスが提供している数字は、バイデン政権時代に実施されたすべての景気浮揚を目的とした法案をカバーしている。環境コンサルタント会社イーツ―( E2 )が先日実施したインフレ削減法だけを対象とした調査でも、同様の傾向が顕著であった。「インフレ削減法の恩恵を最も受けているのは、赤い州と共和党が支配する選挙区である。インフレ削減法の 2 年間の全データを見ると、プロジェクトの半分以上が共和党が支配する選挙区で実施され、クリーンエネルギー投資の投資額上位 20 の選挙区の内、19 は共和党が支配する選挙区であった」。
これらの調査結果は、アメリカの有権者の多くは支持政党が決まっていることと、それがバイデンの正当な評価を妨げているという説を裏付けるものである。アメリカ中で共和党支持者の大半は、トランプとバンスが 「新しいグリーン詐欺( Green New Scam )」と揶揄するバイデン政権のインフレ削減法の廃止を求めるトランプを支持している。しかし、重要なことなのだが、共和党議員の中にもそれに異を唱える者が出始めている。しかも、決して少数ではない。8 月には下院共和党の18 議員がマイク・ジョンソン下院議長に書簡を送った。その中には、「グリーンエネルギー税控除は技術革新を促進し、投資を奨励し、国内の多くの地域で多くの雇用を生み出してきた。そうした地域の中には、共和党議員が選出された選挙区も多く含まれている」との記述があった。共和党の知事の中にも自州への投資が増えたことを歓迎している者は少なくない。オクラホマ州のケヴィン・スティット( Kevin Stitt )知事やサウスカロライナ州のヘンリー・マクマスター( Henry McMaster )知事などである。
大統領選の結果次第では、バイデンのグリーン産業政策が、最終的には医療保険制度改革( the Affordable Care Act )と同じ道を辿る可能性もある。医療制度改革は、トランプや多くの共和党議員が非難し、廃止を試みたものの、結局は廃止できなかった。共和党が最終的に受け入れざるを得なかった民主党の歴史的な成果である。結局、バンスはミドルトンの製鉄所を近代化し、その将来を確固たるものにしようとするバイデンの試みを認めざるを得なくなるかもしれない。しかし、確実に 11 月 5 日までにそうなることはないであろう。♦
以上
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