スプートニクVは安全?ロシアが開発の新型コロナ用ワクチン

安価なスプートニクVは発展途上国では大人気

11月9日、ファイザー社は、実施中のフェーズ3治験の途中経過を公表しました。そのワクチンの有効性は90%超であることが示されていました。11月11日には、ガマレヤ研究所は、スプートニクVの有効性が92%であると公表しました。11月16日には、モデルナ社は、自社のワクチンの有効性が約95%であると公表しました。その1週後、ガマレヤ研究所は以前に公表していた暫定値を修正し、スプートニクVの正確な有効性も95%であると公表しました。12月にモスクワの国立研究大学高等経済学院教授で著名疫学者バシリー・ウラーソフが私に言ったのですが、ガマレヤ研究所はデータを公表する際には何らかの圧力を受けていて、開発したワクチンが他国のワクチンに対して劣位であると示すようなデータを公表することは許さない状況だったと推測されます。
 私はログノフに、データを公表する際に、政治的な圧力を受けたのではないかと質しました。それに対して、彼は、少し困惑した様子でしたが、圧力は全くなかったと否定しました。彼は、ガマレヤ研究所が公表した数値は事前に登録・公表しプロトコルに従って算出したものであり、それはファイザー社やモデルナ社と同じ方法であると主張しました。また、治験でワクチンを接種された被験者の数も正確に有効性をはじき出すために十分な数が確保されていたと主張しました。実際、ガマレヤ研究所のフェーズ3治験の実験データに疑義を呈す者はほとんどいませんでした。スプートニクVは、競合他社のワクチンと同様に感染を防ぐ能力があるように思えました。また、ガマレヤ研究所は実験結果をある医学誌に掲載してもらうために送って査読を受けています。その雑誌は今のところ、それを掲載していません。ガマレヤの遺伝子研究者グシュチンは、スプートニクVに疑惑の目が向けられることについて次のように言いました、「非常に悲しいことですが、全てのロシアの研究者が悪いことをしていると思われているようです。ロシアの作ったワクチンは恐ろしいという誤った風説が意図的に流されているようです。」と。
 12月中旬、フェーズ3治験の約2万3000人の被験者のデータに基づいて、ガマレヤ研究所は最終的なワクチンの有効性を公表しました。91.4%でした。ログノフは言いました、「ロシアは何をやっても疑いの目を向けられますから、このワクチンも信頼を持って迎えられる状況になるとは思っていません。でもこのワクチンに関しては、先入観なく実験結果やデータだけを見て評価して欲しいのです。膨大な数の被験者、血清学的視点から行った分析結果、抗体量のデータ、感染率などを見れば、信頼に値すると分かってもらえるはずです。」と。ガマレヤ研究所のデータを第三者が独自にチェックすることを目的としたプロジェクトが動いていて、その一環として、フェーズ3治験の約500人の被験者に関する情報はオンライン上で公開されています。そのデータによると、重大な副反応が出た被験者は1人も居ないようです。被験者の75%が、独自に民間の医療機関で検査した結果ですが、抗体が出来たとされています。75%という数字は、偶然だと思いますが、ガマレヤ研究所が公式に公表した論文の数値と全く同じです。
 そんなスプートニクVですが、海外ではかなり人気があります。特に西側諸国が開発するワクチンを出荷初期段階に確保出来そうにない国では大人気です。オックスファム(オックスフォード貧窮者救済機関)の9月の発表によると、世界の人口の13%を占める国々だけで、供給予定のワクチン全量の51%を購入したことが明らかになりました。英国は全国民に3回接種できるだけのワクチンを押さえています。EUに加盟している各国も同様です。WHOが主導するCovaxは、世界中にワクチンを公平に配分する枠組みですが、懸念を表明しました。それは、途上国では20%の人しか今年中にワクチンを接種できないということです。まだ、現時点で途上国で接種を始めた国はありません。
 「結局のところ、一番最初にどのワクチンが開発されて承認されたかということは、重要なことではありません。重要なのは、世界中のワクチンの需要を確実に満たすようにすることで、そのためにはどうすべきかということです。」とトゥイッグは言いました。ドミトリエフは、今年は5億回分のワクチンを製造する見込みだとしています。それだけの数を、ロシア直接投資基金(RDIF)を通じて海外の認可したパートナー企業に技術供与することによって製造します。その試みは、低中所得国にとっては非常に魅力的であると思われます。技術供与を受けてワクチンを製造する方が、先進国で製造されたものを調達するより安価になるからです。ロシアからスプートニクVを購入すると、ワクチン1接種分は20ドルと格安です。オックスフォード大学とアストラゼネカ社の共同開発のワクチンは、ファイザー社とモデルナ社よりも安いとはいえ、30~40ドルです。スプートニクVには価格以外にもセールスポイントがあります。それは、配送コストが低く抑えられるということです。スプートニクVは、標準的な医療用冷蔵庫に保管して輸送することができます(オックスフォード大学とアストラゼネカ社のワクチンも同様ですが)。それに対し、mRNAワクチン(ファイザー社とモデルナ社のワクチン)は、はるかに低い温度で配送する必要があります。モデルナ社のワクチンは摂氏マイナス15度以下、ファイザー社のワクチンは摂氏マイナス60度以下が要求されます。
 現在までに、アルジェリアとメキシコを含む50か国以上がスプートニクVを事前注文しています。また、6か国が技術供与を受けて自国で製造する契約をしています。インドでは現在フェーズ3治験を実施中ですが、大手ジェネリック医薬品メーカーが年間1億回分以上を製造することで合意しています。12月下旬に、アルゼンチンはファイザー社とのワクチン購入交渉が決裂した直後に、スプートニクVを2,500万回分購入する契約を取り付けました。すぐに初回納入300万回分のワクチンはアルゼンチン航空のチャーター機でモスクワから空輸されました。1月にはキルギスタンの政府高官が、ファイザー社製のワクチンのために輸送時のコールドチェーンを構築することが難しいので、スプートニクVを購入したいと表明していました。同月、ハンガリーは、EUのワクチンの承認プロセスは時間がかかり過ぎていると非難しました。ハンガリーは、EU加盟国の中で一番最初にスプートニクVを承認していました(EU側は、ハンガリーの勝手な行動はEUの強固な協力体制を乱すものであるとして非難しました。)。その件について、トゥイッグが指摘するのですが、ハンガリーはそうした行動によりロシアとの外交的、経済な繋がりを強化できるでしょう。ロシアの名声を高めるのに少しは貢献したわけですから。
 12月中旬、スプートニクVを開発したガマレヤ研究所は、アストラゼネカ社と国際的な協業をすると発表し注目を集めました。同時に、アストラゼネカ社からの発表があり、2つのベクターワクチン(アストラゼネカのワクチンとヒトアデノウイルスの26変異体を使ったスプートニクV)を組み合わせた治験を実施することが明かされました。同社の発表によれば、ワクチンを組み合わせることで、より強力で広範囲な免疫応答が構築されるので、感染防止力が高まる可能性が高いとのことでした。ブラジルもスプートニクVを製造することを検討していますが、承認が遅れています。というのは、ロシア側からの必要な臨床試験データの開示が遅々として進んでいないからです。
 最近、国際的な研究者たちの懸念となっているのは、新種のコロナウイルスが発生していることです。南アフリカなどで変異体が発生しています。変異体では、スパイクタンパク質に変異が見られ、それによってワクチンが有効でなくなる可能性があります。モデルナ社は、変異体に対しても有効性を持たせるために追加で接種するワクチンを研究していると発表しました。いわゆる「ブースター・ショット」です。グシュチンは、変異体について次のように言いました、「スプートニクVの有効性が下がる可能性があります。しかし、下がったとしても微々たるものだと推測されます。なぜなら、変異したウイルスが予防接種を受けた人の抗体の攻撃を逃れたとしても、T細胞が反応して戦って発病を防ぐからです。我々はT細胞の働きの研究も行っています」と。