The New Jobs Report Is Encouraging on Jobs and Inflation
5月の雇用統計は、雇用が力強いこととインフレが続きそうであることを示唆しています
The President deserves more credit for a growing economy, but public attitudes likely won’t change until there is progress on inflation.
バイデン大統領は、経済成長させたことについて、もっと評価されてしかるべきですが、インフレの抑制に進展が見られない限り有権者の支持率は低いままで変わらないでしょう。
By John Cassidy June 3, 2022
ホワイトハウスは、労働省が金曜日(6月3日)に発表した5月の雇用統計の数値が事前予想よりも良かったことを受けて、米国経済は健全であると強調しました。それには理由があります。ウォール街や報道メディアは、景気後退懸念を抱いていたのですが、5月の雇用者数は39万人増で、失業率は3.6%と低位で安定していました。雇用者数は、市場予想を上回るもので、新型コロナのパンデミックからの力強い景気回復が続いていることを示すものでした。また、賃金上昇率(インフレの主要な構成要素である)も5月は低下していたことも明るいニュースでした。
3月以降、毎月平均で48万人の雇用が創出されました。その前の6カ月間は、平均で60万人弱の雇用が創出されていましたから、大幅に減速したわけですが、それでも非常に健全な数字です。ホワイトハウスの経済諮問委員会が金曜日(6月3日)にブログを投稿していましたが、2011年〜2019年の間の毎月の増加数の平均は、19.4万人だったそうです。現在の雇用創出率は、新型コロナのパンデミック前の2倍以上です。共和党が米国経済が既に不況に陥り始めていると主張しているわけですが、そうでもなさそうに見えます。
発表された雇用統計をつぶさに見ると、5月までの過去12ヶ月間の平均時給の上昇率は5.2%で、前回の5.5%から鈍化していることが分かります。また、過去3カ月の数値を年率換算すると、時給の上昇率は約4.5%です。労働者の立場からすれば、上昇率の低下は必ずしも良いニュースではありません。それは、労働者の賃金の上昇が、財やサービスの価格の上昇(4月までの12ヶ月間で8.3%上昇した)にまだ追いついていないことを意味しているからです。しかし、インフレ抑制が命題となっている米連邦準備制度理事会(FRB)の立場からすれば、今回の雇用統計には、賃金インフレが制御不能になっていないこと、そして実際、すでに正しい方向に動き出していることを示す心強い兆候が含まれています。
パンセオン・マクロエコノミクス(Pantheon Macroeconomics)のチーフエコノミストのイアン・シェフェルドンは、顧客向けの書簡の中で、「4ヶ月連続で前月の数値を下回っており、賃金上昇ペースが緩やかになっていることが明確になったと確信できます。」と記していました。労働人口の構成が変化すると、賃金上昇率の数値が実態を正確に反映しないこともあるのですが、現在はそのようなことはないようです。ピーターソン国際経済研究所のカレン・ダイナンとハーバード大学のウィルソン・パウエル3世は、ブログで指摘していましたが、労働人口構成比調整後の12カ月の平均時給上昇率は、4月の5.6%から5月は5.3%へと低下していました。
他にも明るい兆しがあります。それは、新型コロナのパンデミック時に働くことや仕事を探すことをあきらめていた多くの者が労働市場に戻ってきたように見えることです。5月の労働力率(labor-force participation rate )はやや上昇していました。昨年12月以降、労働力人口は210万人増と大幅に増えています。この状況が続けば(労働参加率は新コロナパンデミック前の水準を大きく下回っているため、まだまだ上昇余地があります)、賃金上昇圧力はさらに弱まるでしょう。
それでも、インフレ率が上昇し、エネルギー価格が高騰しており、米国経済は依然として深刻な問題に直面しているわけですが、即座に不況に陥ったり、1970年代のように物価と賃金がスパイラル的に上昇するようなことはないでしょう。FRBが直面している課題は、単にインフレを阻止するだけでなく、中央銀行として目標に掲げているインフレ率を2%にまで下げることです。多くのエコノミストは、雇用統計で雇用が好調であることが示されれば、FRBは雇用を引き締めるために金利を上げ続けざるを得なくなるだろうと指摘していました。そうなると、米国経済には非常に大きなリスクがもたらされると予測されています。さて、金曜日(6月3日)に雇用統計が発表されたわけですが、ウォール街はどのように反応したのでしょうか。まだ十分に雇用が引き締まっていないと判断したようです。その日の株式市場は大きく下落しました。ダウは約1%、ナスダックは約2.5%下落しました。
雇用統計の数値が強かったにもかかわらず、株式市場が再び弱くなったことは、現在の米国経済の特殊な状況を反映しています。政府統計によれば、現在、米国では求職者1人に対し2人弱の求人があり、労働者にとってかつて無いほどの有利な雇用環境となっています。しかし、同時に、ガソリンスタンドやスーパーマーケットで価格の上昇が続いており、消費者とっては有り難くない状況となっています。インフレ率は8.0%を超え、全米自動車協会(AAA)の発表によると、全米のガソリン1ガロンの平均価格は4.76ドルとなり、過去最高を更新しています。
雇用統計の発表後、記者会見に臨んだジョー・バイデン大統領は、雇用統計の数値が良いにもかかわらず株式市場が下落するという状況について慎重に言及しました。彼は言いました、「本日発表されたニュースにもかかわらず、多くの米国人が不安を抱えたままであることを私は認識しています。そうした気持ちになることも理解できます。物価の高騰、特に生活必需品であるガソリンや食料品の価格高騰は、深刻な問題だと認識しています。」と。そう述べた後、バイデン大統領は、米国経済の良い側面についても言及しました。彼が大統領に就任して以降、870万人の雇用が創出されました。過去の大統領で、4年間の任期中にそれほど雇用を創出した者は1人もいません。彼は言いました、「米国経済の回復の比類なき強さは、インフレやロシアのウクライナ攻撃といった世界的な課題に、強い立場から取り組むことを可能にする。」と。
バイデン大統領は経済成長させたことについて、もっと評価されてしかるべきですが、インフレの抑制に進展が見られない限り有権者の支持率は低いままで変わらないでしょう。そうしたことを認識しているので、バイデン大統領はサウジアラビアの皇太子モハメド・ビン・サルマンと近々会談する意向を明らかにしました。今週、欧州連合(EU)がロシアの原油の段階的禁輸を発表したことを受けて、米国や他の西側諸国の政府は、市場におけるロシア産原油の供給縮小分を補い、原油価格の再上昇を回避する方法を検討しなくてはならなくなりました。実際のところ、頼ることができるのは、サウジアラビアだけです。西側諸国は、サウジアラビアが原油の増産することを願うばかりです。それゆえバイデン大統領は、これまでも多くの大統領がしてきたのと同様に、リヤドまで赴かなければならなかったのです。
バイデン大統領は、全面的インフレに直面しているわけですが、誰が大統領であろうとも対処できることには限界があります。米国では、制度上、インフレ率抑制の責任は主としてFRBにあります。今回の雇用統計の数値は、ジェイ・パウエルFRB議長が望んでいるように経済をソフトランディング(軟着陸)させることが必ずしも不可能でないことを示唆しているように見えます。しかし、インフレとの戦いを長期間続けなければならないでしょう。次に発表される経済指標は、来週金曜日(6月10日)に発表される5月の消費者物価指数です。FRBとホワイトハウスは、この数字が公表されるまで注意深く待っているところです。
以上
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