スウェーデンのコロナ対応を検証!集団免役の早期獲得を目指し、ロックダウン行わず。あれから1年、死者数は?

2.スウェーデン 緩やかな対応策実施

ほとんど毎朝、スウェーデン人の私の夫は、スウェーデンにいる友人たちや家族とFaceTimeで連絡を取り合っています。パンデミックが始まった頃、FaceTimeの画面を通して伝わるスウェーデンの雰囲気を見ていると、全く通常と同じ生活をしているように見えました。子供たちは誕生日パーティーやお泊まり会をしていましたし、大人たちはレストランやバーで集まっていたようでした。友人の1人がストックホルムの体育の授業の動画を送ってきたのですが、20人が窓を閉めきった部屋で激しい運動をしていました。私の夫の父親は70代で重度の肺疾患を患っていたので、もしも、新型コロナに感染したら死を覚悟しなければならなかったでしょう。私と夫がカリフォルニアにいて家に閉じこもっていた間も、夫の両親はマスクも着用せずに買い物に出かけたり、友達に会っていました。夫の両親は無謀な人でもありませんし、無知な人でもありませんでした。夫の父親は、定年退職する前はエンジニアで毎朝新聞を読んでいました。私たち夫婦と夫の両親で思想や信条が大きく異なることもありませんでした。しかし、私と夫がバーに行ったり出かけたりする時にはマスクを着用した方が良いとやんわり忠告すると、彼らはいつも耳を傾けず、私たちの提案に懐疑的な様子でした。夫の父親は最近、病院で主治医とマスクの着用について話し合ったと言っていました。その病院はスウェーデンでも有名な病院の1つで、主治医はそこの医長でした。主治医のアドバイスは、マスクを着用する唯一の目的は、まわりの者に自分が病人であることを認識させて近寄らせないようにすることだというものでした。その考え方は、スウェーデンにいる夫の親族全員が共有しているのものでした。10月に私は夫の母親から言われました、「スウェーデンでは健康な人はマスクを着用しないのよ。あなたのように健康なのにマスクを着用していたら、奇妙な人と思われてしまうわ。」と。スウェーデンの社会保健省が国民に伝えているのは、マスクが感染を防ぐという十分な証拠は無く、マスクは誤って使用されることが多く、マスクが適切な距離をとらない言い訳として使われる可能性があるので、結論としてマスクは有害であるということでした、
 テグネルは、感染例が増加する中、3月にロックダウン等の厳しい措置を講じないというパンデミックへの対応策を決定しました。フリーランスのジャーナリスト、エマニュエル・カールステンが入手した内部情報や電子メールによれば、スウェーデン政府内ではそうした対応が集団免役獲得につながるか否かを検討していたようです。3月14日と15日にテグネルはフィンランドの社会保健省大臣と電子メールで連絡を取っていたことが明らかになっています。その際、テグネルは、学校の授業を中止しない方が、若くて健康な人たちがより早く免疫を獲得できると示唆していました。しかし、フィンランドの疫学者たちは、シミュレーションした結果、学校の授業を中止した場合には高齢者の感染率を10%減らせると反論していました。それに対して、「10%減らせるので有れば、検討する価値があるかもしれない。」とテグネルは対応しました。
 しかし、スウェーデンは最終的には緩やかな対応策をとりました。他の国とは異なる対応となりましたが、スウェーデンの国民にとっては受け入れ難いものではありませんでした。疫学者でロックダウンが新型コロナの長期的な解決策になると考えている者は1人もいません。「ロックダウンは、時間を稼ぐための一時的な措置なのです」と、国連で長年の顧問を務め、現在WHO(世界保健機関)で新型コロナウイルス感染症担当特使の1人であるデビッド・ナバロは私に言いました。しかし、ほとんどの国はウイルスの蔓延を制御することができず、ワクチンが利用可能になるまでロックダウンを維持することを決定しました。しかし、テグネルは、ロックダウンを長期間続けることは不可能だと考えていました。彼はまたマスクの着用も義務付けませんでした。パンデミックが始まった頃には、ウイルス粒子の放出とウイルスの集団感染に対するマスク着用の効果を直接測定した研究はほとんどありませんでした。また、当時はマスクの供給も十分でなく、マスクをした者としない者の比較実験は困難でした。また、比較実験の際に、マスクしない者の群を作るということは倫理的な面でも難しいことでした。しかし、パンデミックが広まる中で、マスク着用の効果を裏付ける証拠が沢山出てきました。ある研究によれば、ドイツでマスク着用が義務つけられた町々を調べた結果、新型コロナの感染を45%減らせることが示されました。別の研究によれば、米国のマスク着用が義務化された複数の州を調べたのですが、着用を義務化した週間後には、日々の感染者数増加率が2%低くなったことが判明しました。2020年4月までに、WHO、CDC(米国疾病対策センター)、およびその他の機関が、マスク等で顔を覆うことがウイルス感染を防ぐ効果があることを示す十分な証拠があると判断し、それを推奨しました。CDC(米国疾病対策センター)は、さまざまな実験および疫学的データによって、マスク着用を義務化することは新型コロナの感染蔓延を抑制すると結論付けています。しかし、テグネルはその結論に納得していません。2020年4月、彼は欧州疾病対策センターにマスク着用の推奨に反対するよう求める書簡を送りました。その書簡には、「マスクが無症状の人からのウイルス感染を抑制することを証明する証拠はどこにもありません。」と書かれていました。
 スウェーデンのコロナ対応が注目を集めていた時、スウェーデンの元国家疫学官のヨハン・ギセケは、英国のYouTubeチャンネルであるUnHerdで、スウェーデンの新型コロナ感染による致死率は当時の各報道機関が発表していた数値よりも、本当ははるかに低いのではないかと語っていました。彼が語っていたのは、致死率は0.1%くらいで重症のインフルエンザと同じくらいではないかということでした。(しかし実際には、スウェーデンの社会保健省が後に行った調査によると、ストックホルムでは致死率が0.6%で彼の予測の約6倍でした。)彼が言うには、スウェーデンと他国の新型コロナ対応の違いは、スウェーデン政府が対応を決めた時期が早かったということです。1月には決めていました。また、スウェーデンのパンデミック対応は根拠に基づいていました。今になって世界各国の新型コロナ対応策を見てみると、根拠に基づいている国はほとんどありません。テグネルは、スウェーデンと同様に緩やかな制限を計画していた英国の公衆衛生当局と緊密に連絡を取り合っていたと言っていました。しかし、英国では感染者が急激に増加しました。3月16日、インペリアル・カレッジ・ロンドンの疫学者たちが論文を発表したのですが、それによると、ロックダウンを全くしない場合の感染拡大状況を予測したところ、英国では50万人以上の感染による死者が出るとのことでした。その1週間後、英国首相ボリスジョンソンは、ヨーロッパの他の国や地域と歩調を合わせ、学校の授業を中止し、バーやレストランを閉めると発表しました。8月にテグネルは私に言いました、「その発表には少しがっかりさせられました。英国もスウェーデンと同じような対応策をとって、危機をともに乗り越えることを望んでいたんです。」と。
 スウェーデンの人口は1,000万人で、面積はロサンゼルス郡とほぼ同じです。最大の都市であるストックホルムに約20%が住んでいます。2020年4月、ウプサラ大学の研究チームの発表前の論文が広く出回ってしまいました。インペリアル・カレッジ・ロンドンの予測を修正したもので、スウェーデンの緩やかな対応策では、30日以内にスウェーデン人の50%が感染してしまうという内容で、 7月までに8万人以上が亡くなるというものでした。春以降、新型コロナウイルスはスウェーデンでは抑制されず感染が拡大し始めました。テグネルは言いました、「感染者数は増え続けていました。しかし、いずれ収まるので問題ないと思っていました。」と。しかし、まもなく、人口あたりの死亡者数がヨーロッパで最も高い国の1つになりました。それで、スウェーデンの緩やかな対応策に変更が加えられました。老人ホームへの訪問は3月30日に禁止されました。また、50人以上が集まることも禁じられました。テグネルは、死者数が増えたことを重視し、それで対応策に変更を加えたのでした。彼は私に言いました、「死者数が増えていたので、がっかりしていましたし、失敗したのではないかという気持ちも少しありました。」と。しかし、当時、彼はスウェーデンの対応策に対する自信が揺らいでいないように振る舞っていましたし、取材などで「1年後にスウェーデンの対応策を判断してください。」と何度も主張していました。